手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

マジックマイスター No21

マジックマイスター No21

 

 6月30日は、マジックマイスターです。マイスターとは名人と言う意味です。随分大きな名前を付けてしまいましたが、それは、演技をする方々に少し自信を持っていただきたいためにそうした名前にしました。

 もう今回で21回目のなります。実は、マジックマイスターになる前、数回は、藤山一門会と言う名前で催していました。私の弟子や、お稽古に通う生徒さんが年に一度出演していた会です。吉祥寺のライブハウス、ビーポイントで開催しておりました。ライブハウスですから、40人も入れば満席になる場所でした。

 やがて私の生徒さんだけでなく、いろいろな人に出て頂くようになり、会場も、三鷹の武蔵野芸能劇場や、高円寺のザ・高円寺を会場とするようになりました。本来なら、ザ・高円寺で催したいのですが、ザ・高円寺は借り手が多く、抽選になかなか当たりません。やむなく多くの場合、武蔵野芸能劇場で公演しています。

 劇場の設備や美観は、ザ・高円寺の方が素晴らしく綺麗です。然し、武蔵野芸能劇場は、大きな一つの楽屋にみんなが集まって公演をするために、家族的な雰囲気があって、これはこれでなかなか楽しいものです。

 この公演は、毎回弟子が担当していて、私は一切関与しません。会の企画からチラシ、劇場との打ち合わせ、消防署の許可申請、当日のパンフレット、賞状制作、お弁当の手配、ステージハンドの手配、音響照明との打ち合わせ、進行表制作。チケット作成、宣伝、チケット発送、全て弟子の仕事です。

 それは、大樹、大成の以前から、ずっとそうしています。なぜ弟子に任せるのかと言えば、自らが公演をプランすれば、どれだけ仕事が多くて、どれだけ大変な仕事を段取り良くしなければならないかを理解できるからです。たった一つの公演をするのでも、あらゆる仕事をしなければなりません。

 弟子のうちに公演を手掛けておけば、自主公演など苦もなく出来ます。何もしなければたった一つの公演ですら余りに煩雑で、すぐに音を上げてしまいます。会を打つと言うことは大変なことなのです。

 しかも、そうした活動をすべてこなしたからと言って、マジックが巧くなるわけではありません。マジックの稽古は別です。私の仕事を手伝いつつ、自分の稽古をしておかなければなりません。自分が何をしたいのか、どんなマジシャンになりたいのか、修行中に自分の道を探して行かなければなりません。

 弟子の修業は3年半ですが、初めは長いように思いますが、すぐに3年半くらいたってしまいます。何もしなければ、何もないまま3年半が経ちます。月日を待っているだけでは上手くならないのです。

 弟子の修業をすれば、毎日が、マジックに関係した生活です。多くのマジシャンを知合い、親しく食事をしたりします。楽屋でいろいろな話を聞くこともあります。新幹線や飛行機の中で半日話をすることもあります。それら全てが修行です。話をしたから勉強になった、食事をしたから知識が身に付いたと言うのではなくて、そこから何を感じたか、どう言う答えを出したかが大切です。

 一回一回急いで答えを探し出す必要はありませんが、でも常に何かを感じ取ろうとする気持ちは大切です。実力あるプロマジシャンの演技を見ることは大切なことです。でも、ただ見ているだけではお金を払って見に来たお客様と同じです。プロになりたければそこから何を学ばなければならないか、安易に見ていてはいけないのです。

 プロだけでなく、アマチュアのマジックを見ることも大切です。アマチュアの演技には、自分自身の原点があります。昔の自分の演技がそこに残っているのです。

 「あぁ、自分もあんな演技をしていたなぁ」、と気付きます。その時何を考えて演技をしていたかなんて、昔のことは思い出せません。アマチュアの演技はそれをもう一度思い出させてくれます。

 舞台は不思議なもので、あまりうまくないマジシャンがお客様には受けが悪いかと思うとそうではありません。どう見ても未熟な人でも、とても受ける人があります。下手で、種をボロボロ落とすような人でも、お客様を味方に付けてしまって、お客様に愛されて、守られているようなアマチュアさんがいます。

 一旦愛されてしまうと、たとえ手順を間違えても、種を落としても、そんなことは関係なく、お客様に受けるのです。こういう時のアマチュアさんにどんな素養があるのか、なぜお客様の心を掴めるのか、よく見ておくことです。

 舞台は長くやって来たから、マジックが巧いから、と言って必ずしもお客様に愛されるわけではありません。何十年もマジックの世界にいて、巧いけどつまらないマジシャンは山ほどいます。長く一芸を続けていれば、お客様の心持くらいわかりそうなものですが、それがいつまで経ってもわからにマジシャンがたくさんいます。

 弟子で修行するうちに、人の心を掴むと言うのはどういうことなのか、をしっかり学ぶことです。とかく、プレイヤーとして舞台に立っていると、自分のことに忙しくて、周囲が見えなくなります。周囲のマジシャンも、お客様も、実は良く見えていないのです。一度公演を主催して見て、客観的にショウを見て見ると、お客様が何を求めているのか、どんなマジシャンが好きなのか、今ここで何をしてもらいたいのか、が良くわかるようになるのです。

 マジックマイスターはアマチュアさんと若手プロの公演場所ですが、こうした場所で、自分自身を試すことができることは幸せなことなのです。私に言われて面倒くさい用事をしていると思わないで。自分の勉強だと思って会を運営することです。後になってそうした経験はとても生きてくるものなのです。今回は舞台進行から朗磨が主導で致します。まだまだ頼りにならない若者ですが、私は朗磨に任せます。失敗してもたいしたことではありません。任せてみます。どうぞ皆様も朗磨プロデュースのスリリングなショウをお楽しみにご覧ください。

続く

 

 チケットは売り切れの可能性があります。事前に東京イリュージョンまでお問い合わせください。03-5378-2882