手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

コロナ禍での大阪

コロナ禍での大阪

 

 数日前、久々大阪の街中を歩きました。先ず道頓堀にある劇場、ZAZAに行って、11月26日のマジックセッションの打ち合わせをしました。

 マジックセッションは、開催そのものが危ぶまれましたが、実際チラシを作って、9月20日から販売を開始しました。すると、ネットでの切符の売れ行きは良く、この調子なら半月以内で完売するのではないかと思います。

 プロ、アマチュアも一緒に出演する舞台と言うのは大阪では珍しい企画です。しかも、東京と関西のマジシャンの合流はなおさら珍しいため、毎回人気は高く、常に満席です。

 この実績を生かして、来年は2日間の開催に持って行きたいと考えています。行く行くは3日間開催にします。同じ場所に同じメンバーで3日間出演できれば、随分演技を見直すことには役立ちます。一回こっきりの舞台では直しても次に演じる場所がありません。3日開催はマジックの芸能の質向上に大いに役立つと思います。そのため、11月26日は何としても成功させなければいけません。

 そして出来ることなら次回には、コンテストも行いたいと思います。次に出る人のためにコンテストをして、賞状と賞金を出したいのです。無論、入賞者は次の会のゲスト出演が出来ます。そんなコンテストがあったならきっと多くのマジシャンが集まると思います。東京と大阪と、二つのコンテストを開催したら、いい人材が集まるでしょう。更に、二つのコンテストをまとめたコンテストも開けば、やがては日本最大のマジックコンテストになって行くかもしれません。そうなる日が楽しみです。

 

 さて、そのZAZAですが、なんせ道頓堀通りに人が少ないため、スタッフも活気がありません。日頃はお笑いの若手のライブを中心に行っている劇場です。表で若手が呼び込みをするのですが、平日はあまりに人通りが少ないため、平日の開催はやめたそうです。まったくお気の毒です。

 お笑いライブが成り立たないくらいですから、周辺の飲食店もお手上げ状態で。店を閉めてしまったところが随分あります。確かに道頓堀を歩いてみると、店を閉鎖しているところが幾つか見えました。びっくりです。

 未だかつて道頓堀で店が何軒も閉鎖する光景は考えられなかったことです。それでも私が出かけた21日は、平日にもかかわらず、心斎橋も戎橋も、かなり人が出ています。高島屋の地下に土産を買いに行きましたが、高島屋も人出はかなりあったように思います。

 ところが道頓堀は、中国や韓国人の観光客にシフトして、薬や、土産物を売る店がたくさん出来たため、コロナで裏目に出て、外国人が激減し、日本人には敬遠され、人出がいまいちなのでしょう。

 それでも、この一週間で感染者数が急激に下がっていますから、緊急事態の解放も近いのではないかと思います。

 

 さて、そのあとで、お好み焼きの千房さんの本社に伺い、会長さんにお会いしてZAZAの広告をお願いに伺いました。正直、コロナ禍で一番大きな影響を被っているのが、千房さんのような飲食店です。500人の従業員を辞めさせることなく何とか営業しているそうです。

 然し、この二年間の赤字だけで10億円だそうです。それでも会社に実績がありますから、銀行や、金融機関はどんどん貸してくれるそうです。会社の中も思っていた以上に明るく見えましたので、少し安心しました。

 マジックセッションへの広告の協力もお願い出来ました。一安心です。

 

 さてその千房さんのオーナーは中井政嗣さんと仰って、テレビにも出演する、人気のある経営者です。頻繁に講演活動もしています。その中井さんが、「藤山さん、『有難う』の反対語はなんやと思います?」と質問されました。咄嗟に有難うの反対語と言われても何とも答えられません。

 「『有難う」の反対語は有り難くないではないんです。『当たり前』と言うことです。当たり前と思っていては、有難うと言う言葉は出て来んのです。そうでしょう。毎日が健康であって、それが当たり前だと思っている人には健康の有難さは分からんでしょう。何でも親がしてくれているときには親の有難みは分からんでしょう。商売も同じです。

 毎日毎日店を開ければお客さんが来るというと、お客さんの有難さは分からんのです。こうして、コロナでお客さんがさっぱりこんようになって、初めてお客さんが来てくれることがなんと有り難いことかと、身にしみてわかるんです。

 そうして考えたなら、コロナは私らにあらためて商売を教えてくれたんですな。だから、考えようによってはコロナは悪いことばかりやないんです。有難うと言う言葉を教えてくれたんです。感謝せなあかんのです」。

 何と驚いたことに中井会長はコロナに感謝していると言うのです。10億も借金をして、この先どうなるのかもわからない状況で、コロナは有り難いと言うのです。世の中にはすごい人がいるものだと思いました。

 物の発想は常によき方向を考えなければ前には進まないのです。コロナがないときも有り難い、コロナがあっても有り難いと思える気持ちは大きいと思います。

続く