手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

リサイタルの練習 2

リサイタルの練習 2

 

 昨晩(14日)は、笹塚にある音楽集団のアトリエに伺い、邦楽のメンバーと、リサイタル当日の曲目を打ち合わせいたしました。リーダーの杵家七三(きねいえなみ)さんとは20年来のお付き合いで、文化庁の学校公演の際には毎年お付き合いいただいて、演奏をお願いしました。特に、学校公演のさ中に、大樹が、弟子修行をしていて、仮面の手妻を制作中だったのですが、その曲は七三さんが作曲してくださいました。大樹は、連日、生の小学生を相手に、生演奏で、曲を微調整して行き、結局、学校公演をしている間に、手順と、音楽を完成させたのです。大樹にとってはラッキーでした。

 大樹は私の元を卒業すると同時に、自作の仮面の手順と、折時寝る曲と、オリジナルを演奏したテープを持っていたのです。そんな弟子はほかにはいません。恵まれたスタートを切ったことになります。

 

 さて、私が七三さんと今も、お付き合いしているのは、学校公演を始めとして、私のリサイタル公演にはほぼ毎回生演奏でご出演願っているためです。当時の学校公演は、とても大規模なもので、演奏家だけでも八名いました。三味線二名、琴二名、四拍子四名(笛、太鼓、小鼓、大鼓)歌舞伎音楽に、琴が加わったとても大きな編成でした。このメンバーで、蝶や、水芸を演奏したのですから、子供たちは大喜びです。本来なら、純邦楽の世界から演奏家をお願いすればよさそうなものですが、実は、演奏している曲の多くが創作曲のため、五線譜が読めなければ演奏できません。演奏家の多くは、芸大出身の演奏家で、邦楽家でも現代邦楽を目指している方々でした。

 

  その七三さん率いる現代邦楽の集団と言うのは、芸大出身者がほとんどで、元々は、家のご両親が邦楽をしていて、琴やら三味線を教えていた家が多く。芸大を卒業すると多くは、家を継いで、邦楽のお師匠さんになります。

 然し、ご存じのように、今、稽古事はあまり流行っていません。かつてのように看板さえ出せばたくさん生徒が集まると言う状況ではなくなっています。

 特に邦楽は厳しい現状です。邦楽に限らず、日本文化は呉服でも、履物でも、和傘職人でも、指物師でも、お座敷も芸者さんも、日本舞踊も、あらゆる伝統文化、伝統産業が危機に陥っています。

 かくいう私も、人ごとのようには言っていられません。手妻は私の子供のころには間違いなく絶滅するであろう世界だったのです。幸い、今は私の弟子だけでも30人以上います。そのうちのほとんどが実際に活動をしていて、手妻はうまいこと残っています。

 邦楽も、ただ昔の曲をそのまま演奏しているだけでは将来がじり貧になると考え、現代邦楽を模索する人が出て来ます。

 私は、学校公演の演奏を、七三さん率いる現代邦楽の皆さんにお願いしていました。無論、古典の演奏家でもよかったのですが、しかし、私の手妻の作品はほとんどが創作曲で、その曲は、五線譜によって書かれています。

 五線譜とは、西洋の譜面です。ドレミファソラシド、というあの音階です。ところが、あの音階を琴や三味線で弾くとなると極めて困難なのです。邦楽の音階とはかなり位置が違います。常日頃三味線で演奏している勘所とは違う場所を抑えなければなりません。これが難しいのです。

 例えていうなら、フランス語をイタリア語に置き換えて瞬時に翻訳して行くようなもので、似ていても相当に違います。これは邦楽を演奏すると言うこととはまた違った技術を要するのです。

 ところが、邦楽家が、お稽古の師匠の立場から離れて、邦楽の演奏を生かすとなると、求められるのは五線譜の音楽です。

テレビ局は、例えば大河ドラマのテーマ曲を作るときには、五線譜での作曲を求められます。そうでないと、合奏の中にバイオリンや、ギターなどが入ったときに、邦楽の楽器だけ音痴に聞こえてしまうのです。メロディーは。邦楽のように聞こえても、実際には邦楽が西洋音楽に寄り添って演奏していることになります。

 現代邦楽で生きると言うことは、いろいろな点で妥協を求められます。私の手妻の音楽は、そうした人たちに作曲を依頼したものですから、私の曲はすべて五線譜で書かれています。

 例えば私の曲を寄席のお囃子さんに譜面を渡して、演奏してくださいと頼んでも、演奏はできません。まったく従来の邦楽の考え方では演奏できない曲なのです。

 この辺はお話しするととても複雑な話になりますので、ここまでにしておきます。

 少なくとも、私が手妻をどうにかしなければいけないと言う思いと、現代邦楽を追求する皆さんとは思いが一致したわけです。そこからさまざまな作品が生まれて行きました。

 何にしても、自宅で理解者を集めてお稽古をしていただけでは聴く観客は増えません。外に出て、全く邦楽を知らない人に音を聞かせて、ファンを作る以外ないのです。

 それは手妻も同じです。古い文献を調べるだけではいつまでたっても理解者は増えません。見せて面白いと思っていただかなければ、手妻は残らないのです。私の仕事はそこにあるわけです。

 と言うわけで、前説が長くなりましたが、25日当日に演奏していただく皆さんと昨晩、演技を合わせて来ました。ここまでで紙面がいっぱいです。詳細はまた明日お話しします。

続く

 

 25日(月)18時30分スタート。座高円寺、「摩訶不思議」前売り4000円。お席はだいぶ少なくなりました。観覧ご希望の方はお早めにお申し込みください。

 

 17日(土)12時30分から、玉ひででの公演。若手出演者は、戸崎拓也さん、早稲田康平さん。前田将太。お席まだあります。