手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

時流を読む 7

時流を読む 7

 

 実際、昭和の時代だったら、人の持っていないマジックを海外から仕入れてきていち早く演じる。人よりも不思議なことを考え出せる。それができるだけで十分生きて行けたのですが、平成以降はそれでプロを維持するのは難しくなりました。個性的な演技、独自の考えを持つことは勿論必要ですが、もっと大きな流れを読み取って行かなければよい仕事は来ないでしょう。

 さて、令和の時代はどうなるでしょう。今現実を見ると、とてもマジックで生きてゆける状況ではないと思います。それはマジックに限らず、お笑いでも、芝居でもミュージシャンでも、芸能と言う芸能はすべて暮らしにくくなってしまいました。それは日本だけではなく、世界中がそうなってしまいました。

 この先ワクチン接種が進んでウイルスがうまく退散したとしても、これまでの経済の打撃が大きすぎます。おいそれとはイベントが出てくるとは思えません。この先はどうなるでしょう。私は預言者ではないので、この先こうなる、と断定することはできません。でもいくつか可能性を書いてみました。

 

1、天変地異や、新たな病気、戦争

 先に江戸の安政時代の地震やコロリ病(コレラ)のことを書きました。安政と言う時代は世相が一気に暗く不安定な時代に向かった時期です。江戸に大地震があり、同時にコロリがはやり、まるでそれと連動したかのように安政の大獄が起こり、その反動で、井伊大老桜田門外で暗殺されます。日本の国の根幹がぐらつき始めたのです。当時の人たちは明らかに末世を感じていたと思います。そしてそれから10年後に江戸時代は終わります。

 私は、今の時代が幕末の日本に似ているように思います。この先、日本には天変地異が来るかも知れません。既にコロナで不況に陥っている今、地震が来たなら日本は壊滅的な打撃を受けるでしょう。

 それだけではありません。これまで好調だった中国や、韓国が財政破綻するかもしれません。そうなると、コロナウイルスで体力を弱めているヨーロッパやアメリカが大恐慌に陥る可能性もあります。それを日本が助けられればいいのですが、日本自体もウイルスや地震で被害を受けたなら、全世界が不況のどん底に落とされます。

 江戸時代はぴんと来ないかもしれません。ちょうど100年前の1916年に第一次世界大戦が終わり、ヨーロッパ中が廃墟と化しています。どうも人は100年に一度とんでもない災害を経験するようです。それでも当時は、アメリカと日本が大戦の被害を免れましたので、世界の勢力図は、ヨーロッパから、アメリカ日本に移って行ったのです。

 然し、今回はアメリカも日本も厳しい状況です。どうも世界中が経験したことのないような大不況、大災害を体験する可能性は十分にあります。

 そんな時に芸能は全く役に立たないでしょうか。いや、それは逆だと思います。世の中が悪くなればなるほど芸能を求めるお客様は増えます。特に実演は強みを発揮します。

 災害が起こった当初は景気も一時的に不況に陥りますが、すぐに国の税金などで大規模な復興活動が始まりますから、国内は景気が上向きに転じます。それは東日本大震災の時も、神戸地震の時もそうだったのです。災害の後には好景気が来ます。但し、景気が上向きに転じてもすぐに芸能にまで恩恵が回ってくるわけではありません。しかも、恩恵は広く平等に行き渡るものでもありません。こんな時にマジシャンは何をどうしたらいいのでしょう。

 

活動拠点を作る

 それは私が今、玉ひでの座敷や、神田明神などで公演しているように、とにかくどんな場所でもいいので、自らの活動拠点を持つことです。そこに行けば必ずマジックが見られるという場所を作ることが大切です。マジシャンがどこで何をしているのかわからないというのでは誰も注目してくれません。

 仕事がない、生きていけないと嘆いていても誰も助けてはくれません。まずは自分の芸を見せられる場所を持つことが第一歩です。初めはまったくお客様が集まらないかも知れません。それでもネットなどで常に情報を流していると、人の輪は徐々に大きくなって、多少話題になってきます。そうなると、新聞、テレビなどが取材に来てくれるようになります。

 やっている活動が質の高いもので、見て面白いものなら、自然自然にファンがついて、収入に結び付いて行きます。内容さえよければ周囲が支援してくれます。その時のために、腐らずに、前向きに、自分のなすべきことを追及し続けることです。一人で活動することが不安なら仲間を見つけて、数組でショウをしてもいいでしょう。どんな形であれ、必ず毎月続けて行くのです。

 

支援の根を張って行く

 一か所活動場所が決まって1年でも公演すると必ず、「私の地域でもマジックをやってくれないか」。とか、「私らが主宰している公演に協力してもらえないか」。と言う話が来るようになります。これは大きなチャンスです。もし自分が家にいて、かかって来る電話だけで生きていたのでは、決して巡り合うことのない支援者だからです。まったく新しいお客様をつかむチャンスが生まれたわけです。

 もしかすると、自分では気付かないような別の才能を人が見出してくれているのかもしれません。何でもかでも予想した通りにことが運ぶわけではありません。時には予想外の方向に発展することもあります。どんなことがあっても楽しいではありませんか。もっともと積極的に活動を広げて、新しいお客様をつかむことです。

 

時流を読む

 お客様が定着してきたのなら、本当にお客様が望んでいるのはどんなマジックなのか、自分のどんなところに興味があるのか、そこを常にお客様の反応から読み取ることです。「時流を読む」と言うのは今回のタイトルですが、芸能で生きる者にとってこの感性を持つことは大切です。カードが当たる、ハンカチが出てくる、ボールが消える。それがマジックであるのは勿論としても、お客様が望んでいるのは単に外に見える現象ではない場合がほとんどなのです。

 「あなたの演技から品格を感じます」。とか、「あなたが空(くう)を見つめて蝶を飛ばす瞬間がとてもすごく深い世界を感じます」。などと言われることがあります。「ははぁ、このお客様は私の表情に興味を持ってくれているんだなぁ」。と納得します。

 無論それは私がお客様の思いを予測して演技をしているのですが、時に、演技が独り歩きをして、予想以上にお客様が格別な世界を感じ取ってくれることもあります。そうしたお客様の思いを一つ一つ理解して、それを自分の芸の財産として行くのです。

 こうしてつながったお客様との関係は一生続きます。芸能芸術とは心の告白です。他の人では表現できない世界を持つということは。それは小手先のテクニックやイフェクトを考える才能とは別の才能です。自分のこれまで体験した人生で感じたすべてをわずかな演技の一瞬に語って行くことなのです。

 それも言葉で語るのではなく、ただ立っている、ただ見つめている。何かをするというよりも、むしろ何もしていない姿をそのままお客様に見せることこそ自身の心の奥を語ることになるのです。それを生の舞台で見せ続けたときにお客様はそこから離れられなくなるのです。

時流を読む 終り