手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

藤山大樹自主公演

藤山大樹自主公演

 

 藤山大樹による自主公演が、14日夜、東部フレンドホール(江戸川区瑞江)にて開催されました。私は初めてこのホールに伺いましたが、私の家からは全く反対側の東京のはずれで、同じ23区にありながら、電車を乗り継いで1時間20分かかりました。とは言え、劇場は奇麗ですし、舞台も広く使いやすそうなのですが、もう少し中心街での公演は出来なかったのかと思いました。サラリーマンが仕事帰りに立ち寄る劇場としては、遠すぎます。

 それでも客席には、セロさんや、前田知洋さん、アキットさん、NHKのアナウンサー古谷敏郎さんなど錚々たる方々が見えていて、大樹の顔の広さを見せつけています。

 

 公演は、一番太鼓、二番太鼓と太鼓によって進行し、昔の芝居小屋の開始をしっかり印象付けています。幕前に藤山大成が現れ、口上口調で大樹を紹介します。こうした語り口は、今のマジシャンではできないことですので、口上だけでも貴重です。

 開幕すると、左右に演奏家、中央に屏風と毛氈が敷かれています。舞台前には、蝋燭風にこしらえた足元灯りが並んでいます。古風な独特の世界です。

 冒頭は、大樹の創作手妻、「松風」、緑の扇子を松の葉に見立て、屏風に次々と扇子を並べて行きます。舞踊の松尽くしをイメージしたのでしょう。途中色変わりや、大きな扇子の出現もあり、変化が見られます。但し並んでいる扇子の数が物足らなく感じました。エンディングにももう一工夫必要でしょう。これから少しづつ 改良して、得意芸に仕上げて行くのでしょう。

 

 松風を終えて口上。大樹は日本各地でこの公演をすることを伝えます。コロナにめげず、自ら舞台を起こしてゆく姿勢は立派です。

 ここから喋りの作品で、米と水、柱ぬけ(サムタイ)、金輪の曲、と、三部作が続きます。更にその後に蝶のたはむれがあり、ここは語りの技術が試されます。どれも語り口が違います。その口調の違いを楽しむ部分なのです。それぞれに工夫必要です。

 このところ喋り慣れてきたせいか、大樹は余計なことをついつい喋ってしまいがちです。米と水、柱抜けは世話の語り口の面白さが必要であり、金輪は口上の面白さを語ります。どちらも別の語りです。しっかりと語りを仕分けるように心がけなければいけません。言い訳したり、遠慮したり、お客さんをいじったりしてはいけません。喋りで人を引き付けるとはどういうことか、ここでは厳しく問われています。

 そして蝶のたはむれ、ここは蝶の一生を語るのですが、ここの語りは、喋りの中でも難度の高いものです。何気に語りつつ、人の心に入り込んで行かなければなりません。技と言うよりも心の告白なのです。この晩の演技全体の核心部分です。手順を覚えて、蝶を飛ばせることが出来るようになっても、その先に新たな試練があります。

 

 蝶を終えて、入れ替わりに大成が出て来て、延べや、絹帯を使った手妻と煙管の扱い、それに羽根の取り出しの演技、そしてお終いに紅白の傘出し。この手順が、大成が今回出世披露で考え出した自身の手妻アクトです。これも看板演技になるにはまだまだ時間がかかりそうです。

 そこからやおら、テーブルクロス引きが始まります。手妻とは何の関係もない演技ですが、マジックが続いていますので、ここは息抜きとしてよく受けています。

 かつて私がこの演技を「幸せ家族計画」と言うテレビ番組でしていたのですが、今できるかと問われると、自信がありません。

 大成はこれを得意にしてよくショウで演じています。もうこの芸は大成に譲ります。

 

 大成が終わると、場面が変わり、「七変化」になります。大樹のメインアクトです。マジック関係者の中で変面を嫌う人がいます。いわく、同じ動作の繰り返し、マジックの技術としてレベルが低い、云々。

 しかし、そう言う人は是非一度大樹の七変化を見てもらいたいと思います。演技は決して単調ではなく、一つ一つが不思議に作られています。中国式の、のっぺりとした面がひたすら同じ方法で変わって行く変面とは根本が違います。

 面の変化も面が立体的になっていたり、時々自分の素顔が出たり、面の色が少しずつ変わって行ったり、面が破壊されてそれがまた復活して行ったり、細かな部分に工夫が施されています。

 更に、全体にストーリーが出来ています。夕暮れ時の街道で、旅人を驚かし、握り飯や饅頭をせしめようとする、狐の罪のないいたずらを表現しています。そうした中にも不思議をしっかり作り上げていて、ストーリーは形作られています。お終いは、遊び過ぎて、すっかり暮れてしまった街道から一目散に山に帰って行きます。早く帰って子供たちに握り飯を食べさせてやろうとしているのでしょう。あえてビッグフィニッシュを作らないところが日本的で、よい後味が残ります。

 度々海外のイベントに招かれ、コロナの前までは多忙を極めていたのですが、これからはようやく舞台活動も復活して増します活躍の幅を広げて行くと思います。

 更にお終いは、大祝梅蒸籠(おおしゅくばいせいろう)、空箱から色絹、花などたくさん出現、お終いは大きな扇子に大きな傘が出てめでたく終わります。これはこれで不思議で派手な演技ですが、七変化の後にプロダクションマジックが必要かどうか、判断は分かれるでしょう。

 ここまで演じて75分のステージ、出演者は大樹と大成の2本だけ、他にアシスタント2名、生演奏が5名、至って小規模な公演でしたが、見終わったお客様はかなり大きなショウを見たような気持になったのではないかと思います。

 大樹、大成のコンビはまるで兄弟のようで、いいコンビです。上手くショウ構成をして、どこか一か所でも一緒に演じるコーナーを作るなどすれば、もっと面白くなると思います。このショウが上手く固まれば、国内でも結構忙しく活動できるのではないかと思います。今回は女性アシスタントに黒衣の衣装を着せて、女性の華やかさを見せなかったのが残念でした。もっともっと女性を前に出したらよいと思います。

 矢張り女性がショウに入って、華やかな衣装を見せると舞台が引き立ちます。その点もう一工夫必要でしょう。

 とにかく、ほぼ出ずっぱりの大樹の奮闘好演。お疲れさまでした。

続く