手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ドル高 円安って何

ドル高 円安って何

 

 「円が1ドル160円になってしまって大変だ」と、ニュースで騒がれています。外貨で貯蓄をしている人とか、輸出入を商売にしている人には大きな問題でしょう。然し、多くの人にはなぜ円が上がると大変なのか、円が下がると大変なのか。そもそも相場とは何か。さっぱりわかりません。

 円高の方が日本は儲かるのか、円安の方がいいのか。どっちなんだい。と問うても、なかなか明快な答えは出て来ません。

 先ず、私の浅い知識で申し上げましょう。円高になっても円安になっても、日本は儲かる人がいますし、損をする人がいます。円もドルもユーロも元も、通貨は相場で毎日交換比率が変わります。円が安くなると輸入業者は利益が圧迫され、利益が減ります。

 100円ショップを考えてみてください。どれも100円で商売しているわけですが、中国から50円で品物を買って、日本で100円で売っていた時には、二倍儲かったわけです。ところが、同じ品物が、円の価値が160円に下がれば、中国の元のレートが60%高くなりますから、仕入れ値が80円になってしまいます。80円で仕入れて、船で輸送して、家賃を支払って、人を雇って100円で販売しても利益が出なくなります。円安になれば、100円ショップは儲からなくなります。

 同様に、ガソリンです。ガソリンはほぼ100%輸入です。それまで130円くらいで販売していたガソリンが、円安になれば、すぐに180円、190円になります。これはガソリンの元値が上がったのではありません。日本円の相場が下がったのです。

 ちなみに、かつてドル100円の相場だったものが、160円になったにもかかわらず、円が下がったと言うのは不思議です。100円よりは160円の方が高いのではないかと勘違いします。これは数字のトリックで、ドルを基に円の値段を表記しているために日本円が増えているように見えるのです。

 昔は日本全体が物を輸出することで国が成り立っていたために、ドルを基準に相場を書いていた名残なのです。本来は100円で何セントと書くべきなのです。20年前なら、100円で1ドルだったものが、今は100円で65セントですから、100円で1ドルの物が買えたのに、今は65セントの物しか買えないわけで、円はドルに対して大幅に価値を下げたわけです。

 さて、円の相場が下がって、石油の値段が上がったとしても、多くの人からすればは、タクシーなんか乗らなければいい。運送業なんか関係ない。だから自分には関係ない。そう思うのは大きな間違いです。いま日本でトラック輸送を利用しない商品はありません。魚でも、野菜でも、アマゾンの商品でも、石油の値上げは輸送費の値上げになり、更に輸入品の価格が上がるわけですから、それは二重で商品の値上げになります。

 然し、然しです。いくら輸入品が高くなったとしても、輸出で儲かれば、プラスマイナスゼロですから、広い目で見たなら日本で生活する分には何も問題はないはずだ。と考える人があります。

 実はその考えは昭和の考え方なのです。日本が1ドル360円で経済が動いていた時代は、まだ日本人のほとんどは海外旅行もせず、輸入品もほとんど買わず、せっせと働いて、家電や、自動車、繊維などを作って輸出をしていました。その頃は、円が安ければ、一方的に海外で日本製の商品が売れて、日本人の生活は潤っていたのです。

 ところが余りに日本が儲かり過ぎて、不公平だと言うことになり、1ドル360円と言う固定相場をやめて、変動相場に切り替わりました、すると円はどんどん価値を上げて、私が24歳くらいのころには1ドル220円くらいになりました。昭和53年くらいのことです。円の価格が30%くらい上がって、海外旅行などしやすくなりました。私がヨーロッパのFISMなどに出かけるようになったのもこの頃です。海外旅行なんて夢のまた夢だった時代に20代の若者がヨーロッパやアメリカに行けるようになったのです。

 つまりこの時代は、円が高くなれば、直接的に国民がその恩恵を受けたのです。それでもそもそも日本人の所得が低い時代でしたから、アメリカやヨーロッパでホテルに泊って食事をすると言うのはとても贅沢で、飛行機代が東京ロサンゼルスの往復で40万円近くかかりましたから、一週間の旅行で60万円くらいの出費をしました。楽な旅行ではなかったのです。

 

 話を戻して、いま日本が円安だからと言って、何かメリットがあるかと言うと、実はそのメリットを探すのが難しいのです。円安ならば輸出がしやすくなって、自動車でも家電でも売れると思います。売れれぼ日本人の所得が上がって儲かるはずです。

 然し、実は、日本の大企業は、相場の上下に左右されて儲けがなくなることを恐れて、自動車などはアメリカやヨーロッパで現地生産しています。円が上がろうが下がろうが、利益は一定で、相場の差益は生まれず、日本人の収入には関係ないのです。そうなると、輸入は日本人の生活を脅かし、輸出は日本人の生活とは余り関係ないと言うことになります。それだと相場の変動はマイナスばかりが目立つようになります。

 昭和のニュースで、円高になって輸出が伸びないとなると、きまって燕三条の洋食器メーカーが映像で映し出されて、ナイフを薄く削って、少しでも材料費を浮かせていると言う説明がされていました。然し、ナイフ一本をいくら削っても、鉄の値段何てそもそもが安いのですから、一本5円と値下げは出来ません。むしろ余計に削れば人件費の方がかかってしまいます。そんな映像は嘘に決まっているのに、円高になると決まって洋食器メーカーがやって行けないと言ってナイフを削ってました。

 でも結局、日本人がやって儲からないことは、中国に仕事を持って行くことになったのです。かくして日本の町工場はどんどん衰退し、代わって中国製品が日本に出回るようになりました、その結果が今の100円ショップにつながっているわけです。

 円安は放置していてはいけません。そうしないといくら稼いでも石油代にどんどん持って行かれてしまいます。結局この先は石油を産出して、産業の盛んな国がリードして行くことになります。そうなると、アメリカか、ロシアが強い言うことになってしまいます。何とかそこに日本も加われるようにしなければいけません。いい工業製品を作り、海から天然ガスや、レアアースを吸い上げ、マジシャンを海外に売り込み、エンターティナーで稼ぎ、利益を作らなければいけません。

続く