手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

コロナの耐乏生活

コロナの耐乏生活

 

 いよいよ政府は緊急事態宣言をさらに延長して、6月いっぱいまで伸ばしそうな気配です。これがどんな結果になるかは後でお話ししますが、これまで何とか耐えてきた飲食店などは、壊滅的な打撃を受けて、次々倒産することになりそうです。

 オリンピックまでに劇的に感染者を減らしたいと考えるなら、法律を改正して、日本全体でロックダウンをする以外解決法はないと思います。但しその際、しっかりとした国民へに保証をしなければなりません。

 国民への生活保証をせず、国民の善意だけを当てにして、自粛要請ばかり求め続けるのは得策ではありません。明らかに今の状態は国民に無理を押し付けています、それでいて、コロナの感染防止にも役立っていません。いくら緊急事態宣言を延長しても、今の感染者が半分以下になることは難しいと思います。なぜなら、国民は自粛にうんざりしているからです。

 昨日(5月22日)に沖縄県が、緊急事態宣言に加えてもらいたいと政府に要請しました。この申し出は受け入れられるでしょう。これで、沖縄県も8時以降の外出自粛や、飲食店の時間短縮になります。沖縄という島の中での自粛ですから、島民は逃げ場がありません。きっとストレスが溜まって別のところにはけ口が移るだろうと思われます。

 店で呑めなければ仲間同士で集まって密かに酒盛りをすることになるでしょう。そうなれば、衛生管理していた店で飲むのでなく、管理のゆるい仲間同士で呑むのですから、一層感染を増やす結果になるでしょう。

 

 マジックの世界でも、トリットさんが全国チェーンで手品屋さんと言う、マジックショウを見せる飲食店を展開していますが、コロナ禍で店の運営が難しくなり、次々に休業をしましたが、沖縄店だけがこれまで営業ができ、しかもお客様の入りも良かったようです。この話は、伝々さんが実際、沖縄店で三か月出演していて、随分賑わっていた話を聞きました。

 トリットさんは、いわば最後の牙城である沖縄店に移って営業をしていたようですが、緊急自粛でこの先が心配です。

 

 二年前の年末までは、誰もコロナのことなど考えもしないで、大量に押しかけてくるアジアの観光客相手に飲食店や観光地は大賑わいでした。旅行会社も、ホテルも、飛行機会社も、新幹線も、飲食店もどこもかしこも活況を呈していたのです。無論芸能に携わる者も多くの仕事を持って活動を続けていました。

 つい最近まで、民泊と言う言葉が流行り、古民家などを買い取って、おしゃれに直して、海外の人を宿泊させる設備などをしきりに作っていました。テレビでも盛んに民泊の施設を特集していました。それが今や民泊の人気はがた落ちで、きれいに直した古民家があちこちで売りに出されています。

 私などは、一昨年の年末に、大阪で長期の仕事が決まりそうだったので、もしこの仕事が決まったなら、私も弟子もスタッフ数名も、大阪に長期滞在しなければなりません。そうなると、ホテル泊まりでは経費が掛かりすぎますので、民泊の町家を一軒丸ごと年間契約して、そこでスタッフが生活をして行くことを考え、大阪市内のあちこちの町家を物色していたさ中でした。

 ところが昨年、年明け早々にコロナが広がり、二月になるとあっという間に感染者を増やしました。結果呆気なくイベントの企画は消え失せました。その時はショックでした。但し、今になって思えば、何ら初期投資をしないうちに、企画が消えたことは幸いだったと言えます。

 これが大きな装置を発注してしまったり、スタッフを募集して、人を雇ってしまっていたり、民泊に年間契約を結んでしまっていたなら、補償などで大きな赤字を背負ったことになります。私とすれば、不幸中の幸いでした。

 世の中には、民泊のオーナーのように、きっと儲かるだろうと予測して不動産を買い、改築をして、いざ宣伝をかけようとした矢先にコロナにやられた人も少なからずあったと思います。オーナーは大損害を被ったでしょう。

 それがわずか一年半前のことです。さて、飲食店などはこの先どうなるでしょうか。私は、小さな飲食店を経営しているオーナーは、今が見切り時ではないかと思います。宅配などでうまくいっている店は良いとしても、毎月お客様が来なくて、家賃ばかりがかさんでいては、辛抱する意味がないのではないかと思います。建物のオーナーが、「今、店子がいなくなったら次が埋まらないから、只でもいいからしばらく使ってくれ」。と言うなら、借りっぱなしにしておいてもいいでしょう。

 そうでもない限り、家賃を支払って、従業員の人件費を支払って、維持する理由はありません。しかも、政府の政策が一貫しないで、自粛を求めておいて、ここへ来てさらなる自粛を求めて来て、何ら保証もなく平然としている状況では、自己資金を取り崩して頑張っていても、それは報われない結果になるでしょう。

 「見切り千両」と言う言葉があります。ここでやめたら大赤字だと言うときでも、その時見切ったことが、結果として、千両の損失を免れる。と言う意味です。千両とは今日の価格で三億円です。赤字が500万円1千万円と嵩(かさ)んでも、大局的に見て、その程度のうちに見切りをつけて、一旦撤退するのは、千両の赤字を被(こうむ)らない手段だと言う話です。昔はこれを見切り千両と言って、賢い選択だと考えたのです。

 苦労して頑張っているオーナーに申し上げるのは酷ですが、今無駄に家賃や人件費を支払うなら、一度店をたたんで、時期が良くなってから、新規の開店資金に回したほうがよっぽど建設的な金の使い方だと思います。

 私の見たところ、医師会も、都も、政府も、やっていることはめちゃくちゃです。この人たちの言うことを聞いていては、国民みんな無一文になってしまいます。それはマジシャンも同じです。マジシャンの多くは、個人営業ですから、自分だけ食べて行けたなら何とか生きては行けますが、少しでも人を使ったり大きく仕事をしているところではもう限界に来ています。

 さりとて、何もせずにじっとしていていいと言うものではありませんし、何か活動することで活路を見出さなければならないと誰もが思っているでしょうが、私がこの一年半を見ていても、個々の努力をことごとく、政府や都がつぶしています。これでは何とか工夫をして生きて行こうと言う人が出なくなってしまいます。

 さて、私は悩んでいます。コロナの解決までおよそ半年、それから人が安心して生活できるまでがまた半年。その上で、海外のお客様が来るようになって、それからイベントがぼちぼち発生するまで半年。早く見積もっても丸一年半。それまでどういった活動をしていったらいいものか。

 私は、9月4日にはマジックマイスターをします。10月25日には私のリサイタル公演をします。やるべきことは私の責任で致しますが、個人のマジシャンの活動には限界があります。願わくば政府が私の活動に妨げにならないようによろしくお願いする次第です。

続く