手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

古民家リノベーション 4

古民家リノベーション 4

 

 済みません、一日ブログを書かなかったら、メールやら、携帯電話などに、「体の調子でも悪いのですか」。「新太郎は病気か、死んだのか」。などと言う連絡を何件もいただきました。私の体調を気遣ってくれる人がいるのは有り難いことです。ご心配なく、元気です。

 

 これまで、いろいろ言いたいことを書いて、話が止まったままでいる記事が結構あります。今回は古民家リノベーションをまとめます。

 今建てられている新築の家を見ると、私の子供のころから比べるとはるかにクオリティの高い、美しい家が多く建っています。然し、その実、今の家が長く使えるかと言うと、どうもそう長くは持たない造りになっています。

 ちょうど私の家が、大改築をしているさ中ですので、毎日、大工さんの仕事を見ていると、実に当然のように、ベニヤの合板を使いますし、壁面はビニール製の壁紙を使います。すべては女房の判断でしていることですので、口出しをしないで見ていますが、この修理の仕方では20年と経たないうちにまた修理をしなければならなくなるだろうなと思います。

 

 私がこの家を建てた31年前には、当初の設計師のプランではベニヤ板などを使おうとしていたものを、自然素材にするように注文しました。私が意見を言うたびに建築費が跳ね上がるので、100%思いは達成できませんでしたが、4階の部屋壁はすべて板張りにしました。三階はフローリングの部屋なのですが、壁も天井も和室仕様で、壁は京壁で、薄緑色に左官屋さんに塗ってもらいました。それでも完全に本格的には出来ませんでした。本来のプランでは壁は土壁にして、上から漆喰を塗り、柱や梁は漆塗りにしたかったのです。でもビルの家でそれはあまりに経費が掛かるために断念しました。

 風呂場の天井板は檜の平板を使いました。壁も湯舟も檜にしたかったのですが、汚れやすいのと、カビが生えるのが難点で、諦めました。部分部分が私の考えで出来て、まずまず満足しましたが、今度大改修をするときには大胆の自然素材を使いたいと考えていたものが、目前にして女房に主導権を取られ、想いを達成できず残念です。

 現代の家の作りは湿気を排除するばかりで、受け入れようとは考えていません。壁紙は、湿気をはじいて、表面に水滴を作っています。それを吸収するには、エアコンで乾燥させる以外にないのです。然し、部屋の中ならエアコンも有効ですが、トイレ、階段、外壁になると、湿気の対策はできません。結果湿気は水滴になり、床に落ち、床の隙間から内部に入り込んでベニヤを腐らせます。これでは百年と持つ家にはならないのです。

 ヨーロッパでは、モーツアルトが住んでいた家だの、ハイドンが演奏していた宮廷だのが残っていて、実際、今も観光名所になっていますが、悲しいかな、日本では、平賀源内の住んでいた家も、葛飾北斎の住んでいた家も残ってはいません。もっとも、残っていたとしても、北斎の家などは見るに堪えないような子汚い長屋でしょうが、

 それでも江戸時代の家なら、白アリと火事から守れたなら、家は残ります。大阪には、緒方洪庵が西洋医学を教えていた適塾の校舎がそっくり残っています。大阪も太平洋戦争の頃は空襲にあってほとんどの家が焼けてしまったのに、よくぞ残ったと思います。残念ながら現代の家は火災に合わなくても自然に劣化して行きます。もっと自然素材を生かして、長く使える家にしないとどんどん壊れてしまうのです。

 

 これから日本の家は、少子化に伴ってどんどん価値が下がって行くでしょう。今もうすでに地方都市では、信じられないような豪邸が二足三文で売り出されています。昭和に建てた豪邸が1000万円などと言う価格で出ています。但し劣化が激しく、床も壁もドアもベニヤでべこべこです。もう少しベニヤ板の使用を抑えて作ったならば、家は50年も100年ももったでしょうが、昭和の家はみんな表面の板が剥がれてしまいます。結果、価値が思いっきり下がります。

 ああした姿を見ると、「昭和の財産と言うのは結局ほとんど残らないのだなぁ」。と思います。それに比べて、江戸や明治期の古民家は白アリにやられなければしっかり残りますし、家の作りは素晴らしいものがあります。同じ住むなら、昭和の豪邸よりも、古民家を多少改修して住んだほうが絶対に価値があります。

 ただし、古民家は改修はとてつもなく費用が掛かります。そこで価値観を変えて考えたならよいのです。安い古民家を買って、安く買えた分を改築費用に充てるなら、いい家が出来ます。台所や風呂場トイレなどの水回りは完全に直して、更に鍵のかかる部屋を二室改修して、あとはなるべく古い家のまま、古い素材できれいに直したなら、申し分のない家になります。そんな家に住むことは令和の時代に暮らすものには最高の幸せではないかと思います。

 日本のように歴史の古い国に生まれたなら、歴史に背を向けて生きるのではなく、歴史を今に生かして、共存して生きることの方がずっと楽しく生きられるのではないかと思います。

 私はそれを実践するために、どこか田舎の古民家を買い、そこを改修して暮らしたいと思っていたのですが、今回のコロナで大分財産を使ってしまいました。やむを得ません。またこれから少しずつ稼いで夢を実現させたいと考えています。

続く