手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

日が差してきたか

 30日のヤングマジシャンズセッションはほぼ完売です。後は当日分の5席くらいを残すのみです。

 

 来月、14日、15日の猿ヶ京合宿は今のところ参加者は8名です。気分転換に温泉につかって、マジックのレッスンは如何でしょう。参加してみませんか。

 

 まだはっきりとは言えませんが、1月に東京と大阪、(ひょっとして名古屋)でマジックショウが開催される可能性があります。子供を対象とした企画で、子供は無料で公演を見ることが出来ます。無論、我々の出演料は支援してもらえます。有り難い企画です。

 この企画が通るなら、私の好きなメンバーを組んで、ショウの構成を考えてみようと思います。何とか若手もベテランも、みんなが舞台に上がれるように工夫します、ようやくいい流れになってきました。

 

人力車の笈(おい=竹で編んで作った背負い箱)

 今日は傘手順の稽古です。このところ傘を出す機会が増えて来ました。それは傘のエンディングに人力車を作って、私が人力車に乗って引っ込むと言うアイディアを考えたところ、予想以上に好評で、最近はこれを頻繁に演じています。

 松旭斎天一先生の明治時代のポスターに、七変化を演じている絵柄が描かれています。そこに、傘を利用して、人力車に見立て、支那人になって引っ込んで行く絵柄があります。「これは面白い、早速真似してみよう」と、傘を二つ車輪にして、梶棒を二本、弟子と私で電車ごっこのように互いに棒を持って、私は中腰になってしゃがんで引っ張られて行きます。これなら確かに人力車に見えるのですが。先ず私が中腰で移動することが苦痛です。傘を二本しっかり押さえて、なおかつ梶棒まで手に持って、しゃがんで歩くのはいきなり腰を刺激します。足はよちよち歩きをしなければいけません。ほとんど拷問に近い動きです。

 そこで新規に捨て箱を作り、あらかじめ上手に置いておき、その捨て箱に出した傘を飾り立て、演技が終わった後に、その箱に私が座って引っ込んでゆくと言う工夫を考えてみました。結構いい具合です。いろいろ苦労の末、2年前に完成しました。そして職人に注文し、一年半後に黒漆の笈(おい)が完成しました。

 いい出来です。舞台に置いてあってもこれが人力車になるとは誰も思いません。と言うのも、飾りつけの際に、人力車になる、と気づかれないように、車輪の部分は少し高めに飾っておきます。初めから人力車に見えては趣向が生きないからです。私が箱に乗る段になって、車輪が下がるようになっていて、初めて全貌が現れます。幸いどこで演じても好評で、あちこちで使っています。

 人力車で引っ込むことで傘も傘手順の小道具も、全て舞台から消え去って、舞台が素の状態に戻ります。これが私の望んでいた舞台です。道具をたくさん飾り立てても、終わった後に道具が残らない。次の背景に速やかに移行できる。これが私の意図する構成です。結果としてとてもいい効果を生んでいます。30日にヤングマジシャンズセッションでこれを演じますので、ご期待ください。

 

この先コロナはどうなるか

 日本やアジア諸国ではコロナが収まりつつありますが、アメリカ、イギリス、フランスは依然としてコロナが収まる気配がありません。ラスベガスのショウはいまだに全部中止です。マジックキャッスルも店を閉鎖しています。ニューヨークの42番街も軒並み劇場は閉鎖です。アメリカの芸能人はどうやって生活しているのでしょうか。

 来年の秋までに、マジックキャッスルが再開されるなら、私も出演したいと思いますが。どうもその可能性は薄いように思います。今度の騒動で、アメリカのマジック界が完全に崩壊しないことを願います。何とかマジシャンも生き延びて、来年秋頃には再会できれば幸いです。と、よその国を心配するほど私にゆとりがあるわけではありません。このままでは私もどうなってしまうのか予想もつきません。

 誰もがワクチン待ちの状況でしょうが、ワクチンはそう簡単には作れません。来年夏でもできるかどうか。そうなればオリンピックの開催も厳しいかもしれません。何かと言うと世間の話題に乗っかってくる、小池都知事が、一切オリンピックの話をしないところを見ると、政治の世界ではオリンピック中止は既成事実なのかもしれません。

 オリンピックを当て込んでホテルを建設した企業は倒産の可能性があります。旅行会社、航空会社も危険です。えらい時代になりました。コロナはいずれ解決するに違いありませんが、今は神頼みの状況です。

 ただ、救いはあります。みんなが手洗いマスク、うがいをするために、今年はインフルエンザがほとんど出て来ません。インフルエンザだけでなく、風邪の類の伝染病がことごとく収まっています。今頃ならあちこちでコホコホ咳をしている人がいるものですが、今年はなかなかそうした人を見ません。手洗いマスクうがいは、大きな効果があるのでしょう。そうなら毎日マスクをすべきですが、この先、日常生活にマスクが定着して行くのはどんなものでしょうか。とても重苦しく、息苦しい生活です。

 

 どうも気持ちが晴れません。こんな時には、ぱっと頭を切り替えて、ハワイや、沖縄に行って、海を見ながらハイボールでも飲んで寝そべっていたいものです。

 ハイボールと言えば、このところ缶のハイボールが流行っていますが、缶のハイボールウイスキーの香りが立ちません。ウイスキー本来の味わいに欠けます。私が好きなハイボールはバーボンのハイボールです。

 以前はバーなどでは普通にバーボンのハイボールが飲めたのですが、今はバーボンウイスキーそのものをあまり見かけなくなりました。味が濃くて、癖の強い酒ですが、炭酸で割ることで実に穏やかな味わいになります。しかもいい香りが立ちます。如何にも大人が飲む酒です。あれが私の好みなのですが、たまにはバーボンウイスキーを脇に置いて、肴はからすみを軽くあぶったものか、福井のへしこ、或いは焼いた塩鯖で酒が飲めたなら最高です。

 ウイスキーと塩気の魚と言う取り合わせは、私に取っては体に悪いものばかりですが、バーボンの癖の強い味わいは、塩気を呼びます。へしこのような、強烈な塩気でバーボンを呑むと、「ああ、いい人生を過ごしているなぁ」。と実感します。まぁ、何のかんのと能書きを垂れてもただ酒が飲みたいだけなのです。

 コロナからへしこに話が飛びましたが、気持ちを切り替えることは大切です。同じ悩みを持ち続けていると顔つきが悪くなります。やはり芸人はいつでも呆気羅漢と生きて行きたいものです。

続く