手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

創作をする 2

創作をする 2

 

 手順を作ると言っても、例えば、5分のスライハンド手順を作るのと、5分のトークマジック手順を作るのとでは作り方がまるで違います。スライハンドであれば、たくさんの技法や、ハンドリングと、時に全く違った作品をコーディネートして、複雑な手順を、簡潔にまとめ上げなければなりません。

 こうした手順を作り上げる作業は、一生の仕事になります。仮に若いころに作った手順であっても、多くの場合は、一生使い続けることになります。スライハンドマジックは、初作がそのマジシャンに人生を支配します。

 その手順をどう作ったらよいか、と、私に問われて答えるのは烏滸(おこ)がましいことです。簡単なことではありません。あえて言うなら、基本的なパターンを紹介するのみです。但し、スライハンド手順は一番お終いにお話ししましょう。

 

 次に、手順が既にできている作品。例えば、リング、ゾンビボール、クロースアップで言うならカップ&ボール、などと言った演技をもう少し自分らしいものにしたい。と考えて、アレンジを加える場合。これは、既にある程度手順が出来ていて、変化を加える余地はそう多くはありません。マイナーチェンジを加えるための手順作りなら、幾つかのアドバイスは出来ます。実際、私はこれまで手妻でほとんどの手順にアレンジを加えて来ました。

 

 もう一つ、トークマジックの場合。一作のマジックで5分も10分もかかる作品が普通に存在します。5分演じて、不思議の部分はお終いの一瞬だけ。などと言うマジックは普通にあります。喋りが多くなれば、マジックそのものは当然薄まってしまいます。そして不思議さよりも、笑いや、情緒的な要素が加わって来ます。

 それを見て、ある人は、「マジックに内容がない。よりマジックの詰まった内容が見たい」。と思う人があるでしょうし、また逆に、「こうしていろいろな要素を加味したマジックの方が見ていて楽しい」。と思う人もあるでしょう。観客の求めるものによって、かなりマジックの在り方が変わって来ます。

 

 ここでは手順物のマジックとして、12本リングについてのコンセプトをお話ししましょう。そして、創作マジックとして、植瓜術(しょっかじつ)の創作をお話しします。

 

 12本リング。このところ、12本リングを演じたいと言うマジシャンが増えて来ました。かつて、私の20代のころは、12本リングと言うのは、あからさまな批判の対象でした。その頃は3本リングが流行で、スローで、つなぎ外しを主体とした、不思議を強調する演技が主流でした。対して12本は形作りが主体で、ガチャガチャとせわしなく、雑然としていたため、「レベルが低い」。と否定され、冷遇されていました。

 確かに、12本の手順はそうした要素があります。私が子供のころに見た12本の演技は、初めにリングをつなげてお客様に渡し、それを集めて、繋がったリングを外すこともしないで、いきなり形作りをしていました。すなわち、2本のリングを持って、つなぎ外しと言うものがなかったのです。

 こうしたやり方が、本数の多いリングの典型の手順で、言ってみれば、ダイ・ヴァーノンのシンフォニーオブザリングも、2本のリングのつなぎ外しはほとんどなく、造形を見せるための手順になっています。ヴァーノンの手順の原型である、マックス・マリニーの9本リングも、12本リングも、スライハンドが発展をする以前の演技ではないかと思います。つなぎ外しを見せる技法が未熟だったため、それを補うために、造詣の面白さで観客の心を引っ張っていたのではないかと思います。

 古い作品を復活させようと考える時に、そもそも、なぜ古い作品が評価されないのか、何が不足しているのか、ということを徹底的に考えなければいけません。多くのアマチュアは、「12本リングは古い」、と言って、否定します。「古い」、という言葉ですべて斬ってしまうのです。こうした発言は創作の障害にしかなりません。創造とは、人が捨ててしまうような古い発想にこそ生き返る種があるのですから。

 私は12本は、マイナーチェンジすれば生き返ると思いました。12本リングには他の手順にはない優れた発想がいくつもあることを知っていました。例えば、初めにリング全てを渡してしまうこと。これはリングの持つうさん臭さを完璧に解消しています。実際渡さないリングの演技は不思議に見えません。

 次に、演技中何度もキーリングを手から離して見せる点。これも大胆で優れたハンドリングです。そして灯篭の見事さ。多くのリングの造形は、あまりいい形は少ないのですが、12本の灯篭はよく出来ています。

 つまり、十分素晴らしい長所がありながら、1960年代の若い人で演じる人はいなかったのです。では何がだめなのか。

 簡単に言って、前半のつなぎ外しが未熟なのです。つなげたものは、じっくり外し、又つなげて見せなければ、今日のリングの演技にはなり得ないのです。前半にお客様に渡して見せる。ここは長所です。その上で、返してもらったリングでつなぎ外しをしっかり見せる。ここに時間をかけなければフェアに見えません。

 その上で、後半は畳みかけるようにスピードを上げて、造詣を見せる。前半と後半を明確に別物にして演じて見せる。これが私の考えた12本リングの演じ方です。昔の演じ方では、前半も後半もなく、喋りながらゆっくり造形の説明をしつつ演じていたのです。それを、前半と後半をはっきり際立たせるために後半は、セリフを取り去って、音楽のみにしたのです。

 そのほか、細かな技法もいろいろ加えましたが、大まかなコンセプトは説明した通りです。12本の手順は20歳の時に改案して、今に至るまで全く変わっていません。いわば私のアレンジの初作です。前半の喋り部分を2分30秒で演じ、後半の音楽部分を2分30秒で演じます。合計5分の手順です。

 先週、こう言って、私は生徒さんに教えつつ、実際私が演じたところ、6分30秒かかっていました。この時、私は、「あぁ、もうこの手順は私が演じるべきものではないのかなぁ」。と思いました。

続く