手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

色々なマジシャン

色々なマジシャン

 

 私は22歳から毎年自主公演を打って来ました。それは今も続いています。その公演には、必ずゲストを何本か招いています。ゲストの中には、私の先輩格のマジシャンもいれば、同輩のマジシャンもいます。まだプロにはなっていないアマチュアの人にも出て頂いています。

 私が20代30代の頃は、例えば、ケン正木さんはまだサラリーマンをしていました。然しとても熱心なアマチュアだったので、たびたび私の公演に出演してもらいました。当時の若手マジシャンの中には、ブラボー中谷さんや、北見伸さん、カズカタヤマさんなどにもよく出てもらいました。また、多くの弟子たちも同様に、アマチュアの内から出てもらいました。アマチュアで活動している人たちを公演に出しているうちに弟子入りを申し込んでくるのです。

 本当なら、私の公演にアマチュアを出すのは、あまりいい結果にはならないのですが、それでも出てもらいます。時にまだるっこしい内容もありますが、一本くらいはお客様に我慢してもらうのです。

 大成がアマチュアだったころに、大阪の文楽劇場に出したことがありました。文楽劇場国立劇場です。800人の観客の前で四つ玉と羽根の演技をしたのです。当然、足がすくむくらい緊張したでしょう。それでいいのです。そうした体験をすると確実に巧くなるのです。人は、緊張して何度も吐き気を催すくらいの舞台を経験しないと巧くならないのです。

 なぜ、私のショウにアマチュアの出演の場を作るのかと言うなら、それはきっちりとしたステージの公演にプロと一緒にステージに立つだけで、確実にアマチュアの技術が向上するからです。

 それは私の子供の頃のことを思いしても明らかで、有名な芸能人と一緒に舞台に立つだけで、なんとなく自分も一格上がったような気持がしたものです。そして、晴れがましく思うと同時に、余りに自分の姿がみすぼらしく思えるのです。「こんな演技をしていたのでは駄目なんだ。もっともっといい演技を見せなければいけないんだ」。と自分未熟に気づくようになるのです。

 

 私が一番嫌いなマジシャンは、アマチュアがアマチュアの中で満足していて、生ぬるい演技をしている姿です。あるいは、若いマジシャンが、若い者の中でまじりあって、低い次元の仲間の中で巧い拙いを言い合っていて、少しも前を目指さない姿が見える時です。

 そんなことをしていたら、すぐに年を取ってしまって、誰からも注目してもらえなくなってしまうのに、この社会に数年いただけでまるでベテランマジシャンのような顔つきになって、ひとかどのマジシャンになった気持ちでいることです。

 輝かしい経歴もなく、取り立てて巧さもなく、今いるお客様を満足させる才能もないのに、なぜ若いマジシャンや、アマチュアがベテランのような顔をして舞台に上がって、平気で受けないマジックを演じ続けているのか、不思議に思います。

 

 今ある技量をさらに高見に上げるにはどうしたらいいのか。何を考え、どう言うマジックを見せたらいいのか。そのすべての答えは、アマチュアからベテランまで、みんな一緒の舞台に立って、細かく後輩や仲間や先輩の演技を見ることなのです。

 巧い人と言うのは、舞台の脇から見ていても、その息遣いからして違います。何であんなことがさりげなく出来るのか。どうしてあんなことでお客様の心を掴めるのか。脇で眺めているだけでも勉強になります。

 舞台の才能と言うのは一つではありません。観客の気持ちを取り込む巧さとか、アイディアの良さとか、現象を見せる時の繊細な表現方法とか、いろいろな方法を身に着けることによって芸能は完成して行きます。それらを一つ一つ多くのマジシャンの演技から学び取って行くことで、芸能を身に着けて行くのです。

 時として、どうしようもないお粗末なマジシャンから、舞台を学ぶこともあります。救いのないような失敗をしたマジシャンがどんな表情をするのか、どんな言い訳をするのか、そこから人間の真実が語られます。そして、観客は救いのない失敗をしたマジシャンに対してさえ実に寛大なのです。

 お客様は絶対に下手なマジシャンをいじめたり馬鹿にしたりはしないのです。駄目は駄目なりに、一言、人間の本性をちらりと語って、言い訳とも、愚痴とも付かないことを言うと、お客様は爆笑するのです。笑ってしまえば全てが許されます。芸能とはそんなものです。所詮遊びの世界なのです。

 色々な世代の多種多様なマジシャンが存在する舞台。そうした舞台環境を提供することが、マジシャンを育てる上でとても大切なことだと私は理解しています。

 私自身を考えても、今の芸が出来上がるためには、10人や20人のマジシャンではきかないくらいの多くの人の影響を受けています。そうした先輩がいなかったなら今の私の芸は出来ていなかったのです。

 世の中が、子供から老人まで、男も女も、あらゆる職業の人がいることで社会が成り立っているように、マジシャンも、あらゆる年齢の、毛色の変わったマジシャンがいて、一緒の舞台を踏むことで自身の舞台が作られて行くのです。

 

 初心のうちは、そうしたマジシャンを単純にいい悪い、好き嫌いで判断してしまいがちですが、そんなことを考えずに、たくさん見ておくことが必要です。世の中に存在するものには必ず因果関係があり、必ず必要だから存在しているのです。巧いも下手も、必要だから存在しているのです。

 マジックマイスターと言うのはそうした社会の縮図のようなショウなのです。できればこの公演が一日でなくて、2日3日と続いてゆけばなぁ、と考えています。かつて二日公演までは何回かしました。出来れば3日間。全部出演者を変えて、ゲストだけ同じメンバーで公演したいと考えています。そしてこれが恒例となって、多くのお客様が見に来てくれるようになればいいと考えています。

 どうぞ、ご出演希望の方も、ご覧になりたい方も、お名前ご住所をお知らせください。次回ご案内いたします。

続く