手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

職人が消えて行く

職人が消えて行く

 

 昨日は、午前中に踊りの稽古に行き、そのあと浅草に出て、金襴生地を買いに行きました。実は、今まで40年以上も金襴の生地を買い続けてきた丸金さんと言う店が昨年閉店してしまいました。この店は、私が今の家を建てたよりも少し前に、店を建て替えています。その店が、黒瓦の色のレンガを壁に張ってあって、奇しくも私の家と同じ素材でした。そのため親近感を感じ、よくこの店で金襴を買いました。

 そこは品数も多く、いろいろの金襴を扱っていました。通常金襴と言うのは70㎝幅で織られています。丸金さんには90㎝幅の金襴もあり、私のお椀と玉のお椀を包む金襴はこの寸法でないとお椀を包みきれません。

 このところあちこちから、お椀と玉の注文があったので、それなら数個作ろうかと、金襴を探すと、90㎝幅の金襴がどこにもありません。いろいろ探してみると、丸金さんの近所に高橋商店と言う金襴屋さんがあることが分かりました。場所は、地下鉄稲荷町からほどなく、大通り沿いにありました。

 さて、出掛けてみると、品数はそう多くはありません。然し、90㎝幅の金襴が一つありました。それを4mほど買いました。

 品数を見ても、なかなか金襴で店を維持していくのは大変なようです。息子さんが手伝っていますので、先ずは安心でしょう。なぜなら、高橋商店を知ったのはインターネットを見たからで、ネットがなかったら出会うことはなかったのです。恐らく息子さんが頑張って店のネットを作り上げたことが、私のような小口の客を掴めたのです。

 金襴は、元々、お寺さんの座布団や、仏壇飾り、袈裟などに使われていますが、このところお寺さんの注文も少ないようです。

 又。民謡や、歌謡曲の舞踊などの帯や袴などにもよく使われますが、一時期はかなりたくさん注文があったようですが、民謡や、歌謡曲を趣味で踊るおばさん方も減少し、今では金襴の需要も限られています。

 お雛様などの日本人形の衣装にも金襴は使われていますが、少子化の影響か、ここもやはり不景気で、人形の需要は落ちています。

 そうなると、伝統的な金襴の織元はやって行けず、廃業するところが数々出ているようです。残念です。日本独自の文様と、織の技術を持った金襴がどんどん消えて行っています。私が何とかして大量に手妻の道具を作って上げられればいいのですが、年に一度来て金襴生地を4m買う程度の客では、いい客の内には入りません。結局せっかくの産業も消えて行くのです。

 

 金襴屋さんを出ると、近くが合羽橋ですので、いつもの塗り物屋さんを見に行きます。さてここもめぼしいものがありませんでした。かつてはあらゆる漆塗りの椀があったのですが、今、漆は扱いが面倒なため、ユーザーに敬遠されがちで、どんどん樹脂製の椀に変わっています。無論樹脂の椀では、色も風合いも見劣りしますが、そんなことは関係ありません。安い方が売れます。

 それでも適当な椀を21個注文しました。然し、今日は車で来ていません。それを持って歩くのは大変なので、送ってもらうことにしました。

 

 それから蔵前の町田糸店に寄って、房を買うことにしました。町田糸店は、江戸通りに面していて、百年以上続く老舗の糸店です。石造りの立派な店で、ちょっと見た目は銀行のような作りです。糸屋さんとしては最も成功した店なのではないでしょうか。

 私は40年以上前から、町田糸店を利用しています。組紐(くみひも)や房紐(ふさひも)がたくさんあるため、組紐を買うときには必ずここで買っています。ところが、行ってみると、一階がコンビニになっていました。まさか閉店したのかと思うと、お店は二階に移動しています。いや、驚きました。まさか町田糸店が二階に移動するとは。

 でもよく考えて見れば、これほどいい場所にお店があって、房紐や組紐を販売していて、大勢人を使って安定して会社がやって行けるかどうかと考えたなら。やはり時代は房紐にはないのかも知れません。

 お目当ての房は手に入りましたが、果たしてこの先も安定して房や房紐が手に入るものかどうか、心配になります。

 恐らく房紐は専門の職人がいて、その作業はほとんど手仕事で、糸を縒って、木片にまとめ、糊付けして形を整えているのだと思います。寸法も図面もなく、決まりきった仕事を手先の勘で、何十年、何百年も続けてきたのでしょう。

 この仕事も今の職人がいなくなれば作る人はいなくなる可能性はあります。そうなら今のうちに房紐を数百個買い占めておけばいいのですが、結構高価なため、何百も買い占めるのは容易ではありません。あぁ、私にもっと力があれば、多くの職人に仕事を提供できるのになぁ。と悔やまれます。

 と言うわけで、浅草、合羽橋、蔵前とうろうろ歩いて買い物をし、家に帰りました。随分と歩きましたので少し疲れました。

 

 そこへ、うまい具合に早稲田の柳澤錦君がやって来て、私にマッサージをしてくれました。錦君は、このところマッサージに凝りだして、マッサージのコツを覚えたそうで、やたらに人にマッサージをしたがります。

 世の中には、私の様に万年肩こりの続いている者がいるかと思えば、マッサージをしたい奇特な若者がいます。うまく出来ています。早速マッサージをお願いしましたが、巧いものです。肩を押しただけで、脳までピリピリと刺激が上がって、そのあとは肩が楽に動きます。まるで魔法です。

 お礼にワイルドターキーのハイボールをご馳走して、彼の演じる5枚カードをちらりと見てアドバイスをしました。

 聴くところによると、バイオリンの稽古でたびたび高円寺に来るようです。そうなら何か聞かせてくれと言うと、バッハのシャコンヌを演奏してくれました。いや、見事な演奏です。子供のころから続けているそうです。シャコンヌは、ハイボールを飲みながら聞くような曲ではなく、しみじみとしたストイックで静謐な曲です。

 なかなか見事な演奏でした。できれば毎週来てくれて、マッサージをしてくれた上で、バッハでもモーツアルトでも聞かせてもらえたなら、贅沢なひと時が味わえて幸せです。

 それがためなら、ワイルドターキーは欠かさないようにしますし、生ガキや、ブリの照り焼きぐらいは用意します。こんな日が毎週あるなら私は幸せです。

続く