手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

セッション2日目

セッション2日目

 

 昨日(3月2日)は、ヤングマジシャンズセッションの2日目でした。楽屋入りは午後3時からですが、午前11時に、私の家に、SORAさん、橋本昌也さん、小網健義さんが遊びに来ました。私がどんなところに住んで、どんな生活をしているのか興味があるようです。

 どなたが来ても構いませんが、公演中のことですので、部屋の掃除も行き届いていません。しかも、数日前に、アマチュアさんからいただいた、マジックの小道具があちこちに置かれていましたので。朝から掃除かたずけをしました。

 来月から弟子入り予定の朗磨君がもう手伝っています。朗磨君は一昨日高校を卒業したばかりです。4月からは日大芸術学部に通います。大学に通いつつ弟子修行をします。私とすれば、もうこれで最後、これで最後と思いつつ、弟子を取っています。

 今のところ私の体に大きな問題はありませんが、何かあったら人を育てることもできません。それでも、次々に、指導を受けたい人、弟子になりたい人がやって来ます。教えることはやぶさかではありません。でももうそう長く教える時間がありません。何とか演技が出来るのも、せいぜいあと10年。その間で弟子に取れる人は一人か二人、ひょっとすると朗磨君が最後の弟子かも知れません。

 

 アトリエで雑談をして、3時半に座高円寺に入りました。それからセットを始めます。出演者はそれぞれの楽屋でマジック談義、みんな楽しそうです。私はマジックショウは2日以上の開催をしないと意味がないと言うのが持論です。

 なぜかと言えば、一日の催しでは出演者同士話がじっくりできないからです。2日とあれば、初日は道具は楽屋に置きっぱなしでいいわけで、かたずけの必要もありません。終わった後もみんなで呑みに行けます。2日目もゆっくり楽屋入りしてじっくり仕込みが出来ます。時間にゆとりのある中で、仲間と話が出来ると言うのはとても貴重なことです。

 元々、ヤングマジシャンズセッションと言うのは、ベテランマジシャンと若手マジシャンの語らいの場として考えたものです。話をすることもなく、ただ自分の演技だけして、いなくなってしまうのではセッションになりません。

 私が若いころ、当時のベテランマジシャンであった、アダチ龍光先生や、天洋先生から楽屋で聞いた話が、その後になっていろいろ自分自身の芸能に役立って行きました。それを考えると、今、私らが若いマジシャンに話しておくことはとても大切なことだと思います。それにはゆったりとした公演時間を作り出さないと、目標は達成できません。

 そのため東京も大阪も2日間の開催にしているわけです。

 幸いにセッションはいい流れになっています。2日目のショウは、前日よりもお客様の数が少し少なくて、反応が心配だったのですが、どうしてどうして、結構盛り上がっていい具合のショウになりました。

 

 今回2日間ともお客様の反応をロビーで伺いました。今回はこれまでになく客席の反応が良かったので、十分に手ごたえを感じました。若い人も増えて来ていますし、長い私の公演を見続けてくれた人も来てくれました。有難いと思います。

 若い人の中には、自分が私の演技を見て、どう感じたかを熱心に語って聞かせてくれる人もいます。和の世界をあまり知らない人が、どういうふうに手妻を見ているのかが聴けて、随分今後の参考になります。お客様の意見と言うのは貴重です。

 秋には、私と大樹、大成で手妻の公演をしたいと思います。その中には新しい手妻も入れて、また現代手妻も考えて、いろいろに手妻を工夫して行きたいと思います。

 但し、この先この活動を続けるには、国や地方自治体の支援が継続して行かなければなりません。また、活動も私だけが動いていてはどうにもならず、次の時代をリードしてくれる人が手伝ってくれなければ、どうにもなりません。これからせっしょんも私の一門公演も、プロデュースして行ってくれる人を探して行こうと考えています。

 

 公演が終わって、荷物のかたずけを朗磨君と大成に頼み、私は一人でピッザの窯鉄に行きました。このところ窯鉄に頻繁に言っています。この店は適度に日知が少なく、店主が私の相手をしてくれるので、面白くてついつい出かけて行きます。

 それでも今日は、何となく一人で飲みたかったのです。ベーコンピッザとサラダを頼み、ハイボ-ルを一人しみじみ呑みました。別段何人かで呑むのもいいのですが、この晩は一人で呑みたいと思いました。

 さてまた明日には公演のために取り散らかした道具の、整理と掃除をしなければいけません。演技中に壊れた仕掛けもあります。明日には直さないといけません。あれこれやるべきことは多いのです。でも今は、ひと時、自分の舞台のことを考えつつ、酔い心地を楽しみたいと思います。

 私の舞台はうまく行っていたのか、司会はよかったのか。余りに私の個性が強すぎて、公演全体を私が呑み込んでしまったのではないか。余り本気を出して私がシャカリキになってやってしまうのも、ゲストに失礼なのかもしれません。

 そうだ、もうセッションで司会はやめよう。むしろいい司会者を育てよう。舞台も弟子に譲ってしまい、私はプロデュースに専念したほうがいいだろうか。いやいや、全く私が出演しないと文化庁からの補助金も出ませんので、少しは演技をしないといけないでしょう。

 等々、いろいろ考えをめくらせつつ、少し反省をしつつ、アルコールを流し込みます。何のかんのと言っても、舞台を終えて、じっくり自分を見つめて一杯やれるこのひと時は幸せです。

続く