手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

誤謬の果ての衰退

 今の状況が続くと、体力のない分野で働く人たちが生活が成り立たなくなり、結果引退して行き、その産業そのものが崩壊する可能性があります。特に私がお付き合いしている伝統産業の方々などは、これまで既に仕事が減っているところへ持って来て、この度のコロナウイルス騒ぎです。これが決定的に廃業につながる可能性があります。

 その例を挙げればきりがありません。例えばお稽古事はどうでしょう。長唄や三味線の稽古どころ。日本舞踊。太鼓、鼓の稽古処。私がかかわっているところですら、これまで、お稽古に通う生徒さんが減少しています。

 それでも何とか、カルチャースクールなどで、新しい生徒さんを見つけては稽古を維持していたものが、全て活動が中止となっては無収入になっています。しかも、この先の再開のめどが立たないというのでは、直接の生活が不安になります。とてもお稽古屋さんのお師匠さんは生きては行けません。元々サイドビジネスのような収入で教えていた人たちですから、日々の月謝が入らなければ生活が成り立たなくなってゆきます。

 お師匠さんと言う方々は、単に、長唄や、三味線、鳴り物(笛、太鼓)を教えているだけではありません。習いに来た生徒さんに、行儀から、立ち居振る舞い、江戸(あるいは上方)の話し方、着物の着付け、あらゆる日本文化を保持していて、自らの生活を見せることで生徒さんに文化を伝えているのです。こうした人たちがあって、日本文化は守られて来たのです。

 それがこの度の自粛で、生徒さんを失えば、稽古処とともに、日本文化が失われてゆきます。むしろそのことを私は危惧します。

 

 また、私の道具を作ってくださる職人の方々。これもどこも高齢化していて、後を継がれるお弟子さんがほとんどいない状況です。和傘職人や、キセルのらう(キセルの真ん中の竹の筒のこと、これを作る人は日本に数人しかいません)職人。扇子の地紙に絵を描く職人、男物の帯、羽織紐の職人。印籠職人、根付職人、金銀細工職人、飾り職人。指物師(木工で、小箱や、箪笥などを作ります、私の蒸籠や、引き出しを作ってくれます)、塗師屋(漆塗り職人)、蒔絵職人、ざっと私が関係する職人だけでも十数種類以上いらしゃいます。

 それだけではありません。町の商店街に普通にある、呉服屋さん、履物屋さん、和装小物屋さん。こうした職業の人たちは御自身も高齢化し、お客様も高齢化し、内心廃業しようかどうしようか迷っている人たちがたくさんいます。恐らく今回のコロナウイルスの騒動は、そうした日本文化を生業としていた人たちが、廃業を早める結果になるでしょう。この先、町の商店街から呉服屋さんが消えて行く可能性が高いように思います。

 私が、日常、足袋や、履物や、襦袢を買おうなどと店に気軽に寄っていたものが、この先は、よほどに特定のお店と縁を持たない限り、和の小物は簡単に入手できなくなる可能性があります。今回の騒動が、江戸時代から連綿と続いて来た日本の文化と我々の生活を切り離してしまう結果になりそうで心配です。

 

 今マジックの世界では手妻をしたいと言う人は増えています。逆に言えば、通常のマジックが袋小路に入り込んでしまって活路が見いだせないのではないかと思います。そこで残されたジャンルとして、手妻に挑戦をして、新しい仕事の範囲を広げようとしているようです。お陰で、私の所に習いに来る人も増えています。手妻そのものに関しては良い流れですが、肝心の、手妻を支える職人が極端に減っています。このままでは道具一つ作るにも、残っている職人を探さなければならなくなりそうです。

 このことの危機意識はずっと前から抱いていたことですが、こうして、先の見えない自粛が続くと、今、何気に表現している世界が、この先、二度と演じることのできない世界になってゆくようで、大きな不安が心の中を支配しています。

 

 昨日、トランプ大統領が、各州に自粛をやめるように呼び掛けました。このまま都市の機能が止まってしまっては、アメリカも大不況につながることがわかったのです。そうです、初めから自粛などする必要はなかったのです。安全も、健康も、人の日々の営みが普通に行われていればこそ、維持されてゆくことで、人がまともに生活して行けない状況では、安全も健康も維持するどころではないのです。

 ネットでは、替え歌や、作曲をして、コロナウイルスを防ぐ歌を発表する音楽家がいます。何をしようと自由ですし、何かしなければいけないからしているのでしょうが、でも、そう言う歌が本当に人に聞かせたい芸術なのでしょうか。

 今芸術家がすることは「自粛をやめろ」と訴えることではないのですか。このまま経済が停滞すれば、病院の維持も、健康保険の補助も、保健所の職員の給料も支払えなくなり、ひいては国が維持できなくなります。そうなった時に逆に、ウイルス患者は爆発的に増えませんか。病院も、保険も、保健所に維持も、薬の開発も、人がまともに働いて税金を支払っているから出来ることなのです。国民全体が仕事をやめてどうして安全な社会が維持できますか。政治家が国の基盤を壊して、どうして国が維持できますか。

 トランプさんは気付いたのです。しかし、州知事は気付きません。安倍さんは迷っています。小池都知事は気付いていないのではないですか。一度大きな流れができてしまうと、人は流れを維持しようとして躍起になります。結果、人は破滅の道を大暴走します。

 テレビは連日コロナウイルスばかりを報道します。芸人は手洗いの唄を歌って世の中の役に立とうとします。そんなことをしていていいのでしょうか。どれも誤謬を深めることにしかなっていないようにみえます。このままでは、この先にとんでもない大不況がやってきますよ。