手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

梅は咲いたか、桜はまだまだ

 昨日は、踊りの稽古に行って、そのまま人形町玉ひで社長さんにお会いして、4月18日に玉ひでで行こなう手妻の公演のチラシを置かせてもらいに行きました。そのあとマジックランドに行き、更に月島の社会教育会館で、長唄の下攫いに行きました。

 踊りの生徒さんの中にも、いろいろな人がいて、全国の子供歌舞伎に所作を教える先生もいます。ちょうど今の時期、子供歌舞伎の発表会が全国あちこちであり、指導の先生はハードな仕事をしているはずなのですが、子供自体が休校になって、しかも地方自治体が相次いでイベントを中止したことで、子供歌舞伎はどこも中止になり、指導の先生は収入を失いました。先生は不満を仲間に、仕事を失ったことの愚痴を言うのがせいぜいで、保証も、将来の見込みも立たなくなっています。

 保証が出ないわけではありません、日当として、一日4200円の保証は、地方自治体に申し込めば降りるそうです。しかし、すんなりとは出してくれません。契約書を見せろとか、指導内容を書面で出せなどと言われます。わずかな補償を得るために日当以上に書類作成に時間を費やさなければならないとなると、地方の自治体とやり取りするのは諦めたそうです。

 通常芸能の出演や指導の取り決めなどは、電話で済ます場合がほとんどで、契約書はありません。契約書は交わしていても、キャンセルになった時の取り決めなどは書かれていない場合が多く、契約書と言うよりも、確認書と言ったほうが正しいような、単なる取り決めがほとんどです。そんな一方的な取り決めでは、芸人が不利になることはわかりきっているのですが、長年の習慣からか、一向に改まりません。結局、呼ばれて出かけて行く、芸人の立場の弱さがいつまでたっても自身の立場を弱くしています。

 というわけで、子供歌舞伎の先生は、3月4月ともどもスケジュールが真っ白だそうです。気の毒と言って眺めているわけにはいきません。私も全く同様な立場です。

 

 そのあと チラシを持って人形町玉ひでさんに、こちらは親子丼の発祥のお店で、毎日たくさんのお客様が2時間待ちの行列の出るお店ですから、何があってもびくともしないのではないかと思っていますと、相当に影響が大きく、親子丼を求めてやってくるお客様の行列は、今まで通り変わらないとしても、夜の鳥鍋コースを予約する会社のパーティーなどが軒並み自粛で、かかってくる電話はキャンセルばかりだそうです。お店としても宴会がないと店は成り立ちません。

 社長さんも、この危機をどうしたらよいか、毎日悩んでいますが、問題の解決方法が見つからないそうです。私はてっきり、玉ひでさんは何があっても安泰なのかと思っていましたが、悩みは私のところと同じ状況のようです。

 

 そのあと長唄の下攫いに出かけましたが、ここでも皆さん元気がありません。クルーズ船に乗って、日本舞踊と邦楽演奏を見せるという企画がそっくり流れてしまい、日程ががら空きだそうです。仲間の津軽三味線も、仕事を失っているそうです。

 こうして、わずか半日、本郷と、人形町と月島の三か所をぐるりと回っただけなのに、みんなこの先どうしていこうかと悩んでいます。

 帰りの地下鉄の中で、私は義侠心が燃え立っていました。結局いつの時代でも、得体の知れない風評被害によって、世間が過剰に反応し、政治が表に影に噂の後押しをして、世の中の景気を悪くしてゆきます。一旦景気が悪くなると、力のある組織から順番に生き残りの手段を講じて、自身の赤字を下請け企業や、弱者に押し付けます。押し付けられた弱者は自分より更に弱い個人事業者を圧迫し、本来自分がかぶるべき赤字を弱者に押し付けて、知らん顔を決め込みます。

 最終的に全くの弱者が赤字を全てかぶり、今までしてきた自分の仕事を廃業するかどうか、あるいは転職を余儀なくされるに至ります。こうして、日本の芸能、あるいは芸能に携わるマネージメント業、あるいは劇場、ホテル、座敷、などが廃業してゆきます。伝統を残したい、守りたいとおもてむきはまことしやかに語りながらも、現実は、今日も一人、また一人と、有能な芸人が保証もなくつぶされて行くのです。

 

 例えば、仕事を直接キャンセルしてきた会社なりを訴えることは実際にはできません。なぜなら、仕事を世話してくれる人たちと言うのは、実は我々の理解者だからです。理解あるからこそ仕事の依頼をしてくれたわけですから、あからさまに争うことはできないのです。仮に法律で争って、仮に勝利したとしても、一本分の仕事のギャラが返ってくるだけで、次から仕事の依頼はなくなってしまいます。

 ここはよく考えなければいけません。問題の根は何かと考えたなら、芸能なり、飲食店なり、お客様を相手に商売する人たちを、おかしな風評から守る方法を考えることことでしょう。いわれなき被害を受けた時に、生き残るための保証が出たなら、少々の被害があっても何とか生きて行けます。それが保険や国の制度で守られていたなら、弱者は大いに助かります。ここに名案が生まれたなら、今回のコロナウイルスも無駄ではなかったということになります。どなたか、頭のいい弁護士さんなどが私のブログをご覧になっていたなら、今回の風評被害の問題点を法律に解決して頂けないでしょうか。

 そのための活動なら私は積極的に動きます。よろしくお願い申し上げます。