古民家リノベーション
最近、youtubeで、自分たちで古民家をリノベーションして、そこに住むと言う人たちが増えています。実際に古民家を改修したり改築している過程を画像で撮って出している人も結構います。
もう誰も住まなくなったようなぼろぼろの古民家を、ただ同然で買い取って、それを直して住むと言うのは、安価で家が手に入る上、自由にリノベーション出来ますから、一見面白そうではあります。しかも、限界集落のような、人が住まなくなった集落に若い人が移住するのであれば、地元の市町村にとっては、住人を増やすにはもってこいの企画で、願ったりかなったりだと思います。
私は十数年前から、群馬の猿ヶ京にある古民家を借りて、季節ごとにの出かけてはそこでマジックの合宿をしていました。これが日常生活に変化をもたらす意味で、とても面白く、本当ならば毎月でも泊りに行きたいところですが、様々な理由で毎月は出かけられません。
当初、借りた家は江戸時代の末期に建てられた古民家で、囲炉裏(いろり)に火を起こし、そこで鍋を炊き、みんなで囲炉裏を囲んで食事をすると言う生活をしていました。ところが、その古民家を町が使いたいと言うので、私は近くに移ることになりました。
移った先は、元芸者の置屋(おきや)で、かつて、温泉町である猿ヶ京にはたくさんの芸者がいました。その芸者が、各ホテルの宴会場に行く前に、置屋に集合して、踊りや、三味線の稽古をして、衣装を着替え、それから各ホテルに出かけていた場所です。
然し、それも昭和の時代とともに終わりました、今では猿ヶ京温泉の宿泊客で、芸者を上げて宴会する旦那もいなくなってしまいました。芸者がいなくなって久しく置屋は空き家となりました。そこを私がそっくり借り受けろことになりました。
何よりいい点は、二階に幅、四間半(8m)ほどもある舞台があることです。大きな舞台が魅力です。ここを使わないかと言われたときは私は自身の強運を疑いました。勿論すぐさま置屋を借りることにしました。
建物は昭和40年くらいの作りで、既に50数年経っていますが、まだ壊れた個所はありません。宴会が最も華やかだった時代に建てられたのでしょう。外壁はモルタルで、歴史的な建物ではありません。前に借りていた藁屋根の家からすれば、面白みのない家ではあります。でも、みんなで二階の宴会場に寝起きして、そこの舞台で稽古できるのは楽しい経験です。
古民家に暮らすと言うのは、全く別の生活が出来て楽しい生活です。然し、もし私のブログをお読みの方で、古民家を購入して、家の改築を考えておられる方がいらっしゃったら、僭越ですが、いくつかのことをアドバイスいたします。ついつい初めに買うときは、いいことばかりを考えてしまいますが、広い敷地の大きな家を持つと言うことはいろいろ大変なことがあります。まず改築に関することのみお話しします。
膨大な費用
改築をどんなふうにするかによってかかる費用が変わります。屋根が藁や萱葺(かやぶき)だったとすると、それは大変に費用がかかります。およそ30年に一回萱を吹き替えなければなりません。その萱が昔ならどこにでも自生していたでしょうが、今ではよほどの田舎でも萱を見ることがありません。萱葺職人も日本に何人と言う状況です。
さらに、萱葺作業は多くの村人の協力が必要です。然し限界集落では手伝ってくれる地元の人もほとんどいない状況です。実際、それがために、限界集落にある萱葺の家は荒れるに任せて放置されているのです。
そうなら、屋根をそっくり取り換えよう。となるとまたまた大きな費用が必要です。大きな家の屋根は面積も大きく、簡単に屋根の張替えなどできません。先ず屋根の状況を見て、雨漏りがするようなら、それは相当に修理費用が掛かることを覚悟しなければいけません。
同様に床です。むしろ手をかけるとすると、床にこそ費用が掛かるでしょう。床は畳をはがし、床板をはがすと。骨組みの根太(ねだ)が見えてきます。これが、150年も経った家だと大かたは白アリに食われて、木がスカスカになっています。そんな家は、畳の上を歩くとなんとなく、少し沈み込む場所があります。それがあったら要注意です。家はほぼ腐っています。根太から柱から取り替えないと、家は十年もしないうちに傾きます。これを手掛けるとするとほぼ全面改装になります。屋根と同様、300万から500万円くらいの費用が掛かります。
壁、壁は古い家は土をこねて、竹製のすのこに塗りたくって、柱と柱の間に立てつけています。今この仕事をする職人が殆どいません。左官屋さんの仕事ですが、今では左官の仕事が変わってしまっています。寺院建築の専門家を呼ばなければ修復が出来ないのです。古民家は、どこもかしこも土壁が壊れている場合がほとんどです。柱と壁に隙間が出来ています。放っておけば冬場に隙間風が吹いて、室内がものすごく寒くなります。
つまり、屋根も床も壁も、元の状態に戻すとなると軽く見積もっても一千万円くらいかかります。古民家をただ同然で手に入れたとしても、快適に住めるように直すにはとんでもなく費用が掛かるのです。
そのため長年住んでいた老人が、家を手放して、施設に入る際に、改修費が出せないため、ただ同然で家を手放すことになります。今、日本中で古民家が投げ売りされているのはこうした理由からです。
さて、そうした家を若い人が買い取って、自分の好みで改築をするのは自由なのですが、その改築の仕方が目を覆いたくなるようなことをしています。柱にペンキを塗ったり、土壁を壊して、コンパネ(ベニヤ板)を張り、上から壁紙を張ったり、床もコンパネを張って、その上にビニールの床に似せたクッションフロアを張ったりしています。新建材を使うことはやむを得ないとしても、もう少し何とかやる方法があるだろうと思いますが、せっかく百五十年続いた古民家が台無しになって行きます。
その姿を見ることは、ちょうど、手妻を知らない人が手妻を演じ、着物を着てひたすら傘を出す姿と重なって見えます。それが古典の芸かと言えば、古典であるはずがなく、当人が何がしたいのかすらわかりません。せめて和の芸をするなら、最低の知識を学んでから手妻をすればいいものを、結局好き勝手に演じて、伝統を無視しています。そうして一体何がしたいのか、首をかしげてしまいます。来週は、古民家に暮らすことは何がいいのか、その辺を詳しくお話ししましょう。
続く
明日はブログはお休みします。