手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

コロナ以降

コロナ以降

 

 ワクチンが普及し始めて、少しずつですが、重苦しい雰囲気は薄れて来たように見えます。この一年半で多くの人の生活に狂いが生じ、財産を減らした人も多かったのではないかと思います。

 財産と言うのは直接的なお金だけではなく、人とのつながり、仕事の継続、家族とのつながり、日常生活の安定、など。あらゆるところで破綻をきたしたのではないかと思います。

 

 それでも生活の復旧が始まってきたのは幸いです。アメリカのロサンゼルスにあるマジックキャッスルは再開され、連日観客を集めてショウを始めました。

 ロサンゼルスは、ニューヨーク、シカゴ、ラスベガスと並んでマジシャンが多く住んでいる町です。然し、たびたびロサンゼルスに出かけ、アメリカのマジシャンと話をしてみると、ロサンゼルスでマジック活動をすることは簡単ではないようです。

 東京や大阪と比べると、マジックショウが発生するチャンスは少ないように見えます。また、ロサンゼルスに住んでいて、ニューヨークやシカゴの仕事の依頼が来るかと言うと、これも難しいようです。

 東京に住んで大阪、名古屋に行くのとは訳が違うのです。ニューヨークは飛行機で4時間以上もかかります。東京、北京よりも遠いのです。交通費も安くはありません。

 仮に、ロサンゼルスで少し話題を集めているマジシャンがいたとして、ニューヨークの人たちがネットなどで情報を得たとして、交通費を負担してまでロサンゼルスのマジシャンを呼ぶかどうか。費用面で難しいのです。つまり、アメリカの大都市をまたいで仕事が出来る人と言うのは相当にビッグな人だけなのです。

 

 アメリカと日本を比べると、人の集中度が違いすぎます。東京を関東地方と捉えると、人口は3500万人います。大阪を関西地方と捉えると人口は2500万人います。これほどの人口が密集した国と言うのは日本以外存在しません。

 いや、人口だけを言ったら同様な国もあるでしょう。然し3500万人が、平均400万円くらいの年収を持っている国となると、日本を置いて他にはありません。

 かなりゆとりのある生活をして暮らしている人が3500万人いるのです。こうした国は世界を見渡してもそうそうあるわけではありません。日本でマジシャンとして暮らすと言うことは、高所得で人口の密集した恵まれた活動環境があればこそ幸いしていると言えます。

 実際、アメリカの地方都市で暮らしてみると、なかなかショウを見せるチャンスが見当たりません。そうなると、生き方は二極になります。

 つまり、全米どこでも知られているようなビッグなマジシャンをめざすか、近所のお宅の子供を相手に、お誕生日にショウを見せるマジシャンになるかの二択です。

 ちょっとしゃれたセンスのあるステージマジシャン。などと言うポジションは、日本にいればこそ生きては行けますが、アメリカの地方都市にいては仕事を得るのは難しいのです。

 無論、ラスベガスなどのオーディションに出て、評価を勝ち取れば道は開けます。同様に、ロサンゼルスで生活しているマジシャンにとって、自分のアクトを見せて、次なる仕事場を見つけるためのショウケースとなる場所がマジックキャッスルなわけです。

 

 この一年半の、キャッスルの閉鎖は、ロサンゼルスのマジシャンにとってはえらく堪えたと思います。

 ようやく再開されたことは幸いです。さて、そうなら我々海外のマジシャンが、キャッスルに出演するのはいつのことでしょう。少なくともこの先半年は、海外マジシャンは受け入れないでしょう。それから先は、と言えば、アメリカ国内のマジシャンに舞台を提供するのが手いっぱいで、日本のマジシャンのことなど考えてはいないと思います。

 つまり早くとも一年後くらいにならないと日本人のキャッスル出演は無理でしょう。これから一年何をするか、これがこの先のキーワードになりそうです。

 

 大学のマジック研究会は、一年生との接触がないために、新入生を勧誘することが出来ません。この二年間。まったく世代が絶えてしまっています。彼らが活動再開するのは、来春でしょうか。やはり一年待たなければ、おいそれと新入生の勧誘は難しいでしょう。

 同様に、アマチュアマジッククラブです。彼らの多くはボランティアを目的として、地域でマジックを披露しています。然しこのコロナの騒ぎで、幼稚園や、老人ホームを慰問することが出来ません。

 そうなると披露する場がありませんので、活動も不活発になっています。すると当然のごとく、アマチュアを顧客としていたマジックショップの小道具の売り上げが減少します。今まで何でもなく回っていたものが、コロナによってマジック関係者の生活のサイクルが狂って来てしまいました。

 ワクチンの普及などで、多少明るい兆しが見えてきたことは幸いですが、あらゆる生活が復旧するのにはまだ一年はかかるとみてよいでしょう。

 そうであるなら、これからの一年をどうプランするかを考える必要があります。今までのブランクをうまく次の時代につなげて行かなければ世間はどんどん狭くなり、活動の幅も狭まってしまいます。

 ただ一年先を漠然と待っていても、一年を無駄に使ってしまうだけに終わります。今のうちに、少し新しい試みもしなければなりません。

 私も10月のリサイタル(10月25日 座・高円寺)のために、新作マジックを作っています。いろいろ苦労もありますが、自分自身が前に進んでいると、日々充実します。ちょっとした工夫や発想が自分の頭の中で滞っていた空気を入れ替えます。やはり創造の中に身を置くことは気持ちを浄化します。

 うまく行かないことをいくら悩んでいてもうまく行きません。さぁ、そろそろ起き上がってまず自分自身が前に進みましょう。道が開けるのはそれからです。

続く

 

 今月の17日(土)人形町玉ひでで手妻の公演があります。若手のマジックは、早稲田康平さん、せとなさん、前田将太です。まだ若干お席があります。ご興味ございましたら東京イリュージョンまでお申し込みください。

 

お申し込みフォーム

https://mailform.mface.jp/frms/tokyoillusion/6uueieah59jy