手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

マジシャン人生は楽

マジシャン人生は楽

 

 一昨日(25日)リサイタル公演の舞台で、弟子の前田に、

 藤山「世間の先輩は芸能の道は苦しく辛いものだなんていう人があるけどね、やってみるとそりゃぁ楽だよ」。

 前田「え、本当ですか、結構大変なんじゃないんですか」。

 藤「いや、楽。私がそう言うんだから間違いない。だって君、好きでやっているんだろ。そうなら苦しいもつらいもないじゃないか。苦しくてもつらくても、全部ひっくるめてそれは楽しいことじゃないか」。

 この言葉は、私のようなベテランがまじめ腐った顔で、しみじみ「芸の修業は楽だ」、と言えば、逆説的で面白いのではないかと思って言った言葉です。でも、私にとってこの言葉は本音です。

 自分が好きで入って来た道なら、苦しい辛いを言ってはいけないのです。どんな職業をしてもうまく行かないことはいくらでもありますし、殆どの場合、努力は簡単には報われないものなのです。

 報われない、金にならない、名前が出ない、苦しい、辛い、それをひっくるめて、「だからマジックは楽しい」。と言えるなら、その道で一段上に上がったことになります。

 

 よく、歌手で、引退したい、とか、辞めたい、と言うタレントさんがいますが、私にとっては謎の言葉です。好きで始めた道なのに、一体何を辞めるのでしょう。やめて何をするのでしょうか。

 私のように55年もマジシャンを続けて来た者にとって、辞めるなんて考えたこともありません。辞めたら自分が無くなってしまうじゃないですか。私が生きていると言うことと、私がマジシャンを続けていることは同義語です。マジシャンを辞めて他の道に行くことなどできないのです。

 私がほかの仕事をするなどと言うことは、カエルに向かって空を飛べと要求するようなもので、不可能なことです。出来ないからカエルのままでいるしかないのです。

 

 然し、だからと言って、カエルがカエルのままじっとしゃがんでいても生きては行けないのです。カエルはカエルとして生きるすべを探さないといけません。

 マジシャンも同様です。この道で生きる以上、生きていることの証を見せなければいけません。私が定期的にリサイタル公演をするのも生きていることの証なのです。

 リサイタル公演では必ず、旧作にアレンジを加えて、少しでも今までの作品を発展させるように工夫しています。また必ず一作、新作を考えて発表しています。

 アレンジも、新作も、狙った通りにうまく出来るときもあれば、うまく行かないこともあります。必ず新しいことにはリスクが伴います。でもリスクを恐れていては前に進みません。この道で生きると言うことは前に進むことです。それゆえに新しい作品を出すようにしています。それは簡単なことではありません。

 

 今回の新作は峰の桜でした。昭和9年に天勝師の演じた舞踊マジックをスライハンドに作り替えた作品ですが、ゼロから、種も演出も、振り付けも、衣装も、音楽も作って行くのは大変な労力を使います。しかも、今私は66歳です。12月には67歳になります。どなたか66歳の人で、スライハンドの新作を作って、演じている人はいますか。

 50代の頃は、60代なんて全く50代と同じような人生かと思っていましたが、自分が60代になってみると随分体の負担は大きくなり、思考も鈍って来たことが分かります。

 そうした中でマジックを考えて行くことは簡単ではありません。でも少しでも自分を前に進めたいのです。創作活動をずっと続けて行きたいのです。なぜか、それが好きだからです。マジックは追及すればするほど面白く、楽しい世界が広がって行くのです。

 

 友達と野原で遊んでいて、いつしか友達ともはぐれ、一人林の中をさまよっていると、突然、先の方に花畑が広がっているのが見えます。すごい世界を見つけました。

 蝶も、トンボもたくさん飛んでいます。花畑にいるのは私一人、昆虫は取り放題です。このまま進んで行って昆虫を取ろうと思うのですが、日が暮れて来ました。家に引き返したほうが無難でしょう。でも引き返せますか。それとも花畑を進みますか。

 私なら進みます。真っ暗になって、花畑で野宿をしたとしても、翌朝には花畑の隅々まで散策して、珍しい昆虫を取ります。せっかく見つけた夢の世界です。ここで引き返すのは無意味です。この世界を謳歌しないで自分が生きている価値なんてないのです。

 

 そんなことを考えて、ずっとマジックを続けて来たのです。誰に頼まれたわけでもありません。お金があって、才能があってしてきたことでもありません。ただ好きでしてきたことです。そして好きだからこそとことん追求したいのです。

 そして、こうして今日までアルバイトもせず、会社勤めもせずにマジシャンとして生きて来れたことは幸せなことだと考えています。だからあえて申し上げます。マジシャン人生は楽です。それを弟子の前田に話したのです。

続く

 

 大阪マジックセッション

11月25日(金) 大阪道頓堀、ZAZAにて。18時30分スタート。出演。伝々、藤山新太郎、バーディー、黒川智紀、Hannna、鈴木駿、Jun Maki、前田将太、ザッキー、カイ、他、大阪若手メンバー、

 前売り3500円、当日4000円 申し込み東京イリュージョン

 

 第8回天一

 福井市フェニックスプラザ

13時からディーラーブースオープン。クロースアップショウ。16時からメインショウ。

 出演。峯村健二、藤山新太郎、Masayo、Hanna、岡田透、サイキックK、前田将太、ザッキー、サク、

 全イベント通し券   前売り5000円、当日6000円

 ステージショウのみ  前売り4000円、当日4500円

お申し込み東京イリュージョンまで