手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

春よ来い

春よ来い

 

 三月は弥生(やよい)と言います。やよいと言われても何の意味だか分かりません。や、というのは、様々なものを言い、八百屋さんは様々な野菜を売るから八百屋、八百万の神(やおよろずのかみ)は、様々なたくさんの神様を言います。三月は、様々なものが生い茂る季節で、様々なものが、生い茂る、=やおいしげる。と言う意味で、やおい。これが変化して弥生となったそうです。

 春を告げる花は、初めが梅で、次が桃、その後に桜が一斉に咲きます。今年は、三月になってすぐのころは、月の半ばには桜が咲くと予想していましたが、その後、雨が降り続けるなどして、今日28日に至っても開花していない状況です。一足早く、桜の開花を予想して、花見をしようとしていた人には当てが外れてスケジュールの仕切り直しになりそうです。

 私は、14日に屋形船を借り切って、東京湾内を回ろうと企画を立てました。無論、その頃にはほとんど桜は散ってしまっているだろうと思っていましたが、今の陽気のままでしたら、上手くすると、桜がまだ残る可能性があります。

 仮に31日に開花したなら、4月の10日過ぎは、桜が一斉に散りだすころで、隅田川から東京湾に大量に桜の花びらが流れて来ます。この散る花を筏(いかだ)に見立てて、花筏と呼びます。川が一面ピンク色に覆われて、日頃見る隅田川とは全く違った世界が生まれます。そしてそのまま東京湾に注ぐさまが見事です。上手くすると、14日は花筏の中を屋形船が進んで行くことになるかも知れません。まさに夢の世界ですね。

 但し、桜が一斉に散りだしたその日乃至翌日しか見ることができませんので、我々のために季節が待ってくれているかどうかはわかりません。あまり期待してはいけません。運が良ければ花筏に巡り合うでしょう。

 

 日本ではこれからが春たけなわとなる時期ですが、アメリカの大谷翔平さんは、予想だにしなかった事件に巻き込まれ、盟友の水原一平さんを失いました。一平さんが蒔いた種であるとは言いながら、こんなことで、二人が決別しなければならなくなるのは残念です。球団移籍早々悲しい事件です。

 それにしても一平さんのギャンブルの借金は、かなり前からあったようで、大谷選手からいい給料を得ていたにもかかわらず、借金はそれをはるかに超えたものだったらしく、こんな生活をしていたら、一日たりとも心が休まる日はなかったでしょう。

 それでも大谷選手と言う、歴史上最高の野球選手の信頼を掴んでいたからこそ、借金も支払えたわけであって、他の選手だったなら全くお手上げ状態だったでしょう。そうして考えてみると、一平さんは運のない人ではなく、最も強運の人だったことになります。但し、止め時を間違えたのです。

 ギャンブルで難しいのは、いつ止めるかにあるそうです。かなり負けこんでいても、逆に勝ち進んでいても、ここが止め時、と割り切って、パッと 止められる人は名人です。このブログでもギャンブルの話になると度々私の親父が出て来ますが、生前親父は、「博打はどんな場合でも三倍儲かったなら、それが止め時だ」。と言っていました。

 親父いわく「世の中で、数時間仕事をして、持ち金の三倍儲かる仕事と言うのはめったにないんだ。それだけまともな仕事をしていては金は手に入りにくいものだ。それがたまたま馬券を1000円買ったら、3万円になったとすると、一瞬で30倍の利益になったわけだから止め時なんだ。

 仮にパチンコ屋に入って、1000円使って、30分で3000円儲かったとする。ところが、わずか30分遊んで3000円の儲けで、やめられるかと言えば止められない。もっと続けたら、もっと儲かるだろう。と思って、長く続けてしまう。結局元まで使い尽くして、再投資までして、大負けしてしまう。

 だからね、止め時はいつかと問われたら、投資した金額の三倍になった時なんだ。そこから先は、やめる踏ん切りをつけるための決断の時間でしかない。早くやめれば止めるほど儲かる。これを守っている人は、手堅く勝てる人だよ」。

 仰る通りです。人は上手く行くと新たな欲が生まれます。欲に任せてギャンブルを続けていると、泥沼に嵌って抜け出せなくなります。初めは面白いようにうまく行っても、長く続けていれば必ずギャンブルは確率に戻ります。

 むろん世の中には当たり続ける人もいますが、同時に外れ続ける人もいるのです。株の投資でも、当たって当たって儲かったと言う人の話がよく雑誌に出ていますが、その裏には外れ続けて財産を失った人もいるわけです。

 一平さんはそのはずれ続けた人の代表者なのでしょう。助かる方法は一つだけ、とにかく一度ギャンブルから離れることです。負けをギャンブルで取り返そうと思うと、負のスパイラルに陥ってしまいます。世の中は不思議なもので、幸運な人は幸運を呼びますし、人気のある人は人気を呼びます。金のある人は金を呼ぶのです。

 逆に、運のない人は不運が続きますし、博打で負けが込んでくれば一層負けるのです。長く続けていれば勝機が来ると言うことは先ずありません。駄目はいくら繰り返しても駄目です。そこで、一度自分を離れて眺めて見たなら、助かる道も見つかります。

 要はやめるきっかけを教えてくれる人がいるかどうかです。そう考えてみると、人生の中で最も大切なものは、親身になって心配してくれる仲間だと思います。ギャンブルに嵌ったり、恋愛に嵌ったり、趣味に嵌ったり、周囲が見えなくなって、むきになってしまった人の行動は、第三者が見たなら狂気とも思えるおかしな行動をとります。自分にはわからなくても、傍から見たなら変なのです。それを客観的に見てアドバイスしてくれるのが仲間です。

 マジックにも同じことが言えます。一つことに向きになってお客様のことなど全く考えずにマジックをする人がいます。明らかに成功していないマジックをして、支持者もいないのに、それが気付かないのです。冷静に仲間の言葉を聞けばやっていることの間違いに気づくはずなのに、当人にはわかりません。

 ひたすら駄目を繰り返して、支持者も生まれず、収入もなく、認められることもなく、追い込まれて行きます。何が問題なのかは明らかで、人の話を聞くことなのです。自分だけで何とか解決しようとして、どうにもならなくなって袋小路に嵌り込むのです。一平さんと同じです。

 これから陽気が良くなって、桜が咲き誇り、や生い茂る季節になります。ここでひとつ気持ちを切り替えて、多くの人の声を聴きながら、人の役に立つようなマジックをして行っては如何でしょう。

続く