手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ヤングマジシャンズセッションの二日目

ヤングマジシャンズセッションの二日目

 

 8日、9日の二日間、ヤングマジシャンズセッションが開催されました。主催者としては、二日間のマジックショウは大変な仕事でした、特に今回はコンテストまで付きましたので、前田将太ほかスタッフ一同は目の回るような忙しさでした。

 然し、私はやってよかったと思います。コロナ禍にあって人集めは難しかったのですが、今回はアキットさんのお客様がたくさん来て下さって客席はとても賑やかになりました。アキットさんにも、お客様にも感謝申し上げます。

 

 さて、9日は13時からコンテストがありまして、その後、15時に表彰式がありました。16時から1時間劇場を閉館して、17時に再度開場しました。ショウは17時30分開始。

 表彰式以後、私はフィードバックをして、コンテスト参加者にアドバイスをしました。結局、朝9時に入館して以来、夜21時の退館まで、全く劇場の楽屋から離れることが出来ませんでした。

 楽屋では、アキットさんや、大樹、緒川集人さんなどとずっとマジックの雑談をしていました。実はこうした時間がとても大切なのです。いつも顔を合わせている人でもじっくり話をすると意外な話が出て来ます。思わぬところで人の別の才能を発見したりします。やはり人と会って話をするのは大切です。

 また、学生さんや20代のアマチュアさんと話をするのもいい経験です。彼らが何を夢と考え、何を求めているのかが分かるだけでも価値があります。

 

 5時30分ショウ開始。この日のショウは、一本目にコンテストの優勝者が出ることになっています。然し、コンテストの優勝者の演技がウォンド、二本目に出演するダンクさんが同じくウォンドの演技、そこで、急遽出演順を変え、一本目は前田将太、二本目はダンクさん、3本目は綾鷹さん。4本目に優勝者のすぎけんさんになりました。

 

 前田将太。羽根のプロダクション。3分程度にまとめて、そのあとテーブルクロス引き。私との絡みはなく、一人で喋って進行しました。受けのいい芸であるため、よいオープニングになりました。前田はそのまま司会進行をします。

 

 二本目は明治大学のダンクさん。ウォンドのアクトを軽いコミカルな演技でまとめました。性格に合っていて軽くて面白く仕上がっています。

 

 三本目は法政大学の綾鷹さん。一日中鏡の前でメイクをしていました。その効果があったのかどうか、いい男になってカードマニュピレーションを演じました。面白いハンドリングで不思議なところも多々ありました。ナルシズムの世界に耽溺し、当人はご満悦の境地。

 

 四本目はすぎけんさん。昨日紹介したコンテストの演技。大分緊張したようです。中盤に手痛いミスがありましたが、大喝采のうちに終わりました。

 

 五本目はアキットさん。何度か見ている彼の演技の中でも、今回の作品は出色。彼の幼児体験を率直に表現しています。決してマジシャンが踏み込まない世界を、芝居やパントマイムで表現して見せます。そのため大勢のスタッフを引き連れ、大道具を駆使して自分の世界を作って行きます。

 秀逸なのは、子供が体内から育って誕生してゆく姿をそのままマイムで演じています。赤ん坊の生まれた姿と表情がリアルに表現され、それが真に迫っています。彼はどうやってこの表情を探し当てたのでしょうか。こうしたところは独自の才能を備えています。何にしてもこんなマジシャンはどこにもいません。すべてがアキットさんの世界です。

 ここで10分間の休憩。

 

 後半、六番目が私、サムタイと蝶。蝋燭の生灯りを両脇に据えて、古風な形での蝶を演じました。

 

 七番目は菰原裕さん。ここまで深い出番に出ると大分緊張しています。私やアキットさん、緒川集人さん、藤山大樹に挟まれて出演するのですから生中な演技ではお客様も納得しません。

 舞台は出番が一つ後ろに変わるだけで、お客様の見る目は急に厳しくなります。それでもいつもの、紙もコップと四つ玉の手順を目いっぱい演じました。夏のFISM のコンテストの度胸試しにはなったと思います。

 

 八番目は緒川集人さん 。ロサンゼルスのマジックキャッスルを本拠地にして活躍する集人さん。テレビにも頻繁に出ていますので、見たい人も多かったようです。その演技は、ウォンドとシンブルから始まりました。

 何と二組もウォンドで出ているのにまだやるのか。と少し不安になりましたが、芸の力は恐ろしい。基本的なウォンドの消失を見せただけでも観客は歓声を上げました。もうすでに何度も演じられている内容です。

 然し改めて見ると集人さんのそれはきっちり魔法がかかっているのです。それを見て私も唸ってしまいました。

 シンブルも手馴れて軽く演じています。なにより私はプロの演じるシンブルをほとんど見たことがありません。ケン正木さんの演技くらいです。改めて集人さんのシンブルを見て、

 「あぁ、シンブルとはこんな風に演じるものなのか」。と再確認をしました。確かに大上段に構えて大げさに演じる内容ではありません。でも、軽く演じていながらも十分お客様に価値を与えています。

 そのあとは、三枚の絵画を使って、絵の中の財布や鋏、ロープが本物になって、財布からコインが出る演技、小さな素材ながらも技が光っていますからお客様は納得します。

 なにより喋りにテンポがあって、メリハリが効いているため上手さを感じます。正直、アメリカのショウビジネスのレベルの高さをひしひしと感じます。彼の喋りを聴くと、日本人のマジシャンの喋りはぬるく感じます。

 ラストは絵画が、集人さんの写真になって終わり。小さな素材を目いっぱい大きく膨らませて上手い手順を見せています。いい演技でした。

 

 九番目は藤山大樹。私はヤングマジシャンズセッションを始めた時から、私がトリに出演することはありません。せっかく若手を引き立てようとする催しですから、トリも若手を出そうと考えてそうしています。

 本来なら、緒川集人さんにトリを取ってもらう方がいいのでしょうが、道具立ての大きさを考えて、大樹にしました。実際この計らいは成功でした。大樹はトリにふさわしい安定した演技を見せました。いつの間にか大樹は上手くなっています。

 33歳、いいポジションに立ちました。一昨年には芸術祭賞を受賞しています。これから10年は彼の独走の時代が続くでしょう。いい流れです。

 

 と言うわけでヤングマジシャンズセッションの六回目は終演しました。なかなかプロとアマチュアが一堂にマジックをする機会と言うのは限られています。この舞台に出演することで、もっともっと互いがしのぎを削って、白熱した演技が生まれることを期待します。

ヤングマジシャンズセッション終わり