手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

リサイタル公演終了

リサイタル公演終了

 

 昨晩(25日)は座高円寺で「摩訶不思議」の公演がありました。朝7時から荷物を運び出し、組み立て、音楽家と音合わせ、稽古と休む間もなくそして本番。それからかたずけ。すべてを終えて家に帰ったのが11時でした。

 自主公演はいつもこんな具合です。幸いお客様の集まりもよく、座席数の半分までしかチケット販売が出来ない状況でありながら、ほぼ満席でした。

 

 オープニングは、前田の羽根のプロダクション。約3分の演技があって、私が出て来てからみます。テーブルクロス引き。前田は始め「テーブルクロス引きを稽古してみよう」、と言っても何の興味も示しませんでしたが、実際、出来るようになって、舞台にかけてみると効果の大きいことが分かり、しかも会話を交える芸に大きな興味を持つようになりました。いいことです。

 以来、前田は何度も舞台でクロス引きを演じています。芸能の不思議なところは、自分の成功が決して自分の望むところにないことです。「あんなものつまんない」。と思っているところに案外成功があります。

 今回も掴みは上々でした。

 

 そのまま私が舞台に残ってファンカードと12本リングを演じました。子供のころにどんなマジックをしていたのか、と言うことでカード、リングを演じたのですが、舞台でカードを演じるのは、10年以上ありませんでした。

 やってみると、これはこれで面白いと思いました。この先時々演じて見ようと思います。

 そして12本リング。これは時々演じています。と言っても年に一度くらいでしょうか。今となってはまったく気負いもなく演じられますので、案外、今の演技の方が、若いころの様に向きになって演じていない分、安定して見ていられるかもしれません。

 と言うわけで、かつてのスライハンド(技巧のマジック)を再発見したような次第です。この先はもう少しこの路線を伸ばしてみようと思います。

 この後はゲストが二本続きます。初めがボナ植木さん。トークマジック。花の先に蝶を付けて、蝶のたはむれと言って出て来ました。初めは静かに見ていたお客様でしたが、ボナさんのあたりからリラックスを始めて、いい具合に和やかになりました。ボナさんとは45年来の仲間です。この先こうした仲間はできません。大切にしたいと思います。

 

 次が峯村健二さん。この晩はメインのFISMアクト、やはり何度見ても安定したいい演技です。2000年にリスボンで開催された世界大会の時の一位の演技でした。あの時のコンテストは私も生で見ています。あれから20年経ったのですね。

 峯村さんは素直な性格で、今回のショウに招かれたことをとても喜んでいました。楽屋でナイツと記念写真を撮ったりして、ミーハーな人だと言うこともわかりました。

 

 再度私が出て来てロープ切り、そして脱出。このロープ切りの手順も私の人生で何千回演じたか知れません。久々演じて見ると懐かしいのです。

 そして脱出。これは30代末に考えたものです。ギロチンを先に見せると、お客様は怖がって舞台に上がって来ません。どうしたら、知らず知らずのうちにギロチンにお客様が入ってしまうか。これがテーマです。

 両腕、首を拘束された状態で脱出すると言う装置とギロチンを組み合わせたものです。二つの作品は相反する機構ですので、本来組み合わせは不可能なのですが、どうしたらそれが可能になるか、随分悩んで作りました。

 始めに私が脱出して見せて、これが出来たら賞金3万円と言って、お客様に声をかけます。誰かが上がって来て(この晩はアシスタントの柳澤錦さんが出てくれました)。

 手、首をがっつりした装置に拘束しますが、抜け出せません。そこで、「それじゃぁ簡単に抜け出せるオプションを付けましょう」。と言って装置の上にギロチンの上部を取り付けます。そのあとはおなじみの手順ですが、話が進行するにしたがって、奇抜な展開をするため、お客さんは興味でついてきます。

 これもバブルの時期は良く演じました。自慢の作品です。

ここで10分間の休憩。

 後半は邦楽演奏を入れて、和の世界です。

 初めに傘出し手順、そして蝶のたはむれ、毎度おなじみの手順ですが、傘の終わりに人力車に乗って引っ込む演技を加えました。4本出した傘が、何のために出したのかと言えば、人力車になって引っ込むためと言う意味付けを考えたものです。傘手順も、蝶も小さな演技ですので、真ん中に人力車が入ると演技全体が大きくなり、出した傘もかたずけてしまえますので一挙両得です。

 

 この後ナイツさんを呼び込み少しトークをしました。お二人は二部の休憩前に楽屋に入り、終わるとすぐに帰って行きました。いやはや大した人気です。気が付けば20年前にコンビ組み立てのころから見ています。こんなに有名になるとは思いませんでした。

 

 この間私は、峰の桜の着替えをしています。みっちり10分以上かかります。そして爺さんになって舞台登場。やがて犬登場。そして桜の花びら出し。ここが問題でした。

 いくつかミスが出てしまいました。そして大幕を出して、その陰で衣装替え、これも脚立から落ちてしまいうまく行きません。それでも衣装替りとなって何とか終わり。やはり初回はいろいろ問題アリです。

 でもこの手順はこの先煮詰めて行こうと考えています。スライハンドが全く先行きの見えない状況にあって、スライハンドの将来のあり方の突破口になるのではないかと考えています。

 

 次が一里取り寄せ、お客様になんでも品物を取り出すので、紙に書いてくださいと事前に紙とペンを渡しました。取り寄せ開始前に和田奈月さんと穂積みゆきさんが紙を回収してゆき、舞台で読み上げてもらいました。途中から犬の衣装から才蔵役に着かえた前田が出て来て、一緒に進行をします。

 その頃には裃姿に着かえ、私が出て来て、お客様の注文に応えて品物を出すと言う奇術。お終いは、水を桶に30杯出しました。大量の水を出す意外性が、この装置の目玉で全てをひっくり返します。面白い作品です。然し、人手がかかりますので滅多にできません。

 無事に水出しを終えて、終演。丸一日とてもくたびれました。スタッフの献身的な働きに感謝です。

続く