手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

舟遊び

舟遊び

 

 去る4月12日に屋形船の催しをしましたが、その際、何件か、別の日にちで同じ規格を希望される方々がいらっしゃいました。年に何回か同じ規格をやってもらいたいとか、プライベートに屋形船を使いたいと言う依頼です。勿論、それは可能です。実は、コロナ以前は何度か、こうした企画をしていました。

 日本人だけでなく、EUの役員さんであるとか、大きな企業の経営者であるとか、企業のお得意様の招待であるとか、いろいろ経験いたしました。確かに屋形船で隅田川東京湾をめぐって、食事をして、その上で私の手妻を見ると言う遊びは、なかなか贅沢で、体験としても面白いと思います。

 通常、屋形船は芸者さんたちを別に頼んで、座敷遊びを船で楽しもうと言うことになります。大概の船宿は、芸者さんや、落語家などの伝手がありますが、手妻となると珍しく、これまでに、三か所の船宿さんから依頼を受けただけで、なかなか仕事としてはそうそう頻繁にはやっておりません。

 手妻は途中、お台場あたりで船を停めたときに演技を致します。通常30分から40分くらい致します。

 「船はどうも揺れるからいやだ」。と言う人もありますが、実際、東京湾の中で船を走らせる分にはほとんど揺れません。船内で立って歩いても問題ありません。

 食事は、刺身やてんぷらなどの和食で、アルコールも何でもあります。お客様を接待する場合でも、何も持たずに、手ぶらで集まってもらうだけで、全ての接待が出来ますので、接待係は楽です。

 東京湾から眺める東京の町はとても美しく、レインボーブリッジから、東京タワー、お台場、永代橋スカイツリー、東橋から眺める浅草寺など、日ごろ町中から眺める景色とは全く違って見えます。想像している以上に東京の町が美しくてびっくりすると思います。香港の景色が素晴らしいとか、サンフランシスコが奇麗とか言いますが、実際には東京が一番かも知れません。とにかく綺麗で風格のある街です。

 

 もし屋形船での舟遊びを考えている方がいらっしゃったら、最低人数で15人以上を集めて下されば、貸し切りは可能です。本来の江戸時代の屋形船と言うのは、もっと小さなもので、6人とか8人が乗れる小さな船なのですが、今は船のサイズが大きくなっていますので、どうしても15人くらいは参加者がいないと成り立たないようです。

 人数が多い分には100名でも対応が出来ます。無論、6人、8人でも可能ですが、その分料金が高くなります(料理を高級化して金額を上げる方法などがあるそうです)。費用としては、前回は、食事付き、私の手妻付きでお一人1万8千円で致しました(但し、前回の参加者は30人でした。人数が少なかったり、季節によっては金額が変わります)。

 まず基本的に15人以上の参加者があれば船の貸し切りは出来ます。出演者も、必ずしも私の手妻でなくてもいろいろ企画はあります。私の日程が無理な場合でも、大樹や大成、あるいは若手マジシャン。クロースアップマジシャンなど、何人かに依頼することは可能です。芸者衆、太鼓持ち、落語家なども声をかけることもできます。但し一人増えるごとに費用が掛かります。

 ご希望とあれば東京イリュージョンまでご一報ください。企画いたします。

 

 一時、私の二十歳くらいの時には、東京湾が汚れていて、どぶのような匂いがして、とても舟遊びが出来る状態ではありませんでした。その後河川の浄化が進み、この20年くらいは普通に釣り船を出して、鯵やキスや穴子が釣れるようになりました。

 船から海を眺めても、水は透き通って見えます。すぐ近くで魚が泳いでいるのが見えます。お台場で船を停めて、食事をしますが、その時、あちこちで魚が跳ねるのが見えます。かなり大きな魚が飛び跳ねますので、びっくりします。

 船を出して、釣りをして、その場で天ぷらにして食事をすると言う企画もありますが、釣れないときは食べるものがありませんから、事前に食材を用意しておいて、その上で何か釣れたら天ぷらにする。と言うようにしているようです。但し、船の時間を長くしなければいけませんし、また、釣る魚によって、係留する場所が変わります。釣り好きにとってはたまらない話です。

 

 船宿は東京に何軒かありまして、品川や浅草橋、浅草近辺にそれぞれ何軒か船宿があります。便利なのは浅草近辺で、船から上がった後に、もう一か所どこか呑みに出かけられますので便利です。

 

 屋形船は、船の中に座敷が拵えてあって、屋根がついています。ガラスの窓が全面についていて、障子が締まるようにもなっています。形は昔の通りですが、和船ではありません。通常の船に、上部だけ木造の建物を乗せた形になっています。トイレも台所もついています。天井高が低いのが難点ですが、船の構造上、高い建物を建てられないのでしょう。

 そのため私が蝶を飛ばすときには、私の頭の高さと天井がぎりぎり擦れますので、少し腰をかがめて演技を致します。これがなかなか難しく、巧く高くは飛ばせません。更に天井にエアコンがついていたりすると、風の勢いで蝶がどこかに飛んで行ってしまいます。無論、事前に蝶を飛ばすときだけエアコンは切ってしまいますが、難しい場所であるのは間違いありません。

 但し、見渡す限り室内は全面日本建築ですので、雰囲気は最高です。夜の運航では屋根の庇に提灯がずらり並んでいて、灯りを灯しますので、暗い海の上を、たくさんの提灯が並んだ屋形船が進んで行くのは、まるで江戸時代にタイムスリップしたようでとてもいい雰囲気です。

 

 おかしな話ですが、東京に暮らしていると、東京が海の近くであることを認識することはめったにありません。日頃移動する場所が、銀座から新宿であるとか、高円寺から浅草であるとか、全く海を見ることなく、勿論船に乗ることなどなく、海とのかかわりを持たずに暮らしています。そのことを日ごろは何とも思っていないで暮らしています。

 然し、屋形船に乗ると、自分が島の中で暮らしていることを再認識します。八丈島とか、小笠原島とかのパンフレットを見て、「ああいう離島に行ってみたい」。と思っている人はたくさんいますが、実は、我々は既に島に住んでいますし、言って見ればみんな生まれながらに島育ちなのです。そう考えると、もっともっと海とのかかわりを持って、海を生かして暮らすことをもう少し考えたら、より生活が楽しくなるのかなぁ、と思います。と言うわけで、年に一度は海に親しむ日があってもいいのではありませんか。

続く