手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

アマチュアのマジック人生

 今日から4日間、秋田から小野学さんが集中レッスンを受けに来ます。小野さんは八郎潟で大きな農業をしていらっしゃいます。農業と言うと、老人夫婦が小さな田んぼを維持している地味な仕事を創造しがちですが、小野さんは積極的に農業を大きな組織にして成功しているようです。冬場の農業は時間に余裕があるために、覚えたいマジックをまとめて習おうと、4日間、8時間のレッスンを受けるためにやってきます。

 むろん小野さんはアマチュアですので、覚えたマジックはボランティアで近隣の人に見せています。それでも、秋田県内では、東京まで行って習っている人はまずいませんので、ご近所の評判もいいようです。

 

 いいアマチュアと言うと、漠然とした言い方ですが、アマチュアは何が出来たらいいアマチュアと言えるのか、この答えを出すことは難しいことです。アマチュアと言っても色々ですので、研究を趣味とする人もいれば、コレクターのアマチュアもいます。クロースアップを一人で演じて決して人に見せないアマチュアもいます。

 例えば、人前でマジックを演じることに喜びを感じるアマチュアさんであったなら、まず、いろいろな演技をビデオなり、テレビで見て、どんな演技がいい演技なのかを自分なりに理解することです。その上で、自分に向いた手順を作って行くのですが、

 その際に、安易にマジックの種を買うことをおやめになることです。種を並べただけではマジックはできません。勿論、どうしても必要な道具なら買わなければいけません。しかし、コンベンションなどで、興味本位で小道具を衝動買いするのは、よほど注意することです。ご自身が新しい仕掛けに、時間と費用を投資することを半分に慎んで、仕掛け以外、つまりの芸の重要性に気づくところから、マジックを見せるアマチュアの生き方が見えてきます。

 

 では、マジックグッズの衝動買いを控えて何をすべきかと言うなら、5分程度の演技を習ってみることをお勧めします。私の一門でいう「型物」と言うマジックです。そこには、手順の完成度、種仕掛けのユニークさ、独自の振りや演出、あるいはストーリー、先人の工夫などがたくさん詰まっています。まずそれを学んで、マジックがどういう風に作られているかを知ることが大切です。

 ただやみくものネットやマジックショップで単発のマジックを買い集めても、ほとんどが生かせずに、押し入れの中に埋もれてしまいます。嘘か真か、まず1年間、いくらくらい自分がマジックの小道具を買っているのか計算してみることです。そして、投資した中でどれくらいの道具が生きているのかを調べてごらんなさい。きっとほとんどが無駄な投資になっているはずです。

 そうなら、初めから演技時間5分かかる型物を、そっくり丸ごと習ってみることのほうが、結果無駄はありませんし、授業料を含めても、安上がりです。型物の手順を習ってみると、手順と言うものがどういう風に作られているものなのか、細かい技術はどのようになっているのか、と、いろいろなことがわかります。まず基本に忠実に、いくつかの型物を覚えることが結果として上達の近道です。

 型物をいくつか習って、人前で見せてみると、それまで自分で適当につなぎに合わせたマジックと比較して、格段に受けが違うことがわかります。受けると言う評価を手に入れると、周囲の人の見る目が変わってきます。この時始めて、例えボランティアだからと言って、適当にマジックをしていていいと言うものではないことがわかります。

 アマチュアだからこんなものでいい、好きでしていることだから、好きにやりたい。それはその通りです。アマチュアなんですから、どんなことをしてもいいのです。しかし、それでは世間の評価は今以上には上がりません。

 今の演技では、本当の意味で、人を楽しませる域に達していないのかもしれません。ボランティアをするにも、あっちからも、こっちからも、依頼が集中して、かかってくる電話の半分以上お断りしなければならないほど忙しい人もいます。そういう人になるためには、今以上に自分自身がマジックを深く理解しなければ、人の興味を集めることはできないのです。

 これは言ってみればプロの求道心と同じです。プロが一体何を考えてマジックをしているのだろうか。と、プロの生き方をなぞってみることがアマチュアとしての成功をつかむ最短距離になります。プロの生き方がわかると、ステージに安定感が出てきますので、周囲の人も、安心してみていられます。自然に周囲からも演技が評価されます。すると、演じるほうも、マジックをすることが自然に面白くなります。

 勿論、独自のマジックを開発して、手順を作って行くことも素晴らしいことです。しかし初めの内は基本を忠実に守ってマジックを練習することが大切だと思います。

「アマチュアはプロの心で、プロはアマチュアの心で」、と、私のよく言う意味はこのあたりにあります。アマチュアは少しプロ意識を備えたくらいが、周囲も信頼しますし、信頼を得てするマジックは面白い人生を体験できます。