手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

座・高円寺 「驚天動地」

座・高円寺 「驚天動地」

 

 昨日(9月30日)は、座・高円寺で藤山一門の公演を致しました。朝8時に荷物を組み初めて、9時少し目に車にてザ・高円寺に向かいました。荷物は、一回では運べず、二度に分けて運びました。と言っても、私の家と座・高円寺はわずかな距離ですのでそれほど大仕事ではありません。

 毎回私の公演では、私が考案した新作物の大道具を作ったりしますが、今回はそれもないので、私にとってはかなり楽な構成です。その分、大成の手妻の新作や、洋物手順が目玉になります。

 私は、この日は朝から腰痛がひどく、一体どうしたのかと思うほど体が動きません。せっかくの自主公演ですから休むわけにもいきません。又鼻水が止まりません。鼻水は大した問題ではありませんが、大夫ともあろうものが、居並ぶ一門の真ん中で鼻を垂らしていてはまるで与太郎です。権威もありません。然し、舞台上で鼻が出そうです。うっとおしい一日になりそうです。

 ひょっとしてコロナではないかと思い、体温を測りましたが、36度でした。むしろ低いくらいです。楽屋に入ってから演出の木下さんに、腰を揉んでもらいました。この人自身もたびたび腰を悪くしていますので、腰の状況は良く知っています。入念に押してもらったら、大分回復しました。

 今回は邦楽の生演奏が付きますので、サウンドチェックに時間がかかります。その上でリハーサルです。基本的には現代邦楽のチームと、古典の長唄のチームを交互に使う形式になりました。これは舞台上で聞けば一目瞭然にその音質の違いが分かります。私の引き出しの音楽や、蝶の曲、大樹の七変化の音楽は現代邦楽です。

 対して、出演者の間間に演奏する出囃子などは、古典ものです。舞踊の七福神は古典。それぞれによさがありますので、いろいろ聞き分けると楽しいと思います。

 一部のショウはバラエティで、大成、マギー司郎、ケン正木、ボナ植木、と、順に出演。そのあと対談。休憩をはさんで第二部。

 二部は、出世披露の口上。私と大樹、大成、マギー司郎ボナ植木、ケン正木、田代茂、梅屋巴、藤間章吾、更には飛び入りで前田知洋が口上に駆け付けると言う豪華版。

 その後は大成が太夫になって、大樹が才蔵になって演じるお椀と玉。そして舞踊の七福神。私が唄に回り、杵屋巳三郎さんにご協力をただいて長唄を披露。大成は日頃の舞踊の稽古を発表。人生で、生演奏で舞踊をする機会がこの先何度あるか、と考えれば極めて貴重な舞台です。

 そのあと私の舞台、蝶のたはむれ、そして大成の新作は羽根と扇子と傘の手順。そして取りは大樹の七変化。二部の舞台には司会がありません。全く音楽だけで進行します。これが江戸時代からの興行形態なのですが、今はこうした形式で手妻をすることも稀です。私の一門では是非この形式を残してゆきたいと思います。

 

 さて楽屋では久々会った仲間たちが談笑しています。前田知洋さんも加わって賑やかな楽屋になりました。30年も40年も前にマジック大会が戻ってきたような感じがします。

 

 開演6時30分、お客様のざわざわした音が緞帳の裏側に伝わります。一本目は大成、カードと四つ玉、所謂学生時代から演じていた得意ネタ。これをここで披露できることは当人にとっては幸せなことでしょう。

 間に一回一回私が司会をします。今回は一部では全く私の演技はありません。私は喋りを主としました。

 二本目のマギー司郎はいつもの演技、縦じま横じまのハンカチ。よく受けています。

 三本目はケン正木、お得意のシンブル手順、そこからカラオケマジック。やはり得意芸がある人は強いです。

 四本目はボナ植木、もうナポレオンもピン芸が定着。元々喋りが達者ですから、何の不足もありません。イギリスの国旗の裏がクイーンだったものが、キングに変わったと言う時事ネタがトリ。

 五本目は、対談、マギー司郎ボナ植木、ケン正木、それぞれ違ったマジシャンの普段の話を聞こうと言う企画です。仕事がないときはひたすら都内を歩いていたと言うマギーさんの話は案外真面目な一面が見えました。

 

 二部が始まると大成は全く休みなし。出ずっぱりの舞台です。口上が済んだらすぐにお椀と玉、それが終わると日本舞踊。舞踊が終われば、衣装を着かえて、新作手順をするわけですから、よほど頭の切り替えが必要です。日頃は物静かな男ですが、楽屋で見ていると相当に緊張が走っています。特に口上のさ中に、先輩方の言葉を直に聞いたときに、「安易な舞台は出来ないな」。とプレッシャーを感じたようです。

 あまりプレッシャーが大きいとうまく行かない場合が多いのですが、そこを乗り越えて演技をすることが自身の演技を大きくして行きます。

 舞踊は、毎週稽古に通っていますが、それを一般に披露する機会と言うのは限られています。然し、こういう時にこそ日ごろの努力が生きるのです。一つの芸が花開くのはほんの一瞬のことです。でもそれをしっかりやっておくことは芸の厚みにつながります。

 大成の新作手妻はまだまだ足らない部分が多いのですが、羽根の手順を生かして、和と結びつけようとしています。当人は自分の世界に籠りがちな性格ですので、どこかで芸が吹っ切れたなら、いい舞台が出来るでしょう。

 

 方や、大樹は、このところ大きな自信を付けています。演技も安定感を増していますし。内容も充実しています。私の公演でトリを取らせてもそん色がありません。大樹もまたまじめな男ですので、日ごろの稽古が生きています。ある意味、弟子に任せて安心な公演でした。

 さて、この先どんな時代になることやら、今力をつけてきた若いマジシャンが、巧くこの先成功して行ってくれることを願っています。

続く、