手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

市民会館 3

市民会館 3

 

 劇場と言うものが客商売であるなら、何とか、一人でも利用者を増やして、利用者に最大限協力をして、やりやすい舞台にしようと考えるはずです。また劇場に来たお客様にたいしても、使いやすい、快適な状態で、芸能芸術に接することのできるように配慮しようと考えるでしょう。

 常識的に考えるならそう考えるのが劇場運営なのです。然し、往々にして市民会館の運営はそうではありません。

 例えば劇場にやってきた人たちに館内で並ばせることをせずに、野外で並ばせたりします。劇場の野外は、コンクリートの照り返しで、ものすごい暑さです。真夏の猛暑日に1時間も2時間も野外で並ばせるのは異常です。

 ある時私は、私のショウに来た人たちが、猛暑の中を並んでいるのを見てびっくりして、「館内のロビーに入れてあげたらいかがですか」。と言っても、管理者たちは誰も対応しようとしません。つまり毎日そんなことをして、全く対策を立てようともしていないのです。

 30年も40年も劇場を管理していながら、例えば建物の横に布地の庇を取り付けるとか、建物の傍に木を植えて日陰を作るとか、毎年の予算の中から少しずつでも環境を良くしようとは考えないのです。

 外見は鉄筋コンクリートの素晴らしいデザインの劇場でありながら、利用者の配慮はゼロです。これは運営する人たちに自分が客商売をしているという認識がないのです。

 猛暑にお客様が並ぶのは、お客様の勝手なのです。これでは、劇場に入る前にお客様は既にぐったりとしてしまいます。楽しいショウを見るどころではありません。これでショウがつまらなかったら踏んだり蹴ったりです。

 

 ある文化会館のカルチュアースクールを依頼されて、私は毎月会議室で、マジックの指導をしたことがあります。まだ私の娘が幼かったので、毎回女房と娘が一緒についてきました。

 指導が終わって、駐車場が閉まるぎりぎりの時間になったため、女房と娘が先に車に行って待っていることになりました。

 私はそれから1分ほど遅れて駐車場に行ったのですが、驚いたことに、60代くらいの駐車場の担当者が、私の女房と娘を「何してやがる、こんな遅くまで、とっとと車を出せ、早く帰れ」。と鳥の子を追い立てるように追いかけ、罵声を浴びせているのです。

 私は、すぐに、担当者の首筋を掴んで「こら、何をしているんだ。お客様を追い立てて、何という口の利き方をしているんだ。いくら何でも失礼じゃないか」。と強く怒りました。相手は女子供だと思うから強く出たようです。

 まさかすぐ後に亭主が来るとは思いませんから、慌てて手のひらを返すように、「悪かったよう、言い過ぎた、放してくれ」。「駄目だ、こんな失礼な客扱いをするのは、管理者がしっかり教育をしていないからだ。ちょっと館長室まで来い」。と引っ張って行こうとしました。すると女房は、「館長さんはもういないだろうから、明日にしたらどう」。と言います。それもそうだと思い。苦情は翌日持ち越しにしました。

 あとで館長あてに手紙を書いて出しましたが、返事は、「よく言っておきます」。と言う程度の、生ぬるいものでした。

 

 私がまだ30代の頃、文化会館の施設のリハーサル室を借りて、マジックの練習をしていました。ここは使用後、掃除をして、備品を元に戻してから事務所に終了の連絡をするのが決まりのようです。

 それを守って連絡をすると、中年女性の公務員がやってきて、まるで姑のごとく、細かに部屋中を見まわしてから、床を指さして無言で立っています。初めは何のことかわかりませんでした。私は「何でしょうか」と尋ねました。彼女は無言です。ずっと指をさしています。

 「何のことですか」。すると彼女は、「ここのごみ」。と言いました床に花吹雪が一枚落ちていました。よく私が使う紙の切れ端です。私は、「はぁ、吹雪ですか」。と言って、指差す床の先にある小さな紙を取りました。

 すると、彼女は更にもう一か所床に落ちている小さなごみの前で指をさしました。やはり無言です。何と言う慇懃無礼な人でしょう。こんな人が人の上に立って指導をするのでしょうか。まったく人が見えていないのです。

 これではいけません。私はまだ若かったのですが、一言言ってやろうとしました。私は、彼女の前に同じように立って、じっと彼女を睨み据えました。しばらく何も言わずに黙っていました。そして、静かに、「何ですか」。と問いました。

 彼女はその気迫に押されたのでしょう。少し慌てだしました。そして、「ここにもごみがあります。拾ってください」。と言いました。私は、「なぜ初めからそう言わないのですか。黙って突っ立って、指をさしていられたら、まるで私はあなたの使用人ではありませんか。あなたは、毎回そうやって、リハーサル室にやってくる利用者を使用人のごとく見下して命令しているのですか」。

 すると彼女は、急に表情を変えて「いや決して命令して言ってるのではありません。ただ規約が、元の状態の戻して返すことになっていますから、それをお願いしているのです」。

 「命令していないと言いますが、無言で指をさして立っていればそれは命令ですよ。勿論、元の状態にして返すことは了解していますが、それをあなたからお願いされたことは一度もありませんよ。今あなたのしたことは、無言で圧力をかけたのですよ。お願いなんて全くありませんでしたよ。毎日そんなことをして、利用者を脅すことが楽しいのですか」。そのあとはひたすら言い訳でした。つまり、強く出る人には手のひら返しをして言い逃れをして、弱い相手を見つけては意味のない高圧的な態度に出るのです。

 私は彼女に私の税金から給料が出ていることを情けなく思いました。こんな人を公務員にしておくこと自体が問題です。全く芸能芸術に理解も愛情もなく、ただ公務員の序列の中でしかものを見ないで、利用者を見下すような人が劇場で管理をしているような施設なら、そんな施設はないほうがいいのです。

 芸能芸術は心の癒しなのです。人は癒しを求めて劇場に来るのです。癒されない劇場は害悪なのです。

続く