手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

仲間を作る2

 仕事をくださったクライアントさんといかに仲良くなるかについて、いろいろ書きました。大切なことは、私の出演するイベントに携わった人となるべくたくさん、仲間になることです。話す相手は、経営者さんだけではありません。今回の催しを担当しているスタッフさんや、楽屋を担当してくれているスタッフさんにも話しかけます。実はこれが後々、大きな成果を生みます。

 ある仕事で、主催者さんが、自社の顧客を集めて、食事会を催したりして、そこに私の手妻が入ることがあります。その時の楽屋担当者が会社の課長さんだったり、部長さんだったりします。この人がたまたまマジックに興味があって、楽屋で親しく話をして、名刺のやり取りをして、その後、折々年賀状や、近況報告など、はがきや手紙を出していると、10年して、その部長さんが会社の社長さんになることがあります。

 再び同じ会社のイベントに招かれて、そこへ新社長さんが楽屋にやってきて、「藤山さん、あなたは私を覚えていますか。あの時の楽屋担当をしていた○○です。今は会社の取締役になりました。あの時、いつかまた、あなたを使おうと心に決めていました。その思いがようやく達成されました」。と言って握手を求められました。

 私はこうしたときに、正直、涙が出るほどうれしく思います。そこまで私の芸を理解して、ずっと心にとどめてくれていたかと思うと感激です。それもこれも、人との付き合いをその場限りにせず、人を役職や、立場だけで見ないで、仲間としてお付き合いし、何かあるごとにはがきを出したりして情報を伝えていたから、今日までお付き合いが続いて来たのです。

 私のように50年以上も舞台の仕事に携わり、長く生きて来ると、同じ会社、同じ人から何度も舞台の依頼をいただくことが頻繁にあります。その時、決して人を軽く扱わず、仲間として遇すると、相手も必ず私を仲間として扱ってくれます。

 

 人生は人との出会いの連続です。今まで全く知らなかった人と毎日どこかで出会い、話をします。その時、どれだけの人を仲間にできるかで人生は大きく変わります。これは、決して人を利用することではないのです。何度も言うように、人と仲良くなることなのです。どれだけ仲間を作って自分を印象付けられるかが、大きな仕事、多くの仕事ができるマジシャンになって行くのです。

 初めに「人の輪を作る」の所で申し上げたように、先輩に食事に誘われていながら、仲間の輪にも入らずに、一人、出された物を黙って食べているだけでは、その時点で芸能人として失格です。今、何をしなければいけないのか、何が自分にとってのチャンスなのか、それがわからなければ、何の成功もつかめません。いかに多くの芸能人、芸術家が、仲間を作ることに苦心しているか、そこをもっともっと知るべきです。

 人によっては私の話などは、「所詮、芸人が仕事をもらうために胡麻を擦って、お客さんに擦り寄っているているだけじゃないか」。と思う人もあるでしょう。その通りです。正解です。仕事をもらうために実力者に擦り寄る。一見みっともない行為のように思えますが、あらゆる仕事をする上で、このことはとても重要なことなのです。

 まず仕事をくれる人に自分の名前を知ってもらわなければ仕事は永久に来ません。どうしたら、人は自分の名前を憶えてくれるでしょうか。その答えをお話ししましょう。それは、「人は、自分を認めてくれた人を認めるのです」。これが答えです。あるいは、「自分を愛してくれた人を愛す」。と言ってもいいでしょう。自分を認めてもらいたいと思うなら、まず相手を認めることです。相手を尊重して、相手に近づきます。これが自分を認めてもらう第一歩なのです。

 相手が経営者であったり、政治家であったり、強い影響力を持ったリーダーであったなら、その功績をまず自分が理解することです。その上で近づいて、自分のマジックを見てもらうことです。無論、マジックの内容が優れたものでなければ、すべては無意味になります。あなたが優れた技量を持っていたとして、そこから仕事を作るには、まず相手を認めて、相手に近づかないことには仕事にならないのです。

 

 芸能と言う仕事は、およそ生産的な行為ではありません。無論、生産に結びつく芸能もあります。CDや陶芸や、布地の生産などは芸術が形になって商品化されています。しかし、それは、出来た作品が芸術から離れて、製品になる過程で形になって行ったもので、多くの芸能は形がなく、表現したそばから消えて行くものです。そこに縁も所縁(ゆかり)もないお客様に、大きな価値を見出してもらえるか否かは、お客様の心の思い一つにかかっています。誠に弱く、儚(はかな)いつながりでしかありません。

 そうした芸能に、価値を見出して、お金を支払ってもらうにはどうしたらいいか。それは、仲間となって支援してもらう以外ないのです。

 例えば、どんな人でも、自分の子供が学芸会に出る。あるいはピアノの発表会に出る。などと言うと、親子して、会場に詰め掛けて、真剣に子供の演奏を見ます。それが決してうまくないものであっても、親は子供の出来を褒めまくります。これを世間では「親バカ」と言います。馬鹿と言われようと、何であろうと、親は子供を褒めます。なぜ褒めるかは明らかです。それは子供を愛しているからです。芸能が人に認められる第一歩は、お客様に自分の家族のように、肩入れしてもらうことなのです。

 同じカードマジックを演じるのでも、ただカードがうまいと言うだけでは、お客様は普通に眺めるだけに終わってしまいます。それが、わが子のようにかわいいとか、好きだとなると、見方が180度変わります。お客様がマジシャンに乗り移って応援するからです。アイドルスターのライブなどはまさにそれです。

 そうであるなら、芸能に生きる人は、技術を習得することも大切ですが、初めに人に愛されなければ話にならないのです。わたしには、アイドルのような容姿はありませんし、そもそも年齢が年齢です。しかし、人が経験したことのないような体験や、人の知らない世界を見聞きしています。それを事あるごとに人に話します。すると人は自然自然に寄ってきます。話をしながら仲間を作って、仕事の輪を広げているのです。

 次回は人の輪をまとめる苦労をお話ししましょう。