手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ジャパンカップ2024 コンテスト 2

ジャパンカップ2024 コンテスト 2

 

 24日のジャパンカップコンテストの続きの感想。10人のコンテスタントが終わって、20分の休憩に入りました。私の隣には、ケン正木さんがいて、いろいろ話をしました。かつてのクロースアップコンテストに見られるような、基本的なミスはほとんど見なくなったのは進歩です。

 また、おどおどして全く喋りのできない人が必ず何人かいたものですが、今は誰もが良く喋ります。そうした点、マジックをする人が総体に見せる力がついてきたのでしょう。良い流れになったと思います。

 但し、問題点もいくつか見えてきました。二点申し上げましょう。

 先ず喋りです。喋りが出来るからと言って、だらだら無駄口を言う人が多くなりました。今回のコンテスタントはさほど無駄な喋りはありませんでしたが、それでも言葉の選択に問題ある人が散見されました。喋りが話術に昇華せず、無駄話になっています。

 アマチュアも、プロも、しゅべりが達者になった分、緊張感がなくなってしまいました。だらだらと無駄話をします。「慣れと芸」を混同しています。喋るのではなく駄弁る(だべる)になっています。笑いを作ることは大切ですが、それもこれも、自身が創り上げる世界観が先になければいけません。目的があっての笑いでなければなりません。

 それを勘違いして駄弁りを繰り返しても、それは話術、話芸にはなりません。喋りの巧いマジシャンとも評価されません。言葉はよほどセレクトして喋らなければ、知性ある観客、社会的に地位のある観客を感動させることは出来ません。

 プロのクロースアップマジシャンを見ていても、このところ、雑な話し方をして、それで自身は喋りが巧いと勘違いをしている人を見かけます。これは要注意です。巧いと慣れは別次元の技量です。

 

 二つ目は、自分の頭の中でのみマジックを構築して、いきなりコンテストにかける人がいます。そうした人は、実際に自身の思い付きを人前で演じてみると、思っているほど観客には受けないことが分かるはずです。作った演技を初めて見せる場が、FISM参加のコンテスト、と言うのは多くの関係者に失礼なことです。先ず人前で散々に見せた上でコンテストに出ることを心掛けなければなりません。

 然し、どう見ても人前で演じていない手順を持ってくる人を何人か見かけます。自身の考えを盲信しているのです。そうした人が、例えば、ローカルコンテストで少し褒められたりして、プロになろうなどと考えると。自称プロであっても、支持者は少なく、当然仕事が少なく、生きて行けなくなり、自然自然に淘汰されてしまいます。

 プロで生きると言うことは、他人から評価されることであり、巧いマジシャン、すごいマジシャンと言う評価はお客様がすることであって、自己採点では生きては行けません。さりとて、観客にこびてばかりいては自分の世界が創れません。受ければいいと言うものではないのですが、受けなければ話になりません。ショウに生きるものは、役者であれ、ミュージシャンであれ、マジシャンであれ、常に観客と自身の創り上げる世界観のはざまで一生苦しむのです。

 

 アマチュアが大きなマジックのコンテストに出ると言うことは、マジックの奥の院に踏み込んで、自己の想像力を試すことになり、これは、人生の大きな体験となります。

特に、10代20代の人は、コンテストを通して、大人の世界を覗き見ることになります。世界がどんな仕組みで出来ているものなのかを実体験するのは、その先に自身が別の職業に就くときなどに大きく役に立つことになります。

 マジックをマジックとしてだけに捉えず、コンテストを入賞することばかり捉えないで、マジックを通して広い心を養うことが、将来大きな成果を手に入れることになります。

 

 さて、休憩の後、バーディーさんのレクチュアーと、ヒロサカイさんのレクチュアーがありました。海外ゲストが出演できなくなったためのピンチヒッターです。

 その後、表彰式が始まりました。

 コンテストの結果は、一位がIBUKIさん、二位が五太子さん、三位がKim sinng kongさん。になりました。

その後は、ジャパンカップの表彰式です。

 

 NMFフェローシップ賞は、Noirさん。大阪のフレンチドロップにレギュラー出演。精力的に自主公演をしているそうです。

 

 著述放送文化賞は、名古屋のテレビ、スターキャットTV放送さん。丸山真一さんが出演して、マジック番組を放送しています。

 

 功労賞は、渋谷慶太さん。これは、私が賞状をお渡ししました。ケン正木さんの弟子になって修行して30年、その後マジックショップ、ファンタジアを設立、店を新しくして、劇場まで作って、自己の夢を実現させています。師匠のケン正木さんにも舞台に来てもらい、一緒に写真を撮りました。

 

 NMFファン投票最高点賞(名称は不確かです)。市原とうまさん。先ほどコンテストに出ました。今年から一部門追加だそうです。入賞を心から喜んでいました。

 

 ベストクロースアップマジシャン賞。谷秀樹さん。懐かしい名前です。今も活躍していることは喜ばしく思います。

 

 マジックオブザイヤー賞。マジシャン先生 KENTOさん。何年か前、ジャパンカップの司会などして、何度か見ています。今はオーストラリアで活躍中とのこと。すごいですね。

 

 そして今年のジャパンカップは、KENTOさんかと思いきや、渋谷慶太さん。思わず渋谷さんは涙が止まらなくなりました。長く続けていればいいことがあると言うことでしょう。ケン正木さんも感無量で大喜び。良かったですねぇ。

 

 と、言うわけで、今年の表彰式は終わりました。田代さんは、良くマジック界の中をくまなく、目立たない人まで探し出して表彰しています。そうした気配り、目配りはなかなかできることではありません。単に知名度のある人にショウを与えるのでなく、こうしてマジック界全体を見渡したうえで、仲間を讃え合う活動は素晴らしいと思います。

 一つ授賞式で気がかりだったことは、受賞者を祝う時に、「おめでとうございました」。と過去形で言う人が多かったことです。授賞式は喜びごとの真っ盛りですから、「ございました」、ではなく、「ございます」。です。良きことは長く続くように、現在形で話すのが日本の常識です。受賞者も「有難うございました」。ではなく、「有難うございます」。と返礼するのが正解です。気になりましたので一言添えておきます。

 表彰の盾に毎年の受賞者のネーミングを刻んでいますが、もう彫り込む余地がないそうです。大きな盾に作り直すには費用がかかります。みんなでカンパしましょう。是非とも次の世紀までジャパンカップが続くことを願っています。

続く