手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

古民家リノベーション 2

古民家リノベーション 2 

 

 古民家の基本的なつくりをお話ししましょう。多くの古民家は、高い屋根を持ち、屋根と天井の間には広い空間があります。現代ならそこに二階を作るところですが、それをしません。これは夏の強い日差しを部屋に直接持ち込まないように、天井裏に緩衝地を設け空気を十分冷やし、少しずつ部屋に空気を降ろしていたわけです。

 床下もそれと同じで、大概の古民家は、地面から少なくとも30㎝は高くして床を張っています。これは主に湿気を防ぐためのもので、床下は四方が抜けていて風通しが良くなっています。まだエアコンのなかった時代は、とにかく暑い夏を何とか凌がなければなりませんでした。そのため、天上の上を高くして暑さをしのぎ、床下を風通し良くして湿気を防いだのです。

 畳は中に藁床が出来ていて、藁はたくさんの湿気を吸い、乾燥した日には湿気を吐き出して周囲の温度を下げています。空気調整によって、夏場は涼しく、冬場は暖かくしています。畳は裸足で触れると夏はひんやりしていて、冬は暖かです。

 壁も同様で、壁は大概土壁を使っていますが、土は、湿気を吸います。湿度の高い日は湿気を吸い、乾燥した暑い日には吸い取った湿気を吐き出して、室内の温度を下げていたのです。これは襖や障子も同じで、紙は湿気を吸い、保湿して、部屋が乾燥すると湿気を吐き出します。この作用によって、室内の温度を保っていたのです。

 古民家の多くは、南側を広く開放し、しかも長い縁側を設けています。屋根の庇(ひさし)は大きく長く、たっぷり縁側の先まで軒が張り出しています。これも夏の日差しを遮るためのもので、直接外の熱気が入らないようにしてあります。日本の民家はすべて夏の暑い日差しを避けるために考えられています。逆に寒い冬は、襖で部屋を囲い、火鉢や、囲炉裏で暖を取りました。然し、今日の感覚では火鉢では暖にならないでしょう。やはり寒いです。昔の人は日が暮れると食事を済ませ、さっさと布団に入って寝てしまったのでしょう。

 話を戻して、夏には庇の先に簾(すだれ)を吊るしますが、この簾は優れた働きをします。軒先の簾から、部屋の障子までの間の空間の温度を簾が守ります。すなわち、天井裏と同じく、空気の緩衝地を作っているのです。守られた空気は軒下で温度を下げ、外から吹いてくる風も、約半分は簾で遮り、こぼれたそよ風が、部屋の中に入ってきたときに、温度の下がった軒下の空気を一緒に部屋に送り込むことで外気との温度差の違う空気を運んできます。

 実際大きな屋根の古民家に座っていると、真夏の猛暑の時でも随分外気と温度が違います。お寺の本堂などで座っていると、真夏でもひんやりします。長い庇。大きな天井裏と言った緩衝地が室内の温度を下げているわけです。ビルの窓から直に入ってくる風とは随分違います。

 

 古民家を愛して、そこに住もうとするなら、昔の人の工夫を理解してほしいと思います。この先、いつまでも電機や石油が使い放題という時代が続くわけはありません。近い将来昔に戻って、わずかな工夫をして生きて行くような時代が必ず来るでしょう。その時のために、過去の知恵を知っていなければなりません。

 ところが残念ながら、youtubeで、古民家のリノベーションをしている人の改築の様子を見ていると、昔の人の工夫を破壊しているものを多く見ます。

 先ず、多くの場合、畳を剥がして、ベニヤ板を敷き、床を張ってフローリングをしてしまいます。確かに、多くの古民家は、田の字式に四つの畳の部屋がつながってあります。現代で四室すべてが畳と言うのは使いにくいと思います。然し四室をフローリングにするのではなく、せめて二室をフローリングにして、あと二室は畳を残したらいいと思います。

 まず、古民家を改築するのに、ベニヤと壁紙は駄目です。特にベニヤは。薄い板を接着剤で張り合わせて作ってあります。あれを湿気の多い日本の建築に使うと、5年か10年の内にはみんな接着が剥げて、のしイカのような薄い板になってパリパリほつれてしまいます。安い家具の背板などもそうです。一枚板なら何十年でも壊れませんが、安い家具は背板が波打ってきたり、板自体が剥がれてきます。ベニヤは日本の建築には適さないのです。

 フローリングは見た目もきれいですが、古民家の冬場は寒く、床下から冷気が上がってきます。西洋の家なら床に靴を履いて生活しますので、寒さは感じないと思いますが、靴下で冬の古民家の床を歩いていると寒さが応えます。後になって畳のありがたさがわかるでしょう。

 更に、天井を取り外してしまって、天井を高くして、建物の梁などが直接見えるように作る家が頻繁に出て来ますが、確かに大胆で見栄えの良い家にはなりますが、それをすると、夏は蒸し暑く、冬は空間が広くなり、光熱費が余計にかかって、いくら暖炉で火を焚いても少しも温まらない結果になります。天井板と言うのは必需品なのです。

 

 ビニール製の壁紙も同じです。土壁にベニヤを張って、その上にビニール製の壁紙を張れば、見た目は奇麗に安く仕上がりますが、ビニールは湿気を吸わないため、水滴が付着して壁紙のつなぎ目から接着剤が剝げてきます。そこに水が溜まって、カビが生えます。そうなると壁紙が剥がれて来たり、つなぎ目の色が変わって行きます。せっかく奇麗に直しても5年10年で汚れてきます。

 アパートなら、エアコンもあるでしょうから、ベニヤも壁紙もそうすぐには劣化しないでしょうが、古民家ですとたちまち劣化が始まります。自然に土壁が湿気を吸い取っていたのとはわけが違ってくるのです。

 古民家に住むなら、古民家の何が優れているかを知っていなければなりません。建物だけ古いつくりで、中をアパートのように作り変えてしまっても、何のために古民家で暮らすのかの意味がなくなってしまいます。単に不便ばかりを手に入れて暮らしているように見えます。

 こうした人たちの生き方を見ていると、和妻を演じるマジシャンが、吊しの着物を浅草あたりで買ってきて、闇雲に傘を出している人の手順を思い出します。伝統を受け継ぎたいなら、伝統の仕組みを知ることから始めたらよいのに、そこを無視して、好き勝手に和妻を演じても、そうした演技に支持者は現れないでしょう。

 趣味でしているなら何も言うことはありませんが、食べて行くことはできないでしょう。なぜ売れないかと考えたなら、売れない理由は明らかなのです。古民家のリノベーションも、和妻と同じです。明日はもう少し詳しく和の生活について書いてみたいと思います。

続く