手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

市民会館

市民会館

 

 今日(21日)大阪で指導があります。毎月、富士と、名古屋と大阪の三か所、二泊三日で指導をして回るのが定例です。

 

 指導とは別に、マジックセッションイン大阪と言う、公演を年に一度、道頓堀のZAZAで開催しています。東京のヤングマジシャンズセッションと同じ企画です。こちらは今年で5回目の開催になります。次回は11月26日の開催です。既にチケット販売を始めています。

 これは関西にある大学のマジッククラブの学生さんと、OB、

若手プロ、看板ゲストによるマジックショウです。プロもアマチュアも一緒になって公演する企画と言うのは大阪では珍しく、毎回満席が続いています。

 そもそも大阪でマジックショウと言うものがほとんどありません。吉本の劇場などでは、お笑いの中に一本マジックが出ている程度でしかマジックを見る機会はなく、単独のマジックショウは先ずありません。何とか大阪でマジックショウが定着するようにささやかながら努力をしています。

 今日は、指導の後、ZAZAに行き、劇場で少し打ち合わせをして、それからスポンサーのお好み焼きの千房さんの会長にお会いして、協力をお願いしに行きます。コロナの状況下で、千房さんも苦戦していることと思います。とても芸能に支援などできる状況ではないと思いますが、何とか一縷の思いで話に伺います。

  

 昭和50年代までの道頓堀は、ニューヨークの42番街に匹敵するほどの劇場街だったのです。400年も前から1000人も入る劇場が5軒も並んでいました。ニューヨークのそれよりも200年以上も古いのです。近松の芝居も、人形浄瑠璃もここで生まれたのです、塩屋長次郎の呑馬術も(生きた馬を一頭丸々呑み込んで行く術)元禄時代のイリュージョンとして、ここでロングランを果たしました。

 それが、徐々に劇場の数が減り、角座、中座が閉館するに及んで劇場街の幕を閉じたのです。そんな歴史ある劇場街がなぜ無くなって行くのを県や市は黙って見ていたのでしょうか。

 劇場をつぶしておいて、市民会館や県民ホールを作る理由がどこにありますか。

 中座でも角座でも市や県が買い取って、それを市民会館にして、市や県が運営するのではなくて、民間に任せて、芸能芸術を支援したらよかったのです。新たに市民会館や県民ホールを作れば、公務員の数が増えます。公務員は、労働基準法で熱く身分が守られています。退職後も年金を支払わなければなりません。

  私は、およそ芸能芸術に関する限り、公務員が関与しないほうが良いと思います。餅屋は餅屋で。芸能をよく知っている専門家や、これまで劇場を運営してきた経営者を尊重して、ソフトに費用をかけるべきなのです。

 そして公務員の仕事は民間の劇場と比べると、とても芸能に愛情があるとは思えません。

 例えば、初めに施設を借りるための契約をするときに契約書を見ると、年々、利用者の守る義務が増しています。然し、利用者が手にはいる権利は少しも充実していないのです。

 先ず駐車場がない。市の職員が駐車するスペースはあっても出演者には使わせない。あっても2.3台しか使えない。何十年劇場を運営していながら、いつになっても解決できません。

 トラックを停める場所がない。場所はあってもそこには停めさせない。年間頻繁にトラックを停める用事がありながら、全く解決させる意思がないのです。

 道具の搬入は朝の9時からしか受け付けない。深夜に到着したトラックは敷地に入れることすら認めません。

 道具の搬出、出演者の退館は、夜の10時までにすべてを完了させる。誰が決めたのですか、公務員が早く帰りたいだけではないのですか、ショウを中心に劇場を考えていません。

 通常、会社勤めをする観客にショウを見せるなら、夜7時くらいからの公演になるのは当然でしょう。そこから2時間ショウをしたなら、9時です。その後の1時間で大道具や衣装をかたずけて、完全退出できますか。できないとわかっていることをなぜ求めますか。

 それは劇場が、観客の生活を理解していないし、出演者の都合を理解していないのです。良いショウをするにはセットもかたずけも時間がかかります。別に11時、12時までかたずけに時間がかかろうと、必要なことなら、それを認めなければいけません。

 どこの町にも市民会館、文化会館が出来て、外見は町の体裁は良くなりましたが、その実、市民に役立って、市民が満足して使える市民会館がどれだけありますか。

 市民会館に公務員が10人いるならば本当は2人で十分です。残りの人件費を半分にして、倍の人数の有志に入ってもらって劇場は24時間稼働すべきなのです。

 劇場内の運営にも問題があります。市民会館の管理職は直接は音響照明舞台に携わらずに、専門家を雇います。ところが、劇場管理者はこの専門家を業者扱いをして締め上げます。規律を異常に厳しくして、ちょっとした備品の傷なども業者のせいにして取引停止を言って脅します。

 業者側とすれば逆らうことはできませんから、備品の管理などを利用者に対して厳しく守らせようとします。そうした結果どういうことが起こるかと言うと、

 ある劇場は、出演者が袖幕にさわっただけで担当者が飛んできて、「勝手に袖幕にさわるな」。と怒鳴ります。然し、袖幕はさわろうとしなくても舞台の出入りにはさわってしまいます。それをいちいち飛んできて怒鳴るのは異常です。

 ハイヒールを履いて舞台に立ってはいけない。と言う劇場があります。ヒールで舞台に立つと、舞台を傷つけるからダメなのだそうです。信じられない話です。ハイヒールで歩くことがどれだけ舞台に床をすり減らすのでしょうか。こんなバカな話が頻繁に劇場で起こります。

 そもそも市民会館は市民の税金で劇場を建てています。そうならその時点で、劇場の減価償却は済んでいるのです。しかも、毎年補修費も取っています。建物が傷んだり、舞台に傷がついても補修費で修理がされているのです。

 仮に舞台の袖幕に手が触れて、指紋が付いたとしても、ハイヒールで舞台床が少し傷ついても、それは本来、経年劣化の範疇です。それを公演のリハーサル中、或いは公演中に怒鳴ってきたり、使用許可を取り消ししたりすることは芸能芸術を冒涜しています。

 市民が市民会館を利用すると言うことは、既に税金で施設のの備品を支払っていることですので、劣化に関して苦情を言われる筋合いは全くありません。市民以外の利用者が会館を利用することも、使用料金で運営費を助けているのですから、これも感謝こそされても苦情を言われる筋合いなどないのです。

 業者が備品管理をやかましく言うことは、会館自体が利用者を拒否しています。会館の管理者は、会館が利用者になるべく使われないようにすれば、劇場の傷みはありませんし、苦情も来ません。そして自分たちの給料は、会館が使われる使われないに関係なく出るのです。そうであるなら、利用者に使われない会館ほど、管理者にはいい仕事場なのです。

続く