手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

物の始まりは縁

 昨日は、踊りの稽古に行きました。帰宅後、道具の修理をしました。何をするわけでもないのですが、毎日用事があって、一日が過ぎて行きます。

 今日は、昼に神田明神の劇場で、手妻をいたします。今月は3回神田明神に出演します。但し貸し切りです。一般のチケット販売はありません。私の公演をご希望の方は、22日の玉ひでにお越しください。11時半開場、12時お食事、12時半開演。今回から若手が4組出演します。何とか若い人が出られるような舞台を作ろうと、毎月一回公演しています。来月は、9月は19日になります。

 今月、8月22日、入場料5500円、親子丼のお食事つき、ショウのみご覧になりたい方は2500円です。食事は前日正午までの事前予約が必要です。どうぞ人形町の玉秀にお越しください。通常2時間の行列のお店が、並ばずにお食事ができます。

 

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物の始まりは縁

 基本的な話になりますが、私は、先輩や友人のマジックショウや、他の芸能の公演を見に行くときには、相手に確認したうえで、生花などを贈ります。確認と言うのは、時として、ロビーに飾り切れないほど生花が並ぶ場合もあります。そんな時には有難迷惑になります。また、生花は、後かたずけに困る場合があり、主催者が遠慮される場合がありますので、その際にはご祝儀を持参します。

 それほど深いお付き合いではない場合は、事前に楽屋に挨拶に行きます。舞台は、開演前は忙しい場合も多いので、終演後に行く場合もあります。この際にお菓子等を持参する場合もありますが、ご招待を頂いた時には、土産は必要ですが、もし入場料を支払って伺うのであれば、手土産はあまり考える必要はありません。

 公演は、劇場を借りて行うため、終演後余り荷物が増えると、かたずけに苦労しますので、お菓子などを贈るのは良し悪しなのです。勿論相手と気持ちが通じ合っていて、相手の求めるものをご存知なら、土産持参も結構だと思います。

 何にしても、公演に伺う際には、自分が来ていることを主催者に伝える必要があります。それは同業者として、人の芸を見るマナーなのです。黙って見に来て、黙って帰ってしまうと言うのは許されません。同業で先輩後輩の関係なら、それは許されません。ところが、この最低のルールがわからないマジシャンがたくさんいます。全く縁がなければそれでもいいのですが、多少なりとも顔を合わせていて、知り合いで付き合いがあるならば、黙ってショウを見ることは失礼です。

 ましてや招待を受けた人が、楽屋に顔を見せずに黙って帰ってしまうのはいけません。ルール違反です。そんなことを日常繰り返していると、そうしたマジシャンは世間を狭くして生きる結果になるでしょう。

 招待を受けると言うことはその人と縁が、持てたことです。せっかく相手が縁を作ってくれているにもかかわらず、あいさつもなく礼も言わないで帰ってしまう人は、その先、相手にされることはないでしょう。

 我々がマジックを見せると言うことは、マジックを通して人の輪を作って行くことが目的なのです。仲間を増やして、理解者を増やして、そこから新たなお客様を作り、仕事を生み出し、後継者を発掘するのです。然し、元をただせば、たった一人のお客様と縁を作って、ショウを見てもらうことからすべてが始まります。

 縁とは何気ないものですが、然しながら簡単に出来るものではありません。人が私に興味を持ってくれて、なおかつ時間を使って、公演場所にまで見に来ようと考えるのは、相当に決断がいることです。実際に、自分が他の芸能や、映画を見に行くことを考えてみたならわかります。行こう行こうと思っていても、なかなか体がその方向に向かないものです。出かけて行って、なおかつ面白い、また来ようなどと思うことはよほどの縁なのです。そうであるならせっかくの縁を大切にしなければいけません。

 いい仕事のできる人、人を大切にする人は、日頃の人との接し方を見ていればわかります。大きな仕事をする人は、ちょっとした人との縁を大切にします。そうであるからこそ、その人に仕事の依頼が来るのです。人の善意を無にしてしまったり、感謝をしなかったり、横柄な応対をすれば、人はすぐに離れて行きます。

 どんなチャンスも初めはとても小さなきっかけから始まります。ちょっとした縁、これがこの先大きな仕事になると知っている人は、小さな縁を小さいとは思っていません。その気持ちがあるからこそ、必ず大きな仕事に発展をします。

 

袖触れ合うも他生の縁

 古いことわざで、袖(そで)触れ合うも他生(たしょう)の縁(えん)と言う言葉があります。他生を、多少と勘違いしている人がありますが、違います。他生とは前世のことです。ほんの行きずりの人と袖を触れ合ったことでも、実は、前世からの因縁で、あなたと付き合いを持つ縁がはるか昔から約束されていたのだと言う意味です。

もし昔の人が他生の縁を理解して人と付き合っていたなら大した哲学者です。

 こうして、コロナウイルスが蔓延すると、舞台のチャンスを失って、どう生きて行っていいか呆然としているマジシャンが多いと思います。そんな時でも、自分一人で何かをしようとすると、どうにもなりません。仲間を集めて、これまでの縁を生かしてお客様に声をかけて、ショウをするのです。大したことではありません。然し、こうした活動を繰り返してゆくことで、マジシャンの生活は何とかなるものです。

 他のアルバイトを探す前に、何とか自分の持っているテクニックで収入を上げられないものか、真剣に考えるのです。芸能で生きたいと思うなら、芸能で稼いでみせることです。そのためには常に、自分のショウを評価してくれるお客様を大切にすることです。まさに今のような時代になった時こそ、日頃の縁が問われます。

 大切なことは、これまでマジックの活動をしてきた際に、しっかりお客様と縁を作ったかどうかです。もしそれが出来ていなかったなら、今から始めることです。仲間や先輩のショウを見に行ったなら、楽屋に挨拶をしに行くことです。自分のショウを見てくれたお客様はほったらかしにしないで、はがきでもメールでもすぐに出すことです。小さな縁を少しでもふくらまして行くことです。そうした縁の積み重ねで、人はファンになってくれるのです。

 自分が人気商売であることを忘れないでください。お客様がいるから仕事が成り立つのです。チャンスを素通りさせていたり、ただ仕事が来ないことを嘆いていてもチャンスなんて来ないのです。縁は自らが作るものです。

続く