手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

シャッター街の商店街

シャッター街の商店街

 

  初めて私がヨーロッパを旅したのは、1979年。FISM(世界最大のマジック大会)ベルギーのブラッセルに行った時です。この時、私はマジックメーカーのトリックすとうまい関係が出来ていて、道具の販売員として連れて行ってもらいました。

 初めに着いた国がイギリスでした。この時代のイギリスは、年中ストばかりやっていて、経済は停滞し、斜陽の国と言われていました。方や日本は、毎年毎年GDPがアップして、アジアの中では日本人だけが例外的に好景気な国でした。

 そんな時代にイギリスに行ったので、さぞやイギリスと言うのは老朽化した、寂れた国なんだろう。と思っていました。然し、実際、街中を歩いて見ると、街は活気がありましたし、そもそも建物の造りが立派で圧倒されました。百年かかってもイギリスに追いつくことは不可能だろう。と感心しました。

 トリックスがイギリスのおもちゃ屋さんハームレィズに出店すると言う交渉で、ハームレィズの重役と赤沼社長、新城専務、それになぜか私がレストランに招待され、会食をしましたが、そのレストランの立派なこと、またイギリスは食事はまずいと言う噂でしたが、何を食べてもおいしく、デザートのケーキ迄文句ない味でした。

 わずか二日間の滞在でしたが、どこをどう見てもイギリスは超先進国でした。ところがイギリスは、当時、イギリス病ともいうべき、民主主義が陥る権利平等の行き過ぎで国の活動が停滞していたのです。自分たちの給料を上げるために、やたらとストをする、そのストのために多くの人が迷惑をし、結果、経済が日本のようにスムーズに動かなくなっていたのです。

 この時代に私がイギリスについて聞いた話ですが、イギリスの列車の中には、運転士の隣に、蒸気機関車の釜焚き夫が乗っていたそうです。蒸気機関車はとっくに廃止され、電化された列車の中に、石炭を機関車の釜にくべる労働者をそのまま居座っていました。釜焚き夫がそのまま雇用の権利を主張して、辞めさせられることなく乗っていたと言うのです。

 この人は釜のない電車の中で、石炭をくべるわけでもなく、他に用事もないまま、自分の権利を盾にして、定年になるまで運転手の脇に座っていたそうです。労働組合が強くて、企業や、政府が労働者に逆らえないのです。個人の権利が守られるのはいいことですが、個人が余りに強くなれば、世の中が停滞すると言うお手本となる話です。

 極端な民主主義が、不景気な産業で、合理化をしようとしても、労働者が反対して、労働者をやめさせることが出来なくなります。人員整理をすれば十分生き延びられる企業でも、合理化できないために赤字を垂れ流し、やがて倒産してしまいます。

 そんなイギリスの姿を見ていると、「日本でもいつか権利ばかり主張して、国や企業が動きがとれない国になるのではないだろうか」。と考えさせられました。

 しかしそんな国でありながら、当時のイギリスは普通に活気がありましたし、日本よりもはるかに豊かな生活をしています。それがなぜなのか。と、訝しく思っていると。ものの本に、「イギリスは金融で大きな利益を上げていて、その利益は日本人が自動車や。家電を作って売り上げる利益の何倍もの利益を出している」。と言うことを知りました。

 世界中に大きな資本を持っていて、そこから上がってくる利益が巨大なため、自動車産業が斜陽でも、繊維産業が日本に圧されていても、少しも国自体は困窮することがなかったのです。

 実際、本当の金持ちと言うのは、いろいろな産業を手掛け、そこで上がった利益を金融に回すことでさらに利益を上げて行くものです。日本でも金持ちと称する人たちは、室町時代の昔から、金が金を生んで金を貸すことで財産を作って行ったのです。世界に冠たる大英帝国が、金融の利息だけで十分生きて行けるのは当然のことです。

 

 そして今の日本です。私が20代半ばで見てきたイギリスとまったく同じことが日本でも起こっています。バブル以降、この30数年間は経済が停滞し、一人一人の給料が少しも伸びず、周辺のアジア諸国にまでGDPで追い抜かれ、イギリス病とまではいかずとも、何となくこの先、日本は斜陽になって行く国のように思われています。

 然し、そんな風に経済誌に書かれていても、実際の日本は政治も経済も安定していますし、何より国全体が豊かです。それがどうしてなのかと言う答えは簡単で、企業が資産を持っているからです。日本の企業や個人など全体で、海外の資産が400兆円あると言います。その資産と言うのは、不動産収入であるとか、人を現地で雇って収入を上げているとか、特許を持っていて、特許使用料が入って来るとか、株とか、あらゆるものがあって、その収入が少なく見積もっても総資産の2割、80兆円あると言われています。毎年80兆の純利益を上げている国と言うのは、世界を見渡しても、10カ国ないでしょう。その中に日本がいるわけで、少々品物の売り上げが悪くても、びくともしないのは資産があるからです。

 つまり半世紀たって日本は、かつて私が見たイギリスのような国になって行ったのです。勿論それはいいことです。それが証拠に、イギリスは、その後サッチャーさんが現れて、イギリス病と言う、個人の主張ばかりを優先する労働組合と戦って、国を維持するために個人の権利平等を改めています。結果として今もイギリスは、沈むことなく、主要先進国として活動を続けています。

 日本も今のままでいいとは思いませんが、そうは言っても周辺の国々が煽るような斜陽な国ではありませんので、余り心配する必要はないと思います。むしろ、少しぐらいは権利主張をして、今より給料を上げるように活動してもいいと思います。

 

 実際この30数年は余りに産業が停滞していました。そのため、地方都市の商店街や、個人の家は空き家が目立っています。

 人が年を取って、仕事からリタイヤして行くのは普通のことです。その時に次に若い人が新たな仕事をして行けば町の活気は消えません。商店街に空き店が増えてしまうのは、次に何をやって行ったらいいかが決まらないか、あるいは新しい活動を何らかの理由で阻害しているからです。仕事をしたいと言う人になるべく安価に平等に、チャンスを作ってやりさえすれば、シャッター街など生まれないのです。

 せっかく安定して、豊かさを手に入れた日本が勿体ないことだと思います。力を失って行く人たちを助けることも大切ですが、新しい事業をする人を後押しすることはもっと大切です。そこを間違えると本当に斜陽な国になってしまいます。店が開いているなら、若い人たちに思いっきり安価でスペースを提供しては如何でしょう。日本を停滞させているのは、既得権を持った人を守り過ぎているからです。

です。

続く