手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

濃厚な大阪セッション

濃厚な大阪セッション

 

 一昨日(12月9日)、新幹線で大阪に向かうまでをブログに書きましたが、その後のお話。大阪に着いて、道頓堀のZAZAに到着すると、遅れていた大成、朗磨から新大阪に到着したと電話が来ました。良かった。最悪の事態は免れました。私と20分遅れで彼らの行動は進行しています。

 道頓堀は、朝早くから観光客で混雑しています。「あぁ、この人通りの0.1%でもマジックに興味を持ってくれるお客様がいたなら、連日道頓堀でマジックショウが開催できるのに」。人通りを眺めながら、マジックはその人々の興味を得られないことを残念に思います。

 ZAZAには既にキタノ大地さんが来ており、ほどなくして大成、朗磨到着。早速楽屋の席割りや、道具のセットを始めます。その間音響照明のセットが進行し、午後からリハーサル開始。5時客入れ。5時30分ショウスタート。以下その感想。

 一本目は朗磨、内容は中華蒸籠。技量はまだまだ。舞台に落ち着きがありません。大学1年生で19歳です。然し、大成は、同じ年に大阪国立文楽劇場の一本目に出演しています。「自分の人生で最も素晴らしい劇場だった」。と今でも言っています。そうなら朗磨もZAZAくらい出してやろう。そう考えて出しましたが、もっともっと練習が必要です。

 二本目は魔ほうの愛華。新しく作った傘手順です。実は私が指導した内容です。練習中はどうも人前に出すのは不安でしたが、その後に猛練習したらしく、巧く仕上がっていました。かぐや姫をテーマにして、平安の絵巻を再現したいようです。もうあと一年かけて細部にこだわって行けば、得意芸になると思います。観客の受けは上々。

 三本目は黒川智紀。私が大阪セッションを立ち上げた時から注目していた若手でした。ダイスを使ったメルヘンチックなアクト。面白いとは思いましたが、途中でプロになったと言うので、「あの学生アクトが世間一般のステージで通用するのだろうか」。正直心配しました。

 それから何年かぶりで演技を見ましたが、確実に進化を遂げていました。小さなマジックが加味され、どれも不思議に作られています。筆の上でダイスが踊る。空中に筆で線を引くと白いラインが出来る。そのラインが一瞬にダイスに変化。どれも大きな不思議ではなくても、自分の世界を組み立てています。誰の真似でもない、自分の心に忠実に世界を作っています。黒川さんを見直しました。観客の反応も上々でした。

 4本目は私。二つ引き出しと植瓜術。実は私が4本目に出るのは数日前に閃いて、順番を変えたのです。今までのように実績や年功順に出番を決めるのではなく、海外で受賞したり、熱心に活動している人を後半に出してみよう。と思い、私が一部のトリを取って、二部は頭がボナ植木。そして、そのあと三本を橋本昌也、JONIO 、藤山大成としてみました。出番と言うのは、後になればなるほどプレッシャーが半端なくかかって来ます。小さなミスをしても、後に出る人は観客の見る目が厳しくなります。それをここで体験するのはいいことだろうと判断して決定しました。結果は今まで以上に密度の濃い白熱した舞台が出来ました。

 私の舞台は、キタノさんを才蔵にして、掛け合いをしました。現代のマジックで掛け合いと言うのは珍しく、恐らく私以外でする人はいないでしょう。喋りの面白さを前面に出して、瓜の種から芽が出て、弦が伸び、瓜が生るまでを15分で演じます。

 キタノさんは私に突っ込んでもらう事が楽しみなようです。。日頃大阪で北野さんに突っ込みを入れるマジシャンはありませんから。私の突込みと、キタノさんのボケが絡み合います。かなり舞台は白熱して、喋りの好きな大阪のお客様にとっては満足な内容だったようです。

 

 休憩をはさんで、二部の一本目はボナ植木、本来トリを取る立場の人なのですが、頑なに拒んで、ここに出ることになりました。二択や三択の当て物を、種明かしを交えて面白く見せます。このところボナさんも独自の進化を遂げていて、個性的な喋りが出来てきたように思います。お客様にも好意的に受け入れられていて、盛り上がりを見せました。確かにトリを取ると言うよりも、途中を盛り上げるタイプの芸だと納得します。

 2本目は橋本昌也、一連のロープを使ったアクトと、掃除用具を使ったカード当て。何度か彼の舞台を見ていますが、喋りの充実を感じました。真面目に話は進行しますが、その真面目さが生きています。カード当ても個性的な作品に仕上がっています。彼の舞台を見ているとアメリカのジョナサン・ニール・ブラウンを思わせます。真面目でひたむきな姿勢が多くの観客に愛されています。いい演技でした。

 3本目はJONIOONIO。内容は、髭とコインを使ったFISMアクト。演技に安定感を感じます。喋りが一層充実しています。さらに追加演技でビニールテープを使ったサムタイ。いいものが見られました。

 4本目は、大成。文楽劇場に出演してから何のかんのと10年が経ったことになります。毎年大阪に来て演技をしてきました。ここでトリを取らしてやろうと言うのは、親心です。然し、プレッシャーは相当だったらしく、緊張していました。

 演技は、自己陶酔が病的に進み、怪しげな世界が出来ていました。細かなマジックはどれも不思議で、羽根の出し方もきれいですし、手妻としても上手く演じています。後はこれに方向性が出来たなら、大きく成長するでしょう。大樹も、変面を狐の演技にまとめることで成功を掴みました。単なる変面ならほとんど注目されなかったでしょう。大成はこれからが正念場です。

 終了後、相変わらず大阪のお客様はなかなか去りがたく、ロビーで出演者と話をしています。お客様もこの時間が楽しみなのでしょう。暖かい観客に助けられて7回の公演が続いたのです。有難いことです。

 

 演技を終えて、片付けが済んだ順に千房さんのビルに向かいました。私、JONIO,

黒川、橋本の4人が先に千房さんに行って、先ず乾杯しました。ここでの3人は楽しそうでした。ここで語らうと言うことは、人に認められたマジシャンの証であって、成功したマジシャンしか味わえない世界です。しかも、同じような年齢の仲間が深く突っ込んだマジックの話をするくらい楽しいことはないでしょう。

 少し遅れて、キタノ、愛華、大成、朗磨がやって来ました。これから2時間飲み放題で料理を楽しみました。

 気が付くともう11時です。打ち上げはお開きです。ホテルに戻って、早く寝ないと明日は7時04分のサンダーバードで福井に行かなければなりません。ハードな毎日ですが、大成も、朗磨も不満を言いません。充実した日々なのです。私も10代でこんな日々があったならどれほどよかったかと思います。さて明日は早いのでこれでお終いにします。

続く