手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

マジッククラブ2

 私がブログを書くようになって早4か月、書いてゆくうちに、読者が文章を読んでどういう反応を示すのかがわかるようになってきました。

 私は多くの場合、誰もが当然と思っていることに疑問を持ちます。そして、人が普通にしていることに対して、それは一般社会では通用しないと言います。言われて読者は初めて自身の周囲を見直し、間違いを認識します。そして間違いの原因を人に求めます。その上で、問題となるような人を見つけると、一斉に攻撃を始めます。一度攻撃が燃え上がると、人は容赦しません。徹底的にたたきます。それが2,3日すると鎮静し、今まであったことはすべて忘れ去ります。

 種明かしの問題でも、今回のマジッククラブに巣食っている家元制度の問題にしても、自分たちは怪我をしないところに身を置いて、まるで他人事にように意見を言い、誰にも頼まれてもいないのに、人を裁こうとします。あなたにそんな力があるのですか。あなたがそこまでマジックの社会で人のために働いてきたのですか。そして、特定のスケープゴードを見つけるや否や一斉に攻撃が始まります。

 特定の人の攻撃は、個人のストレス解消には役立つかもしれません。しかし問題解決につながりますか。そもそも本当に問題解決を考えていますか。人の話に割り込んで、話を混乱させているだけではありませんか。そうした人がいくら騒いでも、問題は解決しません。もう少し本質を見つめてから考える必要があります。

 

 よく考えていただきたい、私の話は終わってはいないのです。私はマジッククラブの中に、なぜ家元のごとき会長が存在し、物売りをする会長がはびこるのかを知っています。問題の根源は会員の依頼心です。会員が何から何まで会長に任せっぱなしで自主的に活動をしないから、民主的なマジッククラブが育たず、いつしか、家元制度のような、一人の会長を生かすための組織に変わってしまうのです。

 その会長は悪い人でしょうか。いえいえ、おそらくとんでもなく有能な人のはずです。 会長は若いころは地元にマジックを普及させようと、熱心にマジックを演じ、マジック教室を開き、愛好家を募りました。ある程度集まったところで、地元の名称を付けたマジッククラブを立ち上げます。ここまでの会長の仕事は尊敬に値します。

 しかし、実際会員は、マジック教室の延長のような気持でクラブの活動を考えています。毎月3つ4つのマジックが習えることを当然と思い込んでいます。会長と会員は種でつながっているのです。会員は、「今日は何を教えてくれるんですか」。と言ってやってきます。まったく活動は受け身です。内容がつまらないと、「こんなものでなくて、もっと派手で、ぱっとしたものを教えてください」。毎月ロープやカードだけではつまらないと苦情を言います。

 仕方なく、会長はショップから道具を仕入れて来て、シルクものや、花の咲くマジックを見せると、会員は面白がって飛びつきます。いつしかクラブは道具販売の場に変わります。やがて、発表会をしようと言うことになります。

 すると会員は、手順つくりを会長に依頼します。会員が20人も30人もいたなら、その手順作りは膨大な仕事になります。それを無料で考えてあげます。その上、パンフレットも作り、チラシも撒き、市役所や市民会館と交渉をして、支援を取り付けることまでします。それらの一切を会員は会長に押し付けて、会員は当日、演技だけをして、満足に帰って行きます。よく考えて下さい。こうした行為の中で民主主義を平気で無視しているのは誰ですか。会長ですか、会員ですか。

 

 会長は考えます。もう自分の善意だけでは会の運営ができないことを知ります。どんなにきれいごとを言っても、実際働けば経費がかかり、全くの無収入では働き甲斐がありません。うまくしたもので、何年かクラブを維持すれば、ショップやメーカーともつながりができて、道具を安く仕入れることができるようになります。ここでうまく利益を上げれば、勤め人の月収くらいの収入は上がることがわかります。

 さて、この時点で会長の行動に変化が起きます。会長はこれまでクラブにしてきた行動に見返りを求めます。そして、クラブの活動が自己の収入になる方法を考え出します。勤めをしながらも、毎月別途の収入があることが、日頃のクラブへの不満を埋めて、会を運営することに別の喜びを感じるようになります。

 そこから先は会の私物化が始まります。クラブに指導家を呼ばない、よそのコンベンションに行かさない。おかしな行動ばかりします。しかし、結果ばかりを見て個人を批判しても問題は解決しません。今の会長が失脚しても、家元予備軍はいくらでも存在します。問題の解決は、個人個人が自立することであり、クラブの運営を協力することです。決して一人に任せず、みんなで仕事の分担をすることです。

 当たり前のことではありますが、そこから健全なクラブ活動が生まれます。「藤山さんそうは言っても、実際マジックを教えてくれる人がいなければ先々会は運営できませんよ」。その通りです。そのため外部の指導家を招くのです。同じ指導家だけでなく、複数の指導家から習うシステムを作るのです。道具の販売も、外に依頼するのです。

 クラブの中でも、指導のできる人がいれば定期的に習ってもよいのです。但し、クラブから謝礼を支払わなければいけません。余分な仕事を頼んだ時には謝礼を用意することは基本です。会員の中で、マジックショップをしている人がいたなら、そこから教材を買うこともかまいません。但し、毎回収入を得る人が同じではいけません。指導家も、販売店も変わるべきなのです。クラブの中で常に利益を受け取る人と、常に支払い続ける人がいてはいけません。

 時代が令和に変わり、そろそろマジッククラブも風通しの良い組織にしませんか。今のままでは年寄りだけの組織になってしまいます。高齢者がたくさんいてもいいのです。同時に若い人もいなければ健全なマジッククラブにはなりません。若い人を集めるにはどうしたらよいでしょうか。そのことはまた明日お話ししましょう。