手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

SAMジャパン 4

SAMジャパン 4

 

 SAMジャパンでは毎年コンテストを開催し、優秀なコンテスタントはアメリカの本大会にゲスト出演が出来るようにして、海外との連携を考えました。

 SAMからアメリカ行きの旅費が出たなら、SAMの大会の帰りにマジックキャッスルに寄って一週間出演することも可能です。そうなればアメリカで自分の顔を売ることも出来ますし、アメリカでの出演チャンスを作ることも可能です。いろいろな道が開けて行くでしょう。

 これまでの日本国内のコンベンションは、チャンピオンに、トロフィーを渡した先に、彼らにどう生きて行ったらいいかを示していないのです。

 日本の国のあらゆるジャンルに共通する話なのですが、国内で有名になったり、人に認められた人たちが、その先に何をすべきかとなるとどこにも先が示されていないのです。結局、頂点に立ったことが袋小路に嵌るのです。

 せっかく才能のある人たちが育ったのに、その人の先が見えないため、有能なマジシャンは過去の栄光にしがみついて、狭いテリトリーを作って、自分の支持者の囲い込みを始めます。囲い込みとはすなわち、次に出てくる若い人を排除することです。

 本来有能な人の才能は、次の人を育てるためにその才能を生かさなければならないはずなのに、全く逆の立場に立って、狭い日本の社会を一層狭く、屈折した人間関係を作って行きます。

 何が問題なのでしょう。その答えは、日本に先を示すリーダーがいないことなのです。日本のコンベンションで入賞したなら、世界のもっと優れた大会に出るべきです。その上で、自分の演技を磨いて外国勢を超えた演技を作ることです。そして、マジシャンの評価だけでなく、通常のイベントの仕事をして世界中で活動してゆくべきなのです。

 日本国内だけでなく、世界のどの舞台に立っても恥ずかしくないような演技を作り上げなければいけません。やるべきことは山ほどあるはずです。

 日本のマジック界の限界はマジシャンが何をすべきかを、どこの大会も、どの指導家も示していないことです。私は私なりにそこにメスを入れて改革を考えたのです。

 

 SAMは、何度かテレビ局にショウを買ってもらい、積極的にマジックショウを放送しました。これは、私が最も熱心に行ってきたことで、当時、日本国内のマジックコンベンションは、殆どマジック関係者が集まって、その中で楽しむだけの大会になってしまっていたのです。

 いくらマジックの愛好家が大勢集まったとしても、ショウのすばらしさを一般のお客様に知らせない限り、マジック界は大きく発展しないのです。

 毎年、毎年世界大会を開催していても、同じ人が集まっている限り、やがて組織は小さくなって行きます。大きく発展させるためには、縁もゆかりもない人たちを、マジックの世界に取り込んで夢中にさせなければいけません。マジックはそれが出来るはずです。

 SAMは積極的にテレビ局に大会を売り込みました。そこからマジシャンがうまく顔を売って、次のテレビの出演チャンスを掴んで行けば、マジシャンは知名度を得られるわけです。コンテストに入賞するだけがチャンスではないのです。

 

 更に、役員人事にもメスを入れました。会長は一年ないし二年で変わるべきなのです。SAMジャパンでは、初年度と二年目までは私が会長を務めましたが、三年目は熊本の原田栄次さんに会長をお願いし、四年目は名古屋の武野光一さん、五年目は仙台の桔梗徳哉さんにお願いしました。

 私は一人のリーダーが何十年も会長を務めることは反対です。それは結果として組織が老化してしまうからです。組織は意欲ある人、出来れば若い人に任せることが一番いいのです。

 

 何度も申し上げますが、日本のあらゆるジャンルが組織の発展を考えずに、ひたすら狭い人間関係でもめるのは、その社会に先が見えないからです。マジシャンだけではありません。

 アマチュアで、30年も40年もマジッククラブの会長を務める人がいることも同じ理由です。会長に目的意識がないのです。いつしかクラブが会長個人の所有物いなってしまっているのです。

 そうなると会員は依頼心が強くなり、自分で会を向上させようとは考えなくなります。すべては会長が面倒を見て、会長の一存で動いて行きます。やがて会は、会長の仲間のような人ばかりが集まり、会長と同年齢の人しか寄ってこなくなります。マジッククラブは一気に老齢化して、やがて会の運営すらも出来なくなります。

 

 どうしたらいいのでしょうか。大きな組織が彼らに先を示さなければいけないのです。地方の20人程度のマジックラブの会長にそこで満足していてはいけないと教えるべきなのです。

 この先はSAM ジャパンの全体を統括する責任者になったり、役員となって、コンテストの担当をしたり、機関誌の発行に携わって大きな仕事をしてもらいたいのです。

 それが達成できたら、アメリカ本部と関係して、世界中のマジシャンを育ててやる立場に立ってはどうでしょう。やるべきことは山ほどあるのに、20人のクラブを頂点と考えていては先がないのは当然です。

 

 プロも同様に、ローカルのコンベンションでトップに立ったからと言って、その成果を後生大事に握り締めていても、それでその先、プロとして安定して生きて行けるものではありません。もっともっと一般の人の評価を求めて外に出て行かなければいけないのです。

 そのきっかけを作るためにSAMジャパンは、毎年、世界大会の催しの中でショウのみのチケットを 一般に販売してきました。マジック愛好家だけでなく、一般のお客様の反応も知ってもらいたいと考えたからです。

 実際これらのことは、言葉で言うことは簡単ですが、実行するには、大変な労力を使いますし、費用も掛かります。自分が言った言葉に責任を持つと言うことは大変な仕事を背負うことになるのです。

 私が「会長は変わるべきだ」、と、それだけの発言をしたことでどれほど人から恨まれたか知れません。「地方開催のショウのチケットを一般売りすべきだ」と、言って、知らない土地でどうやってマジックのチケットを売りますか。

 勿論協力してくれるSAMの会員さんもいます、しかし理解者だけでは到底広い会場の席は埋まりません。どこかに神様がいて、大量にチケットを買ってくれますか。いえいえ、大概こうした状況の時には神様は居留守を使って雲隠れするものです。

 私は、自分が今までショウをしてきた中で、その地域の、お付き合いをしてきたお客様のリストを調べて、薄い縁を頼りにひたすら手紙を書きました。10通出してようやく2枚のチケットが売れる程度の、至って効果の薄い方法で、個人的な地方の人との結びつきで席を埋めて行くのです。この時期私はそんな活動をひたすら続けていました。まぁ、30代40代だからできた仕事でした。

でもそれもだんだんできなくなって行きました。

続く