手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

社会とつながる

社会とつながる

 

 私は20代の初めから毎年自主公演を続けて来ました。初めは私のライブ公演でした。そのうち仲間を誘ってマジックショウを開催するようになりました。その頃はマジシャンが自ら劇場を借りてライブを開催すると言うのは珍しかったのです。

 それはマジシャンが黙っていても仕事の依頼が次々に来て、仕事をこなして行くだけで生きて行けたからです。最近は様子が変わって来て、待っているだけでは仕事は来なくなりました。そのためかどうかは分かりませんが、ライブ公演をする人が増えて来ました。いい傾向です。

 自らがマジックショウを開催してみると分かりますが、自主公演は余りにやるべき作業が多すぎて、労力のわりに儲かりません。自分で思っている以上に人集めは大変ですし、それでいて収入はわずかです。それに対してかかる経費はあちこちあって、支払いは大きく、とても利益は出ません。

 そこまでして、ライブ活動をして、さて、自分のマジックは本当に人の心に響いて、感動を与えているのかどうか、無論、良かれと思ってしているのですが、本当にお客様が求めているのかどうか、わからないまま40年以上も公演を続けているのです。

 

 自主公演をするときに、小さくても、ライブハウスや小劇場のように、一般客が入れるような場所で、常日頃入場料を取って開催しているような劇場で公演するなら、先々も一般客を呼び込めて、観客が増えて行く可能性もあります。そうした公演は是非やるべきです。

 然し、例えばクロースアップの公演などで、会場費を節約するために、およそショウとは無縁の、市役所の会議室とか、練習室などで催しをするのはショウとしての盛り上がりも作りにくく、何より、お客様がショウを見に来て、幻想の世界を体感するには余りに程遠い場所です。こうした場所でショウを開催していてはいつまでたってもアマチュア活動であり、マジックファンを掴むことなどできません。

 アマチュアがアマチュアとして演じるなら、どこでどんな演技をしても構わないのですが、プロマジシャンのライブとなると、そこにはもっと高い目標を持って公演をしなければいけません。プロの活動ならば、洒落たホテルのレストランなどで、クロースアップを楽しみたいですし、ステージショウでも、きっちりとした舞台のある所で、音響、照明、舞台方のプロを頼み、チラシもちゃんと印刷したものを作りたいですね。

 結局それぞれのプロに仕事を頼んで公演しないと、いつまでたっても内容は素人のままです。費用はかかりますが、一般客を招いて公演をするとなったら最低、なすべきことはしっかりやらなければなりません。仮にお手軽な公演を三回しようと考えているなら、それを一回にしてでも、一回に費用を目いっぱいかけて、ちゃんとした活動をしなければ価値がありません。

 そうでないと、せっかく来てくれた一般のお客様が、仲間を連れて来てくれたときに、「自分はこう言う優れた芸能を知っているんだ」。と自慢が出来なくなります。

友人に「いい趣味ですね」。と褒められるような場所で、優れた内容を見せなければ、友人を誘って見に来ることなどあり得ないのです。

 お客様がお客様を呼ぶ、口コミの情報が育ってこないと、一般客は増えません。私が見るところ、多くのマジックショウが一般客に支えられて、安定して定期的に公演が出来ないのは、お客様のお客様、即ちマジックに何の興味もない一般客に、口コミで評判が広がらないからなのではないかと思います。

 始めはマジックの好きなお客様が来てくれていても、その付き合いで全くマジックに興味のない友人が一緒に来て、たちまち虜になってしまい。以来毎回見に来てくれる。こうしたお客様が育ってこそ、マジックショウは多くの支持者を得ることになります。

 そうなるためには、一度、お客様の立場に立って、劇場から、チラシから、受付から、ショウの構成や、出演者、隅々まで自身の公演をお客様の立場で見てみると、けっこう一般客を拒否しているような、おかしな行動をしていたり、センスのない雰囲気でマジックを見せていたりして、貴重なお客様を失っている場合があるのです。

 マジックショウでたびたび感じる、狭い世界の中での分り合った仲間同士に見せて、狭い仲間の評価に満足しているマジック。あの状況を見ると私は、「こんなことをいくら繰り返していても、結局観客は増えない。マジックショウを面白いと思う一般客は育たない」。と思います。

 そんな公演をしている人に限って、「なぜもっとマジックにお客さんは来ないのだろう」とか、「もっとたくさんの企業がスポンサーになってくれてもいいのに」。などと勝手な妄想を抱いています。

 自分が何をしたいのか、どんなマジックを演じたいのか、と言うことはとても大切なことですが、それよりも、先ず、お客様が何を求めているのか、を知って、ショウを考えることはもっと大切なのです。不思議であればお客様が喜んで見ている。と言うものではないし、マジックであればお客様が来ると言うものでもありません。

 芸能とはどういうものなのか、を熟知して演じない限り、お客様は来ないのです。何でもないことのようですが、それが分からないマジシャンは山ほどいます。それほど芸能は自己中心の世界なのです。

 でもマジックを評価してくれるのはお客様なのです。お客様が感動してくれなければ評価は生まれないのです。マジシャンが自ら、面白かっただの、良かっただのと自己評価を下すなどとんでもないことなのです。

 目の前のお客様が何を求めているのか、この何でもない問いの答えを見つけ出すために、何十年も自主公演を続けているのです。

 続く