手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

MAGIC9 単独公演

MAGIC9 単独公演

 

 まるでマジックの宝石箱のような珠玉の公演が12月4日、三鷹芸能劇場で開催されました。かつて大学のマジッククラブに所属していて、今はサラリーマンとして生活している仲間9人が集まっての単独公演。

 全編マジックに対する愛情が伝わってきます。そしてどの演技も、このまま埋もれさせておいては勿体ない佳作揃いです。私自身いろいろなマジックショウを手掛けて来て、常に過不足を感じていたのですが、今回客席で見ていて、「私が見たかったのはこれなのかもしれない」。と思わせる舞台でした。以下個々の感想。

 

 一本目「ドクターさん」。サンタクロースの格好をしてプレゼントをたくさん出すマジック。流れはダイスのプロダクションを、プレゼントの箱に置き換えたもの。この晩の演技の中でもっとも学生らしい手順でした。

 箱のカラーチェンジや、分裂など、次々に見せる技が、ダイスの手順よりずっと理由が通っているため、気が利いて見えました。ただ、終始大きな暖炉を置いておくのは、無駄に大きくスライハンドの演技には邪魔です。サンタの格好と、ツリーで十分世界を表現しています。

 

 「小松真也」さん。この人は数年前に、私の主催するマジックマイスターに出てもらっていて記憶しています。

 一昨晩はコイン。地味なコインロールから始まり、こんな演技で5分出来るのかと思っていると、どうしてどうして、大きなコインになってからの技法が冴えて、ついつい引き込まれます。ラストのお札も素晴らしく、盛り上がりました。

 

 「諭吉」さん。この会の会主です。何度かこの人の演技を見ていますが、ばかばかしさとテクニックが合わさって、抜群の内容です。来年から、私の玉ひで公演の準レギュラーに入ってもらっています。

 この人はひょっとすると、マギー司郎や、ナポレオンの次に来る人になるかも知れません。やることなすことばかばかしいのですが、演技が無心で、それを一途に、隠さず演じます。

 今回も音楽に乗ってくす玉を出して、観客は大笑い。みんなに愛されています。みなさん、笑っているのも今の内ですよ。10年後には巨匠になっているかも知れません。

 

 4本目は「うえし」さん。この人は井上孟人さんですね。いつもは鳩の頭を出す人です。花屋のお姉さんの格好をして、花と、指先から灯りを出すマジックをコラボ。初めは陰気に椅子に座っていて何とも学生っぽく、自分の世界に籠っていますが、後半になるに連れて内容が冴えてきました。前半をもっと刈り込んだらいい手順になるでしょう。

 

「菰原裕」さん。来年のヤングマジシャンズセッションの出演者。さすがにこのメンバーの中に並ぶと別格です。手順の作り方も上手いですし、自分がこれまでしてきた、紙コップとボールの手順がしっかり基礎になっていて、一層発展しています。真ん中でたくさん紙コップを出すところなど、独自の世界を作っています。

 小さな発想をハッタリをかまさず素直に表現しているところが好感が持てます。私が望むタイプのマジシャンとは少し違いますが、最上のアマチュアマジシャンです。

 

 六番目、「諭吉さんと小松さん」二人の体にイルミネーションを付けてブラックアートによるCDの演技。CDが出たり消えたりカラーチェンジしたりします。

 何でこういうことをするのかなどと問うてはいけません。理屈などないのです。諭吉さんのすることですから。小松さんがよく付き合っていると感心します。でも面白いことは無類でした。

 

 ここで休憩。

 

 7本目は「ダンク」さん。来年のヤングマジシャンズセッションの出演者。明治大学の学生でウォンドの演技。私は常々学生の演技を見て、ウォンドに説明がないとぼやきます。ダンクさんも同じ、でも個性が出ていて面白いのは事実です。

 今回はウォンドが大小になる手順にこだわっています。あまりここはこだわらなくてもいいのでは、またラストにすべて消してしまうのはどうでしょう。この人の性格からするなら、無責任にたくさん出して終わる方がばかばかしくて面白いと思います。

 

 「ちゃぶる」さん。セクシーをテーマに、花と香水を出しますが、センスが抜群です。もっともっと役になり切ればプロとして成功する可能性大でしょう。

 日本の新たなコメディマジックを切り開いて行けるかも知れません。後半の赤い花を出しながら、前半で様々に見せた素材が一つ一つ結びついて大きな手順を作って行くところは、プロ的な手順の作り方で感心します。

 あぁ、こんなにできる人をなぜマジック界は外に放出してしまうのだろう。人材はいるのにマジック界は人を生かしていない。勿体ない。

 

 9本目は「すぎさんとけんさん」のコラボのウォンドです。この二人をコンビで見せるところが学生の素人臭さですが、この場合はそれが成功しています。

 すぎさんは見かけからしてマジックが上手そうです。方や、けんさんは米屋や酒屋の跡取り息子のような風貌で、絶対にマジックをしない人に見えます。この人が愛想も子もない顔つきで、何度も束になったウォンドを奇麗に消すので客席はどよめきます。

 恐らくこの顔つきでマジックをされると観客は悔しいのでしょう。この二人の差がずっと演技を支えていて、最高の出来でした。プロの世界では決して見られない演技です。

 

 ラストは再度「うえし」さん。鳩の頭の演技が発展して、かなり不思議になっています。海外のコンテストで披露しつつ細部まで洗練されて来ました。この人もアマチュアの完成形なのでしょう。いい演技でした。

 

 アマチュアのマジックショウを見ると、いつもならストレスが溜まる場合が多いのですが、久々晴れ晴れとした気持ちになりました。粒揃いのいいショウでした。

 然し、こうした人材がみんなサラリーマンになってしまうのは勿体ない。彼らをマジック界に留められないのは彼らの責任ではなく、今のプロマジシャンがだめなのです。

 日本のプロマジシャンが実力者揃いで、年収3000万円以上稼いでいる人が20人もいれば、彼らは必死になって追いかけるはずです。彼らをどうするかと問う前に、今のプロの質を上げなければどうにもなりません。

 いやいや、マジシャンがどうあれ、自力でマジック界を何とかしようという人材が現れたときに、マジック界は変化するのかも知れません。そうなら私は何をしなければいけないのか。

日が暮れて道なお遠し。

続く

 

 1月のヤングマジシャンセッションのコンテストに今回の出演者の多くがチャレンジします。今回、御見逃しの方は1月9日の公演をご覧ください。