手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ロシアの誤算

ロシアの誤算

 

 当初ロシアは、ウクライナ侵攻にあたって、決してNATOウクライナに協力をしないし、ロシアの邪魔だてはしないだろうと読んでいました。

 そもそもウクライナNATOに加盟していませんし。地理的に見ても、ロシアの強い影響力下にある国ですから、積極的にヨーロッパ諸国が関与できない地域であると思っていました。そう思っていたのは、ヨーロッパ各国も、ロシアも同じでした。

 どちらの陣営もウクライナはロシアの属国と思っていたのですから、ウクライナがいかに独立を訴えても、勝負は既に見えていました。

 

 ところが、ゼレンスキー大統領が、巧みにSNSでの情報を流すことで、徐々に世界中からロシアへの非難が高まり、ウクライナの捨て身の戦法が世界中から共感を得て支持者が増えて行きました。

 それでもロシアは当初は余裕でした。決してNATOウクライナに直接関与しないと言う自信があったのです。その根拠は石油や天然ガスです。ヨーロッパの多くの国は、ロシアから、石油や天然ガスを買っています。もし、ヨーロッパ各国が、ウクライナ問題でロシアと敵対するようなことがあれば、直ちに「石油、天然ガスを止めるぞ」。と威嚇すれば、ヨーロッパは沈黙するほかはないだろう。と読んでいたのです。

 実際、ドイツなどは、大量にロシアから石油や天然ガスを輸入していましたので、それを止められたら、国家が生存出来なくなります。そのため、当初、ウクライナ侵攻には、見て見ぬふりをして関与しなかったのです。

 ところが、ヨーロッパ各国が、一斉にウクライナの支援を始めたため、ドイツも動かざるを得なくなります。結局ドイツは憲法を改正してまでウクライナの支援を決めます。これはドイツにとっては危険な賭けになります。なぜなら、いまだロシア以外の石油や天然ガスの輸入先は決まっていないのですから。

 

 一方、ロシアの方も、まさかのヨーロッパによるウクライナ支援の輪が広がり。しかも戦局は失敗続きで、暗雲が立ち込めて来ます。更には、ヨーロッパやアメリカの制裁がきつくなり、金融や経済面が脅かされ、徐々にロシア経済を圧迫して行きます。

 元々、天然資源を売る以外、主だった収入のないロシアでは、石油、天然ガスがあるからこそ大国の体面を保って行けたわけで、それを売らないとなれば、収入の道が閉ざされてしまいます。ヨーロッパ各国がウクライナ支援に回ったとなると、すぐにでも石油、天然ガスを止めたいところではありますが、止めてしまっては逆にロシア経済が成り立たなくなります。そうなると簡単にロシアは制裁が出来なくなります。

 逆に見たなら、ドイツが、ウクライナ支援に踏み込んだのは、ロシアがおいそれと天然資源を禁輸できないと見込んだ上での決断だったのでしょう。

 戦争というのは、貧しい国では戦争は出来ません。国が貧しくて破れかぶれの戦争などと言うものは、できないのです。10万人の軍隊を動かすと言うことは、毎日30万食の食事を用意しなければなりません。三食で1000円かかったとしても、一日3億円かかります。三か月駐留させれば300億円かかります。他に石油燃料費、弾薬、医療費、服装に靴や手袋、ヘルメット何から何まで用意しなければ戦いは出来ません。10万人の兵を動かすことは、兆の額の費用が掛かります。先ずそれだけの国家に財力がない限り、軍隊は動かないのです。ロシアはそれをまかなうだけの天然資源の売り上げがあるから、ウクライナに侵攻したのです。

 

 世界の歴史を眺めても、第二次大戦の時のドイツもイタリアも日本も、一早く世界恐慌から脱出して、豊かな経済活動を歩み始めていたのです。ナチスドイツも、ファッショのイタリアも決して力ずくで国を奪ったわけではなく、経済政策で成功を収めた成果をもとに選挙をして、政権を獲得したのです。日本も、昭和6年以降は経済が立ち直り、加えて満州開発が出来るようになって、にわかに日本経済が活況を呈しました。それによって、多くの軍事装備が充実して行ったのです。

 国は本当に貧しければ戦争など出来ません。豊かな経済の裏打ちがない限り戦争は無理なのです。然し、豊かな国がなぜ戦争を起こすのかと言えば、国が豊かになって、自己主張が出来るようになると、心の不満が吹き出して、昔の問題を掘り起こして、リベンジを果たそうとするからです。心の奥にある怨念こそが戦争の起爆剤になるのです。第二次世界大戦第一次世界大戦のリベンジなのです。

 ロシアは第二次世界大戦で、一方的にドイツ軍に攻め込まれ、市民、軍人を併せて3千万人の死者を出します。日本が太平洋戦争をして、日本兵と日本人の死者は300万人です。ロシア一国で3千万人の被害がいかに大きなものかがわかります。

 然し、ロシアは戦後ドイツに対して賠償を求めませんでした。なぜか、それは、賠償金以上の、ドイツの占領地を手に入れたからです。東ヨーロッパ全域がロシア(当時はソ連)の衛星国になりました。ロシアの歴史が始まって以来最大の版図です。

 それが、ベルリンの壁崩壊後はロシアの衛星国は、次々にロシアから離れ、NATOに加盟するようになりました。そして、ウクライナベラルーシは最後の砦となったのです。ロシアにすればこの二つの国を失うことは出来ません。3千万人のロシア人の命と引き換えに手に入れた土地なのです。NATOがなんと言おうと、アメリカがなんと言おうと、ここを譲ってしまっては第二次世界大戦のロシアの戦いが無になります。

 だからロシアはウクライナを独立させることは出来ないのです。然し、そんなロシアの理屈は、もう通用しないところに来ています。この先、ロシアの言うことを聞く衛星国はなくなるでしょう。ロシアの頑なな態度は、世界の国々による、ロシアへの制裁がこの先も続くことになります。ロシアの立場は刻一刻と悪くなるばかりです。この先10年で、われわれはロシアと言う国の終焉を見ることになるでしょう。

続く