手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

便利の代償

便利の代償

 

 昨日、ニュースで、アメリカでは、半日コンピューターが作動せず、国内便の飛行機が全く稼働しなくなったそうです。便数にして1万機が動かなくなったそうです。アメリカは鉄道は全く寂れてしまって、人の足として機能していません。国内移動は、車か飛行機に頼る以外ないわけです。ニューヨークからボストンあたりに移動するには、車でも間に合いますが、ロサンゼルスからシカゴ、ニューヨークとなると、日数もかかりますので、車移動はほぼ無理です。

 何でも便利になることはいいのですが、一旦トラブルが発生すると、たちまちパニックになります。そうなったときにどうするか、いろいろ策を立てておかなければなりません。日本で交通トラブルが起こったときには、大概のことは、新幹線を飛行機に振り替えるなどとで対応が出来ます。私も何度か経験しています。

 そのどれもがだめとなると、例えば北海道や、九州へ行く場合は、カーフェリーで移動する手段もあります。一週間10日の仕事の場合、一日を犠牲にすれば、現地に行けます。何があっても何とか、国内移動は可能です。

 

 阪神大震災の際に神戸でショウをしていた人が、どうしても翌日には東京に戻らなければならないと言うときに、やむなくヘリコプターをチャーターして戻って来たと言う話を聞きました。随分費用が掛かったと思いますが、仕方ありません。無事に帰って来れただけでも幸いです。

 阪神大震災の折は、長い、神戸以西の新幹線が使えないことで苦労をしました。岡山、広島のショウの仕事は、新幹線が神戸で止まってしまっていますので、飛行機で岡山空港や、広島空港まで行きました。荷物は中国自動車道でトラック輸送です。飛行機は、東京~岡山、東京~広島と言う便は、距離が中と半端ですので、通常は利用客が少ないのですが、震災の時はいつも満席でした。

 但し、どちらも山中に飛行場があるために、飛行場から、市の中心部まで、バスで40分くらいかかりました。飛行機の移動時間は1時間くらいですが、羽田の待ち時間と、バス移動の時間を加えると、大体移動時間は、飛行機も新幹線も同じになりました。早いようで早くはなかったのです。

 それでも広島までダイレクトに行けるならよかったのですが、ある時、広島行きが満席で、岡山も満席、山口も満席でした。仕方なく北九州空港まで行き(北九州の飛行場は瀬戸内海側にあって、小倉へはかなり離れています)。飛行場から小倉までバスで行き、そこから新幹線で広島まで入りました(新幹線は博多~岡山間は運行していたのです)。これはくたびれました。

 阪神大震災の際には、新幹線の線路は壊れ、阪神高速道路の橋脚はそっくり倒れてしまい。神戸で交通は全く分断されました。ここは日本列島でも、平野が狭くなっていて、その狭い平野に東西の交通網が集中しています。地震でもあればいきなり日本の経済は大打撃を受けます。いや、地震だけでなく、外国が日本に攻めて来る際に、真っ先に攻撃すべきところは神戸でしょう。神戸にミサイルを落とせば、日本の経済活動は半分ストップします。

 日本政府もそのことを恐れたのでしょう。阪神大震災後、もう一つ、新幹線を作ろうと言う案が出て、北陸新幹線の工事が加速し、東京金沢は、東海道を利用しなくても新幹線で行けるようになりました。これが、福井、京都と伸びて行って、そこから山陰新幹線が出来て、鳥取、松江、下関まで行けば、山陰、山陽と、二本の新幹線が出来ます。これでかなり災害の時の対処が出来ます。

 但し、東京金沢はかろうじて乗り手がいても、鳥取、島根、太田、萩、など人の少ない地域に新幹線をつなげば、儲かっている新幹線の足を引っ張ることになりかねません。北陸新幹線でさえも、金沢、福井までは乗る人もいるでしょうが、そこから先、敦賀や、小浜までどれだけ人が乗るか。

 人によっては、京都に寄らずに、そのまま日本海の海岸を走らせて、丹後の宮津まで行き、そこから城前(きのさき)に行き、鳥取に入ったらどうかと言う人までいます。これだと一層人のいない土地ばかり縫って新幹線が行くことになります。こうなると新幹線は赤字垂れ流しになって、かつての国鉄の二の舞になってしまいます。国を守ることも大切ですが、その責任をすべてJRに押しつけるは問題です。

 

 話を戻して、何でもコンピューターに任せて、便利やスピードばかりを追求すると、今回のアメリカのように、全く機能しなくなったときにどうにもならなくなります。コンピューターもそうですが、お金のことも、今は、カードや携帯電話で決済する人が多いようですが、便利は便利ですが、これも危険です。

 観光に来る中国人や、韓国人は普通にカードで決済をしますが、自分のお金をカードにだけ任せるのは危険です。それは平和な時代だから成り立っていることで、いざ内戦や外国からの侵略などあれば、携帯に入っている現金など「絵に描いたインスタ」になってしまいます。

 

 数日前、浅草に行って、甘味処の梅園で粟(あわ)ぜんざいを食べました。この店はいまだに入り口で食券を買って、現金で支払いをします。その食券も、おばさんが一枚ずつ手渡しで販売しています。機械は一切使いません。私の前に並んでいた女性が、携帯を出して支払いをしようとすると、「現金だけです」。と言って断られました。

 いいですねぇ、いまだに昭和が生きています。何から何までアナログの世界です。カードが流行ろうと、スマホが流行ろうとこの店は関係ないのです。ぜんざい一杯は現金と交換するのです。それをかれこれ200年続けて来たのです。

 私はうっかり、ぜんざいの箸休めについている、小鉢に入った芥子の実の佃煮を、小鉢ごと落として割ってしまいました。すぐに店員さんが来て、「お怪我なかったですか」。と言って小鉢の破片を集めてくれました。そしてさりげなくもう一つ小鉢を持って来てくれました。それも何事もなかったかのように、そっと置いて行ってくれました。 いいですねぇ、何もかもアナログです。人も人情も。

続く