手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

二つのステージ

二つのステージ

 

 昨日(8月7日)は、日中に二か所のショウを致しました。こういうふうにお話しすると、超売れっ子タレントのように見えますが、とんでもない、たまたま二つの仕事が同じ日に重なっただけ。そして偶然場所も近いため掛け持ち可能だっただけの話です。

 一つ目の舞台は、アゴラカフェ、12時から14時までの出演。アゴラカフェは日本橋です。その後に神田明神。江戸っ子ホール。ここが16時45分からの出演。どちらも一時間演じなくてはいけません。一日に1時間ショウを二つ演じると言うのは疲れます。

 それでもお客様が求めてくれるのであればやろうと思います。

 先ず、朝家を8時に出ました、車の中はスーツケースが7つです。私は蝶のセットは2セット持っています。その他小物のマジックも2セットありますので、神田用 のスーツケースが3つ、日本橋用にスーツケースが3っつです。そして、両方共用する小道具のスーツケースが一つ。これで合計7つです。

 私の車は7つのスーツケースでいっぱいです。大成(前田)が運転して、先ずは神田明神へ、神田には9時に穂積みゆきさんが来ていて、一緒に道具を楽屋にはこびます。スーツケースを3っつ下ろして、テーブルなどを組みます。そして、私と穂積さんが道具を組んでいる間に大成が音響照明の打ち合わせをします。ここまでを9時30分までに済ませて、3人は車で日本橋へ向かいます。

 10時にアゴラカフェ入り、ここで残りのスーツケース4つを降ろして、道具を組みます。打ち合わせを済ませて、12時にお客様を迎えます。この日私は和服を着ました。芭蕉布の生地の着物です。芭蕉布と言うのは、麻の生地に似ていて、薄手でさらりとした肌触りです。ラクダ色で艶があり、沖縄の衣装に似ています。なかなか風情のある着物です。

 別にこんな忙しい日に着物を着なくてもいいのですが、今日の神田明神は高校生に浴衣を着てもらい日本文化を楽しんでもらうと言う企画だそうです。そうなら、私も浴衣を着たほうがいいかと思いますが、少し変わった着物をきたほうがいいかな、と考え芭蕉布にしました。

 考えて見ると夏に訪問着を着て出かけることは限られていますので、こうした日以外着物を着て歩くこともありませんので、思い切って着物を着て行きました。結果正解でした。

 

 アゴラカフェは12時30分からショウを開始。司会は大成。喋りを克服させたい思いが強いのか、アゴラカフェではよく司会をします。まだ相変わらず固い話し方をしますが、徐々に面白くなって行くことに期待しましょう。

 

 一本目は小林拓馬さん。カードマニュピレーション。今日は奥さんと子供さん(1歳半)が見に来ています。カードの手順を二つに分け、間に峯村健二さんの新聞紙から花やシルクが出る手順を挿入、その後、後半のカード手順。あまりにカードにばかり集中し過ぎていた手順に変化が出ました。もっともっとアレンジを加えて、独自の手順が出来て行ったらいいと思います。

 

 二本目はせとなさん。グラスに通うボールの手順はだいぶいい形にまとまってきたように思います。その後、喋りでカードの予言。少しずつ余計な喋りが消えて上手くなっています。

 

 三本目は穂積みゆきさん。袖卵の後に6枚ハンカチ、そこから傘出し。今回6枚ハンカチは初ネタ。まだまだ上手く行っていません。もう少し手馴れるまで舞台で演じることです。

 

 5分の休憩があって私の演技。客席から出て来て、二つ引き出し。そのあと口上があって、前田が独り立ちしたことを話し、大成になったことを伝えました。

 その後、サムタイ、お椀と玉、定番の手順です。大成の金輪の曲があって、蝶のたはむれ。もう何十年も続けてきた手順です。幸いお客様が喜んで下さって、皆様満足の様子。終演後、少し客席を回ってお客様とお話しして、その間大成と穂積さんとで道具をかたずけ。急ぎ車に乗って神田明神へ、

 日本橋から神田明神へは20分。着いてすぐに道具のセット。現場は舞台袖も、客席も若い人ばかりです。3人のティックトックで知られているお兄さんたちが集めたお客様が主流だそうです。ティックトックと言う形でタレント活動して売れて行く、と言うスタイルを始めて知りました。

 16時45分出演、演技はほとんどアゴラカフェと同じ、日本橋の田源さんと言う老舗の呉服店の社長さんが取り仕切るイベントで、若い男子の三人組が司会をしたり唄を唄ったり、浴衣コンテストをしたりと学園祭のような内容で盛り上がっていました。

 私の手妻は珍しかったらしく、来ていた女子がしきりにツイッターで実況していました。今の若い人はショウを見ている時も携帯を手放さず、ひたすら送信しています。どんな見方をしようと自由ですが、見ることに集中した方が自身の心に印象を焼き付けるにはいいと思うのですが、彼女、彼らはどう考えて手妻を見ているのでしょうか。

 

 とにかく公演を終えてみると、朝から何も食べていません。間にお菓子やあんパンを食べたきりです。どこかで食事をしなければいけません。神田明神脇にあるインドカレー屋さんに行こうと思ったのですが、日曜日は休みでした。よく働いてくれたので、いい食事をしようと思います。

 18時に車に乗り込み、新宿まで出て中華両rを食べようかと考えましたが、お目当ての店が閉まっていました。そこでふと思い出したのが、中野にあるジンギスカン料理の雪だるまという店。いつも車で通っているときに見える店で、一遍入ってやろうと考えていたので、今日はいいかと出かけました。

 雪だるまは、中野通りと大久保通りの交差点にある店で、ビルの二階にあります。大成に車を任せ、私が店の二階まで行きました。ところが店は大混雑。席が空くのが1時間後と言われました。これではだめです。

 そこで考えたのは近くにある更科と言う蕎麦屋です。ここは私が好きで時々出かけます。蕎麦が三種類あり、白く細い更科蕎麦、太めでしっかりしている二八蕎麦、もっとしっかりして強い香りの田舎蕎麦、三種類を頼んで、天ぷら盛り合わせをいろいろ頼んで、卵焼きなど頼んで、酒を飲みました。ようやくの食事にほっと一安心。

 よく考えて見たならジンギスカンは、芭蕉布の着物を着て行く店ではありません。あのもうもうとした煙の中でジンギスカンを食べたなら、いっぺんに着物が油まみれになります。場所探しでうろうろしましたが結果、更科でよかったと思いました。

 こうして、食事を済ませ、忙しい一日を終えました。

続く。