手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

NHKテレビ FISMケベック

NHKテレビ FISMケベック

 

 随分情報が遅れてしまって失礼しました。NHK BSで9月30日に放送されたFISMケベック大会2022の映像の感想を書きます。何しろ私の家のテレビは旧式で、BS放送が見られません。仲間に映像を送ってもらって、今月になって拝見しました。

 コロナの影響は、世界各地でいろいろな問題を起こしました。FISMも例外ではありません。三年に一度の開催がこの先も出来るものかどうか、コロナを別にしても、FISMは大きな岐路に立っていると言えます。FISMが今後どうあるべきかは別の項に書こうと思います。

 

 さて、今回のNHK特集は、マジック愛好家でアナウンサーの古谷敏郎さんが精力的にこしらえた番組で、随所にマジック愛好家でなければ作れない愛情あふれた構成、演出がなされていました。90分に及ぶ番組は、民放なら二時間番組です。初めから終いまで全部見て、数日後再度全部見ましたが、圧巻な内容でした。

 まるで金箔を貼った京の洛中屏風を見るように、大部分を金箔の雲に隠れて、わずかに覗き見える、京の雑踏や、街の繁栄を俯瞰で見ているような、物凄い贅沢な番組に仕上がっていたと思いました。

 

 昔NHKで放送していた時のように、順に部門別に優れたマジックを見せて行く、NHKの教条的な放送の仕方とは打って変わって、いきなりマジック好きが面白そうなものに飛びついて、会場内を飛び回っているような臨場感から始まりました。古谷敏郎さん、ミスターマリックさん、河北麻友子さんの三人が、案内役をしています。

 

 一本目はフランスのジュネ・レアカイルの衣装チェンジから始まり、その斬新な手法に圧倒されます。何しろ遮蔽物を使わず次々に衣装が変わります。プロポーションがよく、顔立ちもよく、これぞフランスのイリュージョンと感じさせる優れ物でした。但しコンテストでは4位だったと言うことで、FISMの敷居の高さに驚かされます。

 次にマイクロ部門優勝のスペインのオルプドによるコインアセンブリー、ヨーロッパ人らしく上品に演じていますし、細かく不思議なテクニックを使っています。

 一人一人マリックさんが絶賛します。マリックさんがまるで少年の気持ちになって素直にマジシャンを褒めるのはいいのですが、その都度、「タネが全く分からない」。「タネが横から見ていても見えない」。とタネばかり詮索するのが気になりました。番組上、一般視聴者を対象としているわけですから、ここはタネの話はせずに、素直に見て楽しんではどうかと思います。

 

 ここで突然、1982年の優勝者にランスバートンの演技が放送されます。その鳩出しは今も色あせることなく輝いていました。この鳩出しを超えた演技だ、と紹介された中国のディン・ヤンの鳩出しの演技。二重舞台を作り、周囲を樹木で囲い、その中でドレスの格好で鳩を出して行きます。マリックさんは上着を着ないで鳩を出すことが不思議だと言っていましたが。然し、これがランスバートンを超えているかどうか。

 先ず二重舞台を作ることに無理がありますし、更に周囲を囲ってしまっては限りなく不自然な舞台が出来上がっています。体技とマジックを合わせて独特な世界を見せていますが、好みははっきり分かれるでしょう。

 

 ここで景色が変わって、ディーラーブースを見学します。フローティングビルを演じるディーラーさんが出て来て、実に見事に演じます。その上で、「これは50ドルDVDの解説と仕掛けが付いていて、初心者でもできます」。さて、これは問題発言です。マジックはタネだけではできない、独自の工夫と自分の世界を作り上げて演じないと、FISMでの入賞は出来ないし、その後にプロに成っても成功できない。と言うことを、ホローしないと、マジックは買えばできるおもちゃに見えてしまいます。

 始末の悪いことに、マリックさんが、キーを使ったトリックを1万2千円で買い求め、その後番組で演じています。マリックさんほどの人なら売り物をそのまま演じることは控えるべきでしょう。一流シェフが、自分の料理に味の素は決して使わないように、ここでプロが売り物をそのまま演じては自己の立場の否定でしょう。

 

 ここからクロースアップコンテストが続きます。今回の映像はクロースアップが多いことが少し気になります。好きな人にはたまらないでしょうが、一般視聴者から見ると、カードやコインが続くとどれも同じ現象に見えませんか。一人一人の内容がいいのは事実なのですが。・・・

 フランスのマルコビのカード。韓国のビニール袋から抜けるコインなど。その中でもフランスのミスタートリトンは、古風なスタイルで、ビバルディの四季を使い、レストラン風景を見せ、メニューの表紙のシェフの写真と、客がやり取りをして、メニューのシェフがワインを注いだリ、スプーンを出したり、しまいには、シェフと客が入れ替わってしまう。言ってしまえば画像アクトですが、巧く世界を作っていて秀逸でした。

 

 変わってステージコンテスト、今度は85年のペンドラゴンズの映像を見せ、今も歴史に残る人体交換をしましたが、それを超えた演技と言って、スペインのラモ&アレグィアが箱を使わない交換を演じました。然しこれがペンドラゴンズを超えたと言えるかどうか。疑問です。コミックとして見たら秀逸です。

 そのあと日本勢を紹介する中で、ジョニオのコインマジック。この人は今回クロースアップの三位です。久々演技を見ましたが、髭からコインを出すのがバージョンアップしていて、確かに不思議で、しかも面白いアクトでした。

 

 ここから先は緒川集人の特集のような扱いになり、彼が新手順を作りFISMにチャレンジする姿が克明に記録されます。マジック界にもスターが必要ですから、彼を特集することはそれなりに価値あることなのでしょう。

 集人の日常風景の間に、スペインのユンケによる胴切りイリュージョン、このイリュージョンは新しいアイディアで、見ごたえがありました。然し、この道具を運ぶとなるととんでもない車で移動しなければならず、とても日本に呼べるマジシャンではありません。

 スペイン若手数人のクロースアップ。ここらでカードは少し疲れて来ました。さらにマリックさんのスプーン曲げならぬ、フライパン曲げ。スプーンがフライパンになったことが進歩なのかどうか。途中古谷さんが子供のころ、四つ玉を買った時と同じ箱から玉を出して演じました。古谷さんの人生最高の時ですね。

 

 韓国のジョン・ウーパークのカードマニュピレーション。いいリズム感覚で、スピードの速いカードアクト。上手いです。この演技なら一般のお客様も喜ぶでしょう。ぜひ日本に招きたいマジシャンです。

 クロースアップ部門のチャンピオンはアメリカのダイセン・コロナ。お札を使ったアクト。全体を見ていないのでコメントできません。ステージ部門のチャンピオンは、ベルギーのローテン・ピロン。舞台一面に道具を並べて、ダンシングシルクのアレンジ版。シルクの動きが動物的で素晴らしい。でもメカの匂いが強く、チャンピオンとしてはどうかなぁ、と疑問。

 

 話は、緒川集人に戻り、コンテスト本番の様子を追い、その上でコンテスト一位入賞。素晴らしい成果です。

 いろいろ思うことはありましたが、絢爛豪華な錦絵を、雲の上から垣間見られて、幸せでした。又コンベンションに参加したいと思いました。 

続く