手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

何と言うこともなく

何と言うこともなく

 

 これまでブログを4年半にわたって書き綴って来ました。私は若いころから、何か面白そうなことがあると、手帳にメモをして書き溜めてていました。それはまとまったものではなくて、単なるメモとして書き綴っていたのです。

 いわば私のネタ帳のようなもので、面白そうな話を見聞きするたびに書いておいて、後で新幹線などに乗った余暇に、メモを見直して、少し聴き手を意識して、起承転結を考え、簡単な話を拵えます。

 これが舞台で素の喋りをするときに随分役に立ちます。テレビのインタビューなどでも、舞台上での司会者との会話でも、全く唐突に、マジックと関係のない話を振られたりした時に、どぎまぎしてまとまらない台詞を言わないように、自分の考えとして世相が言えて、しかも、適当にひねりのある喋りが出来たなら、気が利いています。

 話術と言うのは、口先の技術だと思っている人がありますが、違います。日頃から色々物事をよく見聞きして、話を作っておかないと、咄嗟にうまくしゃべることは出来ません。私は常に喋りネタを書き留めていました。無論喋りと言うのは生ものですから、書いておいても、話はどんどん古くなって使えなくなります。

 書いても書いてもほとんどは捨ててしまいます。私自身の舞台で、話の冒頭に少し使ったり、お客様との雑談の時に、面白い話を提供するためにこころがけているわけです。それらを只書いて雑談に使ってしまうのは勿体ないと考え、ブログに載せてみようと考えるようになりました。4年半前のことです。

 この時、自分自身でルールを作りました。1、内容は自由。日頃考えたこと、見聞きしたことを2000字から2400字(原稿用紙5枚~6枚)にまとめて書く。 2、日曜日以外毎日書く。3、なるべく初心者にもわかるように平易に、面白いことを書く。4、専門的な話でも、分かりやすく書く。5、最低3年は続ける。

 そうしたルールで今まで続けて来ました。幸い3年は達成して、5年目になりました。パソコンが故障したり、体調不良になったりすることもあって、時間が半日、時に一日遅れることもありましたが、とにかく、何とか続けることが出来ました。

 

 私の理想とする作家は、吉田兼好法師で、作品は無論「徒然草(つれづれぐさ)」です。無欲で、恬淡としていて、世相の見方は客観的、もう自分のなすべき仕事を終えて、余生で穏やかに世間を眺めている書きぶりです。あんな風にふんわり世の中が見られたらどんなに素晴らしいだろうと思います。

 「徒然なるままに、日ぐらし硯(すずり)に向かいて、心に移り行くよしなごとを、そこはかとなく書きつれば、あやしうこそ物狂おしけれ」。

 

 兼好法師は、坊さんで、京都の仁和寺の中に住居があって、決して食い詰めた坊さんではなくて、当時の文化人の一人だったようです。そうした兼好法師に憧れているとは言っても、私の駄文が徒然草と比べてとやかく言うものでない事はよく承知をしております。別段随筆家になりたいと言うわけではありません。

 飽くまで思い付いたことを形にして、人に面白いと思っていただくにはどうしたらいいか、を自分自身で考えて実践しているわけです。

 先ず、2000字の原稿の約4分の3までは、自分の見たこと、考えたことをつらつら書きます。その中に、歴史的な事件を交えたり、過去の経験談を照らし合わせたりします。そして、1500字を過ぎたあたりから、新たな疑問を加えます。「本当にそれでいいのだろうか?」。と疑問をぶつけます。そして結末に向かうのですが、そのお終いも、当然であるかのように、「こうあるべきだ」。とはかけません。何しろ私はあらゆる点において素人ですから、大上段にものを構えて説教がましく話をまとめることはできません。大概は話を急旋回して、くだらなく落としたりします。

 これが私のブログのお決まりの展開です。これを毎日、朝5時から、朝食を食べる7時30分までに書き上げます。朝食を食べたその後に、一度見直して、ネットにに出します。この途中に来客が来たり、弟子の稽古を見なければならない時などは、少し大変です。それでも毎日何とか続けています。

 

 ブログを書くようになって、話をまとめる才能が身について来ました。新聞を読んでも、人の話を聞いていても、「あぁ、この話はまとめれば2000字で書けるなぁ」。とか。「この話の転換部分は1600字くらいのところに来るかなぁ」。とか、頭に中にある原稿用紙でおよその寸法が読めるようになりました。その上で、「ここは思いっきり違った結末を出して終わらせなくてはいけない」。などと考えて、ひねった答えを出します。

 実はひねりと言うものが簡単ではなくて、時には、半日もかかって答えを導き出すこともあります。別段人に期待もされていないようなブログで、そこまで悩む必要はないのですが、それでも、私の作品である以上、何か特別な世界を見せたくて、かなり悩みます。

 まぁ、こうして書き続けて行くと色々な技法をマスターして、長い文章も頭の中で容易に話の組み立てられるようになります。人の会話が字数で読み取れるようになると言うのは、これも才能の一つでしょうか。

 何かをずっと続けると言うのは、それまで備わっていなかった新たな才能が自然と身に付いてくるものなのだと知りました。面白い発見です。

 但し、2時間弱で書き上げる雑な文章ですから、本当はもっと丁寧に読み返していい文章に仕上げたいのですが、それが果たせず心苦しく思っています。

 いずれここから出来の良いものを選んで、一冊の本にまとめようとする奇特な出版社も出て来ないとも限りません。そうした支援者の現れることを密かに願って、ひぐらしブログを書き綴って、物狂おしけれをしています。

 それでも、宝くじを買って大当たりをすることと、出版社が私のブログを本にすることと、どちらが確率が高いかと考えたなら、多少は、本の方が確率が高いのではないかと思います。但し、数億円と言うような大当たりはありません。せいぜい数十万円の、三等賞くらいの当たりでしょう。ささやかな願望です。

まぁ、あまり期待をなさらずにお付き合い下さい。

 続く