手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

少子化、GDP4位、

少子化、GDP4位、

 

 「この先ますますの少子化がやって来る」。などと言う話を聞くと、何やら日本が不景気な道へまっしぐらに進んで行くように思いますが、そうでしょうか。

 いきなり人口が減って行くのは問題ですが、私は、緩やかに人口が減少するのはむしろいいことだと思います。それは、今の現状では、日本に住んでいると、いつまで経っても生活の豊かさを体験できないからです。

 私がつくづく日本は本当の意味で豊かな国ではない。と実感したのは、FISM横浜(世界最大のマジック大会)を体験した時です。それは、FISMと言う大会は、通常月曜日から土曜日まで、6日回開催されるのですが、マジックマニアが恋焦がれていたFISMが、現実に日本にやって来たと言うのに、6日間そっくり参加できる人が少なかったことです。

 結果を言うなら、3日、3日に分けて、当時まだネットはそれほど普及してはいなかったのですが、みんなでチケットを分け合ったのです。FISMの大会は、公称、800人と発表されましたが、それは、月火水の3日三かと、木金土3日の参加者が登録したため、名簿が膨らんで、800人になったのであって、実質の販売枚数は、およそ500枚だったのです。

 当時の日本では、会社で6日間の休暇を取ることは難しかったのです。横浜大会は、1994年7月25日から30日まで横浜パシフィコ21で開催されました。折あしくバブルがはじけた翌年でした。それでも3年前までは好景気で会社も儲かっていたわけです。

 当時日本は世界第二位の経済大国だったわけで、その時代に働いていたサラリーマンなら、最も豊かな国の国民なわけですから、いい思いが出来たはずですが、その実態は、FISM横浜に6日間参加する恩恵にすらあやかれなかったわけです。

 あれから30年、日本人はどれだけ豊かになったでしょうか。依然として山手線中央線は朝晩満員の状態ですし、苦労して働いた収入で、買った家が30年も住むとあちこち壊れて来てほぼ無価値なものになって行ったり、マンションを買っても築30年ともなれば、建て替えもままならず、売るに売れない物件になって行ったり、日本に暮らしていると少しも価値あるものが手に入らないではありませんか。

 豊かさが実感できない原因は何か、答えは簡単です。人口が多すぎるのです。日本の国土に1億3千万人。日本より少し小さなドイツが、人口は8千500万人です。ドイツは見渡す限り平原の国で、南部を除けば高い山がありません。そこに8千500万人です。

 日本は、ドイツよりも広い国土を持ってはいますが、山の多い土地で、多くの日本人の住んでいる場所は、山間の盆地か、海沿いの平地にひしめき合って暮らしています。それゆえに、ドイツと比べると、遥かに息苦しい暮らしをしているように見えます。

 ドイツは、通勤するのに満員電車には乗りません。通勤距離も1時間などと言う人はいません。家は広く、建築年数100年以上はざらにあります。ドイツ、イタリア、日本は、かつては第二次世界大戦で共に戦い、国土は徹底して破壊しつくされた国ですが、ドイツもイタリアも復興が早く、日本と比べたならとても豊かな生活をしています。イタリアなどは日本よりも所得は低く、しかも、日本並みに山の多い地形なのですが、住んでいる家は大きいですし、生活もゆったりしています。このゆとりはどこから来るのかと考えたなら、人口が日本の半分以下だからだと思います。

 日本は今、多くの観光客が来ます。確かに神社仏閣はいい観光地であるとしても、個々の日本人の住んでいる家や、ホテルの部屋の狭さは悲劇的です。四畳半とか、六畳などと言うスペースがアパートとして貸し出されている先進国と言うのは日本以外にあり得ないのです。

 

 日本が明治維新を迎えたとき、日本の人口は3000万人でした。それからどんどん増えて、戦後すぐに1億人を超えました。しかも、工業地帯や、会社が都市に集中して、人口が急激に偏り始めました、結果が今の東京であり、大阪なのです。

 私は、今より2千500万人くらい日本人口が減ったくらいがちょうどいいのではないかと思います。いきなり人口が減るのは問題ですが、1億くらいの人口になれば、満員電車もなくなるでしょうし、空き家も増えて、家の価格は思いっきり下がるでしょう。当然家の敷地も広くなり、暮らしやすくなるはずです。

 そうなれば、生活が安定し、落ち着いて子育てもできるようになるはずです。人口が減ることが日本人を不幸にするのではなく、本来暮らしやすい人口まで下げれば、自然と少子化もなくなり、人口も増えて行くはずです。

 

 「そうは言うけど、若い人が減って、年寄りばかりになったら、どうやって老人を支えて行くんですか」。と言う人もあるでしょう。でもよく考えて下さい。今の老人は何から何までおんぶにだっこで暮らしていますか。年金はもらっても、結構アルバイトをして働いている人は多いのではありませんか。特に自営業者や、職人は、亡くなる間際まで働いているでしょう。

 かく言う私だって、来年には70になりますが、手妻師をやめると言う選択はありません。恐らく80になっても動ける限りは手妻を続けているでしょう。老人イコール社会のお荷物にはならないのです。むしろ、老人が蓄積している技術や、知識、資金は少なからぬパワーで国を動かしています。老人だから何もできないと言うのは間違いです。

 私は少子化によって人口が減るのは悪いことではないと思います。今の状況で、高い家賃が続く限り、若い人は子供を作らないでしょう。政治に住宅問題を問うても無駄です。人口が減れば覿面に家賃は下がります。それはむしろいいことです。

 

 GDPが3位から4位に落ちたと言う話も、すぐに大騒ぎする人があります。問題ありません。少し円高になればまた元の3位に戻ります。更に中国が景気が怪しくなっていますので、中国が不況になれば、日本がGDP2位に戻ることも不可能ではありません。

 総体的に他国と比較をすることは、データーとしての価値はあっても、生活しているものには、2位だろうが3位だろうが関係ありません。実感として豊かになることの方がはるかに価値があります。

 大切なことは、日本よりももっと生産力の低い国が日本よりも豊かに暮らしていることを見るべきです。日本人は本来もっともっと豊かに暮らせるはずなのです。少なくとFISMの6日間の開催をシェアし合って、チケットを買っているような国が豊かな国であるわけはないのです。

 今度大きな世界大会を開催するときまでに、生活環境が充実していたなら、それこそが日本は豊かな国になったと言えるわけです。人が減ること賛成、GDPが下がること少しも怖くない。それよりも暮らしやすい国に変ったなら大成功です。

続く