手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

アゴラカフェ ザッキー大成の会

アゴラカフェ ザッキー大成の会

 

 9月16日。日本橋三井タワー2階にあるアゴラカフェで、 Tokyo Tejina Theater(東京手品シアター)と称して、ザッキーと、藤山大成による公演がありました。アゴラカフェでの開催は、今年で3回目、コロナ禍の残る状況で、年に3回も開催してきたことは実績として評価すべきことです。

 この日、私は、午後から指導があって、5時に家を出ました。アゴラに到着したのが開場5分前の5時55分でした。すぐに開場されて、お客様も早々に集まりました。この晩は20人の参加者でした。

 小野坂東さんもやって来て、私の隣の席に座りました。東さんとは普段でもよく電話で話をしますが、会って話をするのは半年ぶりです。もう90歳になるそうです。それでもマジックが好きで、こうして毎回マジックの催しに顔出しをしてくれます。

 

 すぐに食事タイムになり、6時30分から、ザッキーのクロースアップが始まりました。内容は、三本ロープ。和同開寶コイン(実はマジックランドのコイン)を使ったリングとロープ。等々。20人のお客様を三組に分けて演じました。喋りはこなれて来ましたし、独特の柔らかい語り口になっています。何かの作品とマッチしたら、一気に人気が出るかもしれません。

 7時からはステージショウ。冒頭は、ザッキー、ファイルから色画用紙を取り出し、紙が本物の眼鏡になったり、眼鏡ケースが出て来たり、鋏が出て来たり、と一連の得意マジックから始まりました。マジックファンの希望とすれば、この手順をもう少し深堀してたっぷり見たいところです。

 次がビルカウント。20枚のお札から10枚とって、お客様に渡し、再度数えると8枚しかない。何度やっても数が合わない。前回作成した、ザッキー札と言う怪しい札を使って演じました。もっともっとザッキー札で遊んだら話は膨らむと思います。伸びしろアリです。

 その後、ザッキーが司会をして、大成につなぎます。このパターンがずっと定着していますが、ザッキーは喋りを得意芸にしたい気持ちから、便利に喋ってしまいますが、出来ることなら、つなぎの喋りではなくて、一芸となるような、狙いを定めた喋りをする必要があると思います。

 快活な司会、沈痛な司会、怪しげな司会、インチキ臭い司会、いくつもパターンがあってその都度変化を見せたら、多重人格者みたいで面白いのでは、と思います。

 大成は、二つ引き出しに始まり、金輪の曲。ともに古典の二作。安定した演技。気分良く演じました。その後、ザッキーとのコラボ演技。これは二人が最近よくやる、和洋対抗卵出し手順です。

 この二人は、ともに育ちが良さそうで、おとなしい性格ですから、競うと言うことが余りイメージできません。そんな中で対抗意識を持って、戦う姿を演じようとしてもも、仲良くマジックを見せあっているように見えます。仲良くしないで、もっと相手の邪魔をしたり、出し抜いて勝利したらどうでしょう。現状では消化不良を起こします。塩の瓶と卵が、紙袋と布袋で入れ替わると言う、ミクロな落ちでめでたくお終い。

 

 ここでこの晩のゲスト、サンタ登場。この人の演技は初めて拝見。見るからにザッキー大成とは違います。サンタと言うだけあって、サンタクロースの人形を持っています。体を押すとキュウと鳴きます。客席に行って、お客様に推してもらい、キュウキュウ鳴らします。特定の人が押すとききだけ鳴らないと言うギャグをします。

 面白いことは面白いのですが、見た目に反して、随分可愛い芸です。それを何度も客席に行っては繰り返し演じました。一回やれば十分です。もっとどうしようもない悪ガキを演じるのかと思いきや、お人形を使ってキュウキュウしていると言うのは、案外ザッキー大成のお友達に見えて残念。

 もっと尖って、お客様を馬鹿にして、ザッキー大成に闘志むき出しで悪態をついて、マジックショウを引っ掻き回したら物凄い人気になると思います。カード当ては不思議でした。でもそんな成功でいいのですか。次は命をかけて世間と戦う姿を見せて下さい。

 

 再々ザッキーが出て来て、チャイニーズステッキ。前回の時よりも少し前進が見られます。ライブはこうした同じ作品を続けることが大切です。

 そのあとテーブルに座ってクロースアップ。然し、さっきサンタがカード当てを演じたスタイルと同じです。これは意味がないでしょう。ここでほしいのはテンポのあるプロダクションマジックです。

 お終いは、大成が出て来て、羽根と傘の手順。FISM予選に出るための作品。ザッキーが大成を紹介するときに、突然大成が彼女と別れたことを告白。私の知っている彼女だっただけにどんな話の展開になるのかと期待しましたが、展開なし。もっとくだらない話に発展したなら儲けものでしたが、残念。自分を語るときは思いっきり自分を奈落に落とす覚悟が必要です。まだ自分をさらけ出していません。

 その大成の演技は、出だしに何度か羽根が出る所は美しいのですが、中盤からテンポが出ないため、平明に見えます。もっともっとアタックして、変化を作り、勢いを付けないと面白みが出ません。そもそもなぜ羽根を出すのかが今ひとつわかりません。

 例えば、自らの羽根を抜いて、それでお世話になった人に反物を織って差し上げると言うなら、鶴の恩返しになります。そんなストーリーがベースにあって、羽根を表現するなら、多くの観客は共鳴するでしょう。何もなしで、ただ羽根を出されて感動してくれと言われてもお客様は困ります。大成もここは、彼女と別れて、身一つになったのですから、そろそろアマチュア心から脱して、種仕掛けから離れて、本気に自身の心から出てくる思いを語って、手順つくりをしては如何でしょう。

 

 さて、ショウは90分きっちり演じて終演。その後、東さんを連れて地下の餃子屋さんに行き、中華で一杯やりました。いつになく東さんは私と話したがって、熱くマジックを語りました。今年は、どんどんマジシャンが亡くなって行って、寂しい話題ばかりです。何とか若手が明るい話題を作ってほしいと言っていました。

 分かります。どんな時でも希望が見えるマジックが見たいのです。私も何とか新しい手順を作って東さんに見てもらいたいと思いました。まだまだやることはたくさんあります。

続く