手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

理想の国

理想の国

 

 子供のころアメリカのテレビドラマを見ていると、アメリカ人はみんな大きな家に住み、大きな自動車に乗って、大きな冷蔵庫にたくさんの食べ物が入っていて、家族が大きなソファーにくつろいで、楽しそうに何不自由ない生活をしているように思いました。

 それが20年後くらいに実際アメリカに行ってみると、様子は随分変わっていて、かつて幸せそうに暮らしていたであろう、ダウンタウン近くの住宅街は、廃墟のようになっていて、黒人やラテン系の人が住んでいて、家は壊れているのに修理もせず、夏でもクーラーがなく、見るからに貧しそうで、とても幸せそうな生活には見えませんでした。

 車社会とは言いながら、道路はどこも凸凹で、高速道路もアスファルトのはがれているところがあちこちにあり、とても危険でした。自動車も、傷だらけ、壊れたままの自動車が走っていたりして、とても豊かな社会とは言えませんでした。

 どこの都市も町の中心は立派なビルが並んでいますが、そこはビジネス街で、近くにはほとんどショッピングストリートと言うものがなく、人通りもほとんどないのです。

 豊かそうな白系の人は、郊外の住宅街に住んでいて、そこは見るからに生活程度は高いのですが、多くは夫婦二人で暮らしています。その地域は確かに治安は素晴らしく、怪しい人たちはいません。然し、どこに行くにも自動車を使わなければならず、日本のように毎日手軽に近所で買い物すると言うことは出来ません。

 恐らく、買い物は月に一、二度、郊外のショッピングセンターでまとめ買いをする以外なく、気軽にダウンタウンに出てウインドウショッピングをするなんて言うことはしないようです。

 家族は三世代で暮らしているとか、子供が何人もいると言う様子は見かけません。かつては何人か子供がいたのでしょうが、育った子供たちは別の地域で暮らしています。大きな家に夫婦二人でポツンと暮らしているのです。かつてのアメリカのホームドラマの世界はどこに行ってしまったのか、大きな家や大きな自動車は持っていても、なんだか空虚な気持ちになります。日本の暮らしの方がよっぽど楽しいのではないか、そう思います。

 それは私が楽しいかどうかではなく、アメリカ人自体も、今の生活を楽しいと考えているのかどうか。収入があって恵まれた生活をしていても、それが本当に幸せかどうか私にはわからなくなります。

 これが1970年代から80年代のことで、どうやらその後、アメリカ人は、街の再開発を真剣に考えるようになったらしく、例えば、ロスアンジェルスは、街に地下鉄を引いたりして、それまで荒れるに任せていたハリウッドの街を、観光客が安心して歩けるように治安も気を使うようになり、怪しげな人を排除して、商店も奇麗な店が並ぶようになりました。

 ハリウッドの中心にあるチャイニーズシアターから、マジックキャッスルまでは歩いてわずかに3分ほどですが、この3分が、かつては何とも危険な地帯で、信号のたびごとに仕事のない黒人が数名たむろしていて、彼らの前を通り過ぎるのは常に危険と背中合わせでした。人の少ない道には浮浪者が座っていて、金を欲しがります。とても観光客にお勧めできるところではなかったのです。

 その頃キャッスルに出演していた時に、ホテルに戻る際に、マックスメイヴィンが、「危ないからついて行ってあげるよ」。と言って一緒にホテル近くまで付いてきてくれました。あの悪魔の形相をしたマックスさんがついてきてくれたのですから、この時は怖いものなしでした。出来ることなら毎日マックスさんを雇いたいと思いました。

 然し、2000年ころから、いろいろ街の開発がされて、随分ハリウッドも活気が出て来ました。同様に、ニューヨークも、シカゴも、サンフランシスコも、浮浪者や妖しい連中がたむろすることが少なくなり、商店も活気が出て来ました。

 それでも、ロスアンジェルスのような大都市では、例えば、日本人町であるリトル東京はなかなか繁盛していますし、チャイナタウンも結構人がいます。然し、リトル東京からチャイナタウンに移動する途中の通りは、依然として怪しげな人がたむろしていますし、低所得層の廃墟のような住宅街がそのまま残されていて、街は汚れたまま、近付いては危険な場所がたくさんあります。

 これはアメリカ全体の共通した問題なのでしょう。一朝一夕には解決しないのです。どうも大国と言うものは、アメリカであれ、ロシアであれ、中国であれ、インドであれ、常に極端な貧富の差が同時に存在していて、なかなかみんなが平等にはなり得ないのでしょう。

 一体アメリカのドラマに見るような、平和で幸せな時代があったのかと考えると、アメリカの国力が強力だった1950年代でさえ、黒人やラテン系の住民は差別されていましたし、黒人に至っては奴隷という呼び名はずっとついて回り、黒人が一般のレストランに入ることも出来ず、映画館やバスでは白人席と黒人席が分かれていたそうです。

 無論、今ではそうしたあからさまな差別はなくなりましたが、だからと言って何から何まで平等になったとは言えません。目に見えない差別は続いているのです。

 そうであるなら、私が子供のころに見ていた幸せそうなアメリカのホームドラマは、アメリカの白人社会の生活のみを捉えていたのであって、その陰には黒人差別が根強くはびこっていたことになります。アメリカの歴史の中で、黒人が白人と平等に暮らせた時代などなかったのでしょう。

 

 話は変わりますが、大谷翔平選手がハワイに土地を買い、別荘兼、トレーニングルームを兼ねた家を建設中だそうです。金額は25億とも30億円とも噂されています。つい先月26億円一平さんに抜かれたのに、全然平気です。すごいですねぇ。このところ大胆に自分の生活のために投資をしています。

 やはり、やることなすことけた違いですね。こうしてアメリカ一番のスポーツ選手が日本人であることは誇らしいことですし、自らの力で差別など吹き飛ばしてしまうのは素晴らしいと思います。日本人が素晴らしいと思うと同時に、有色人種や黒人社会にも希望を与えているのではないかと思います。

 金があってもなくても、どんな生活をしていてもいろいろな問題はあるかと思いますが、それでも人の成し得ないような生き方をして見せる人には憧れます。

 私も、世界一のマジシャンにはなりたいとは思っていましたが、今となってはもう無理です。せめて、東京一番、いや、高円寺一番のマジシャンでありたいとは思います。急に話は小さくなってしまいました。

続く