手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

SAMジャパン 3

SAMジャパン 3

 

 SAMジャパンは、毎年日本各地で世界大会を開催してきました。これも日本のマジック団体では珍しいことでした。日本での世界大会は、多くは東京、大阪などを本拠地にしている組織が東京、大阪で開催していました。

 開催場所を移動しない理由は明らかで、地方都市での開催は常に観客動員にばらつきが生まれます。大きなリスクと背中合わせの開催になるのです。

 私は、多くのマジック愛好家を育てるには、地方都市の開催こそが一番大切だと考えていました。実際に優れたショウを目の当たりに見ると言うことはとても大きな刺激になります。日本ではいまだに、東京大阪と言った大都市と、地方都市とではショウに接する格差が大きすぎます。

 私は、少しでも地方都市にいいショウを提供するのがSAMの役目ではないかと思い、毎年開催場所を変えて来ました。理想はその通りです。然し、これが私にとって、後々大きな負担となって行きます。

 一回目と二回目は東京板橋で開催、三回目は熊本菊池(九州奇術連合会と合同)、四回目は三重県伊勢(伊勢博覧会と合同)、五回目は仙台、六回目は京都、7回目は境港(港博覧会と合同)、八回目は長崎、以後、浜松、東京、札幌、横浜、福岡、東京、埼玉、横浜、と続きました。

 伊勢と境港は博覧会場の中でショウのみを開催しましたので、コンテストはできませんでした。

 それ以外はコンテストを致しました。その中で、チャンピオンになったのは、一回目のカズカタヤマさんと、二回目のセロさん。六回目の幸条スガヤさんの三人です。15年大会を開催して3人だけなのです。

 これは始めに申し上げたように、既定の点数に達しない場合は入賞も優勝も認めないと言う、本部の考え方をそのまま踏襲したためです。この基準は、世界のマジック大会の基準で審査していますので、仮に、SAMジャパンで入賞したなら、アメリカのSAMやIBMの本大会でも入賞は間違いないはずです。

 こうして審査基準を厳しくしたことで、韓国や、台湾、中国香港からもコンテストに参加する人がやってきて、最も数が多かったときには、ステージ部門が25人。クロースアップ部門が15人。合計40人のコンテスタントが参加しました。フィードバックの説明も、韓国語、中国語の通訳が付き、とても煩雑で時間がかかりました。

 2010年代のアジアの国々は、今よりずっとマジックのレベルが低く、みんな日本に憧れてやってきました。彼らは熱心に審査員のアドバイスをノートに書きこんでいました。

 

 SAMジャパンでは、チャンピオンになった人にはアメリカの本大会にゲストとして出演できる権利を出しました。約2000ドルの旅費を出し、ホテル代と、大会参加費はアメリカ本部持ちと言う、願ってもない条件でした。

 アメリカ本部としては一人でも多くの日本のマジシャンを見たがっていましたので、チャンピオンの出ない年は私が推薦する形で、日本のプロを送りました。ブラボー中谷さんや、カズカタヤマさん、ナポレオンズさん、藤本昭義さんなどをゲストに推薦しました。

 海外の大会に出るのは初めてのマジシャンにも自信をつけてもらうために積極的に送り出したのです。日本国内に閉じこもって活動しているマジシャンに、少しでも広い視野で活動してもらいたいと考えました。アメリカ本部との交流で、出演の場を設けたことは、日本のマジシャンに多くの点で収穫があったと思います。

 また、コンテスト自体も、賞状とトロフィーを渡して「はいお終い」。と言うのでは先がありません。チャンピオンになったならその先にアメリカの出演がある。FISM視野に入れることも出来る、海外のプロ活動にも道が開ける、と言うのであれば、SAMの国内コンテストが大きく活動を広げられる結果になって行きます。そうあるように願ってアメリカとのつながりを作ったのです。

 

 実際、多くのアマチュアにとってはプロになる意思はないでしょう。アマチュアはアマチュアのままマジック活動をしたいはずです。にもかかわらずSAMがコンテストを通してプロの道を説いて行くのはなぜか。それは人前で見せるためのマナーを学んでほしいからです。

 いくら趣味だからと言っても、マジシャンがただ自分のやりたいことをだらだらと続けていていいと言うものではありません。舞台に立つ、イベントに呼ばれてショウをする。と言うことは、プロであろうとなかろうとショウマンシップを身に着けていなければいけませんし、仕勝手(しがって=わがまま)でマジックをしていてはいけないのです。

 それを誰かが教えない限り、ビデオや道具を買っただけでマジックをしている人は学ぶことが出来ないのです。

 ところが、アマチュアは時として、まったく信じられないような舞台をします。

 

 年取ったアマチュアさんに多いのですが、初めに舞台に出て来て、長々自分の経歴を喋り出す人がいます。自分が50年マジックをしていることを自慢し、いつまでたってもマジックが一つも始まりません。

 

 マジックをしないで歌を歌う人や、踊りを踊る人もいます。少しぐらいの歌や踊りなら愛嬌ですが、全くマジックがないままワンコーラスみっちり歌う人がいます。正直困ります。

 

 カード手順や、四つ玉手順を8分間も続ける人がいます。ご当人は面白くて仕方ないのでしょうが、見る側は延々賽の河原の石積のごとく、果てしなく意味のないものを見せられます。指の間で増やしてはハットに捨て、増やしては捨てている動作がやがて拷問に見えて来ます。

 

 自分で考えたメンタルマジックを披露する人がいます。観客を上げて、新聞の記事の特定部分を読ませたり、辞書の特定のページを探させて細かな文章を読ませたり、それを紙に筆記したり、カードを引かせて、シャフルさせたり、サインさせたり、散々観客に用事をさせて、10分かけて、ようやくトランプが一枚当たります。

 当たったときには、観客はそれがメンタルマジックだったこともすっかり忘れていて、舞台に上がったお客様も客席も、ぐったりしています。

 500人入るコンベンション会場で、拍手をする観客は数人。その拍手を聞いて満足げにメンタリストは去って行きますが、観客の拍手は、不思議さを讃えた拍手ではなく、終わってくれたことに対する感謝の拍手です。

 ただ好き勝手にアマチュアにマジックをさせたなら、そこから生まれるマジックは我ままにしかなりません。それを制御して、社会とのつながりを教えるのはコンテストの役目なのです。いやそれ以前に教える先輩や指導家がいなければいけないはずなのです。今に至ってもマジックの世界は未熟です。

続く

 あす、4日(土)、座・高円寺で、16時からマジックマイスターが催されます。前売り3000円、当日3500円、マジシャンが16本出演します。よろしかったらどうぞお越しください。詳細は東京イリュージョンまで、Tel 03-5378-2882