手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ジャパンカップ2024 コンテスト 1

ジャパンカップ2024 コンテスト 1

 

 JCMAではこのところ立て続けにコンテストを開催しています。僅か50人程度の集まりにしっかりとした会場を借りて、コンテストを開催し、その都度、海外ゲストや、国内のマジシャンに協力を依頼するのは、膨大な時間と費用が掛かっていると思います。田代茂さんの奉仕活動に頭が下がります。

 私も結果として、プレゼンターの役を23年間続けました。23年と言う年月は、全く新しい人を作って行きます。始めのうちは、見ていられないくらい内容のお粗末だった日本のクロースアップも、今では充実した演者が増えました。

 

 会場はホテルニューオータニの中にある紀尾井町ガーデン。ここはよく政治家のパーティーなどが催される場所で、私もたびたび別の部屋でショウをしています。

 12時30分、オープン。13時からクロースアップコンテスト。今回の入賞者の中から2名がFISMアジアのコンテストに出られます。チャレンジャーは10名。以下は私の感想。

 

 TOMO。ルービックキューブが瞬時に模様が揃うアクト、2つのキューブとダイスを振っての数字が予言しておいたポスターに描かれた絵と一致すると言う結末。事前のセットが長いこと、演技が始まってからなかなか不思議な現象が起きないことなど、手順自体に難あり。道具が多いのも気になります。構成を工夫すれば面白くなるのに残念。

 

 Novyukki。事前のセットが長く、演技を見ると、テーブル上に道具が盛りだくさん。既にクロースアップの枠をはみ出して、アマチュアのおばさんのステージを見ているよう。ルービックキューブを鍋の中に入れて、液体を入れて。中華のレシピで煮込むと柄が揃います・・・。テレビの料理番組のパロディでしょうか。なるべく善意でマジックを見たいと思いつつ、最後まで見方が分からない演技でした。

 

 MOGAMI。お客様に自転車の盗難除けのループを首にはめてロックして、その7桁の数字を当てるもの。また、事前にホワイトボードに予言しておいた、形状と4桁の数字を当てるもの。どちらも不思議。でも、お客様に首輪を嵌めるのは見た様印象が悪いです。そうしてもらいたいと言う趣味の人もいるかも知れませんが、好意で上がって来たお客様に何をしてもいいと言うものではなく、これを一般のパーティーで演じたなら、マジシャンに悪感情を持たれてしまうでしょう。もっと夢のある世界を見せて下さい。

 

 Kim song  kong。韓国から参加、矢張り事前のセットが長い。演技は、自前で持ち込んだテーブルの上で羽根が出たり消えたり、或いはシャボン玉が現れます。見るからにメカニックな動きが気になります。実際テーブルは仕掛けだらけで、特定の場所に羽根を置くと羽根が立ち上がったりします。からの手から羽根が出たり、増えたり、不思議は続きましたが、演技は、ステージマジックそのもの。テーブルメカの多用が興をそぎます。こうしたことをしないのがクロースアップではないのですか。

 

 Ke teen。ワルツに乗って、カードをテーブルに置いてゆくうちに、音楽が乱れ、その度にカードがジョーカーに変わります。発想は面白いし、マジックも不思議です。ただ初手の発想が延々続きます。しかも、なぜジョーカーが出ると音が乱れるのかと言う根本理由が解明されないまま演技が続きます。頭の中だけで作り上げたマジックに見えます。上手い人なのに残念。 

 

Kisser。先月のコンテストの準優勝者。口の中でポップコーンを作る人。好悪のはっきり分かれる演技です。私は大好きです。何しろ一度見たなら忘れられません。夢にまで出て来ます。マラカスを振りながら出てくるところからインチキおじさんです。

 でも、この人は決して無茶苦茶な演技をしているわけでなく、演技のベースは、手妻(てづま=古典奇術)の「小豆割り(あずきわり)」です。小豆割りを現代に演じたならこうなる。と言う、テーマを持っています。演技全体はこの人の持つ奇妙な世界観で統一されています。この芸を嫌う人に対しては、とにかく勝つか、有名人になって、批判する人をすべて封殺することです。

 作曲家のマーラーは生前全く売れませんでしたが、「やがて私の時代が来る」。と言い続けました。実際今日のマーラーブームは予言の通りです。やがてキッサーの時代が来ると信じて、マラカスを振り続けて下さい。

 

 IBUKI。先月の優勝者。キッサーさんと好対照、見た目が少女漫画の主人公のようで、人当たりが良く、万人受けするキャラクター。ジャケットについている大きなボタンが、出たり消えたり、ハンカチに移動したり、ボタンのアセンブリー。その都度ボタンがハンカチやジャケットに縫い込まれている不思議。実際不思議です。もうすでにアジア大会を想定して、英語で演じる所が余裕です。

 

 Kim jeong yeol。韓国から参加。名刺大の小さな枠から、白いポーカーチップが出たり消えたり、そのうち赤いボールが何個か現れ、大きなボールに変化。三角のピラミッドが出て来たり、白いボールに変化したり。全て名刺サイズの枠の中の出入りに終始しますので、盆栽の世界を見るようです。

 但し、分厚いマットを使い、メカの使用が気になります。それでいて演技はさっぱりとしていて、京都の竹の子の水煮を食べているような感覚です。目立ったインパクトはなく、地味でデリケートな世界から何を引き出したいのか、今一つ見えません。

 仮に「わび」を感じさせるような高尚な演技を作りたいのなら、演者の人としての成熟度が求められるでしょう。出る、消えるの不思議を強調するのではなく、その外に広がりを感じさせる演技をどう作るのか、そこを突き詰めたなら、韓国奇術界のオーソリティになれるでしょう。

 

 五太子。カップ&ボール。良く工夫された手順です。見ていて不思議ですし、誰とも違う考えでマジックを構成しています。本物のお坊さんで、僧の姿で演じ切るのも面白いし、又よくあっています。正座して、床で演じる姿は、奈良平安の昔から千年変わらぬアジアのマジックの世界です。始まりのお鈴、お終いのお鈴、センスの良さが光ります。6月30日の。私の主宰する武蔵野芸能劇場でのマジックマイスターにご出演願います。

 

 Ichihara Touma。先月も拝見。二つの不思議なカード当て、一つは、相手の選んだカードをデックに入れてシャフルしてもらい、何枚目にあるかを当てるもの。二つ目はお客様のカードを使い(そんなお客様がいる条件が謎です)、カードをサインしてもらい、シャフル。もう一人お客様に数字を紙に書いてもらい、その数字が予言と一致、そしてその数字の枚数からサインしたカードが現れる。いずれもあり得ない現象で不思議です。マジックの世界で、マジック的な発想で、マジックを考えたなら、これほど不思議な世界はないのですが、但し、素人が見たなら、単純なカード当てを長く引っ張って演じているだけに見えるでしょう。

 ひたすら自己の不思議を追求する、ストイックな研究家として評価される人なのでしょう。但し、私のように、キッサーさんの芸を褒める観客には、なかなか通じにくいマジックです。私のような無知蒙昧なる衆生に、もう少し憐れみを持って微笑んで下さい。

 

 さて、10人の感想を書いたら紙面が一杯になってしまいました。全体の感想と、マジックオブザイヤーの表彰式はまた明日。

続く

 

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