手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

プジョーを手放そうか

プジョーを手放そうか

 

 さて今乗っているプジョーはかれこれ4年前に買い替えたものです。そもそもがシトロエンのC5と言う車に乗っていたのですが、ある日突然故障しまして、直すのに相当費用が掛かることが分かり、やむなくプジョーに買い替えたのです。

 別段プジョーに乗りたかったわけではありません。C5の後継者が出ていなかったため、次のシトロエンが出るまでの間だけ乗っていよう。と思って結局乗り続けました。

 と言うのも、プジョーの3008と言う車は、なかなか取り回しのいい車で、乗っていて何ら不満がありません。C5よりも全長は短いのですが、横幅が広いため、乗っていて小さな車を運転していると言う風には感じません。

 フランス車はすべてそうですが、車内は開放感があり、ドイツ車のように抑え込まれたような狭苦しさがありません。居住空間は充分広く、運転の感覚もしなやかです。きびきびと動いて、故障もありません。「この車も悪くはないなぁ。じっくり長く乗って見たい」。と考えるほどになりました。

 せっかく私が気に入って乗っているのに、車を交換しなければならないときが必ず来ます。それは、決まって弟子が新しく入って来た時で、多くの場合、弟子は大学を卒業して、免許を取り、入門して来ます。そしていきなり私の車を運転するのですが、免許取りたての弟子があちこちぶつけて修理費がかさみ、やむなく買い替えになる場合が多いのです。

 今回も、数日前、朗磨が浅草の百瀬さんの追善の会の帰りに、車庫入れをしているときに、思いっきり電柱をこすってフロントをつぶして無残な姿になってしまいました。私は物の破損に関しては怒りません。車を破壊されても、備前焼の壺を割られても、江戸切子のグラスを割られても、じっと我慢しています。人が成長するための授業料だと思ってあきらめることにしています。

 但し、この度は少し様子が変わりました。「もう車を所有するのをやめようか」。と思いました。考えてみると、大樹も、大成も車を持っていません。結構忙しく活動しているのになぜ車を持たないのか、不思議でした。

 大樹いわく、「車はいらない」。と言います。そもそも一人で活動することが多いそうですし、大人数で公演するときはレンタカーを借ります。毎月の維持費を考えると、必要な時にレンタカーを借りたほうがはるかに安上がりだと言うのです。そうかも知れません。

 いまだコロナ禍の影響で、舞台の依頼は限られています。自動車を所有すると言うことは、保険、税金、駐車場代、車のローン、ガソリン代、高速料金を併せると年間100万円近くかかります。大きな仕事のたびにレンタカーを借りるなら、その半分で済むでしょう。経費削減は魅力です。

 然し、22歳からずっと車を所有して、一時期は乗用車と、ボックスカーの二台を所有して、チーム6人で移動していたのです。あの頃を思うと、車なしと言うのは寂しい限りです。待ち焦がれていたシトロエンの新型C5も既に出ています。

 C5はかなりグレードの高い車で、是非乗って見たいと思っていました。更には最近、シトロエンのHトラックの形を真似て、新たに出して来るようです。Hトラックと言うのはシトロエンファンなら垂涎のトラックです。その個性的なフォルムは一度見たら忘れられない奇妙な形をしています。

 写真で見ると装甲車のようにいかつい形をしていますが、実物は案外小さいのです。ハイエースとほとんど変わりません。正面の押し出しの良さが車を大きく見せているのでしょう。でもいい形の車です。これのリバイバルが出るなら、欲しいと思います。

 いっそC5、Hトラックと、二台とも所有して、水芸のような大きな仕事の依頼が来たなら、シトロエン二台で仕事に行けたらどんなに楽しいだろう。と考えていたところです。然しそれは夢です。元々経費削減のために今の車を手放そうと考えているのですから、新車購入は夢のまた夢です。

 今の私が車二台所有するには、水芸や、蝶の仕事依頼が次々にやって来なければいけません。でもそれはしばらくは無理でしょう。今は、力を貯めて屈するときなのかも知れません。こんな時もなければ大きく伸びるチャンスも作れないのでしょう。

 分かります、分かります、理屈ではわかっているのですが、いざ車を失った時に、今までの生活スタイルが維持できなくなることが不安です。玉ひでのような座敷の仕事は、鞄を持って電車で出かけなければなりません。そうなると、道具は思いっきり切り詰めて軽く小さなものにしなければならないでしょう。

 蝋燭台など、どうでもいいものを舞台に並べることなどできなくなります。小さくぎりぎりのいちいち原価を考えて、少しでも利益を出すために切り詰めた舞台をする。そんな舞台に何ら面白みはありません。舞台はいつでもやりたいことを目いっぱいするのがいい舞台なのです。

 お客様だって、贅沢なもの、豪華なものを見たいのです。それを惜しげもなく提供するのが私の舞台です。そんな舞台を達成するための最低限のこととして、乗用車が必要なのです。それも出来ないとなると、これから先は生き方そのものを変えなければならないでしょう。

 このブログを書き始めた4年前は、ちょうど、今のプジョーを買った時でした。車が少し小さくなって、寂しいなぁ、と思っていました。でもいつか元のシトロエンのサイズを買おうと思っていました。それが4年経ったら手放すことになりそうです。どんどん身の回りのものが小さくなって行きます。それは致し方ないことなのでしょうか。毎日決断が出来ずに悩んでいます。

続く