手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

スライハンドこもごも

スライハンドこもごも

 

 さて、公演の翌日(29日)。私はキタノさんに車で道頓堀まで送ってもらいました。半日時間がありますので、あちこち挨拶に行こうと考えていました。ところがです。どうも体調が思わしくありません。朝からずっと変なのです。

 「一体何があったのだろう」。と考えていました。先ず早朝6時に起床して、チチンプイプイの感想をブログにしました。いつもやっている仕事です。座って作業をします。然し、体のあちこちが痛いのです。ずっと同じ姿勢でパソコンが出来ません。

 いやそれだけでなく、普通に立って歩くことができません。よたよたします。椅子に腰を下ろすと、腰や膝が痛いのです。立っても座っていても足腰が痛いのです。それでも少し体を休めたなら、どうにかなるだろう、とお茶などを呑んで、11時半に不安な状態のまま、道頓堀まで来てしまいました。

 幸い荷物は先に東京に送ってありますので、小さな鞄一つです。然し、普段通りにスイスイ歩くことができません。よたよたもたもたとまるで年寄です。仕方なく喫茶店に入り、不調の原因をしみじみ考えてみました。冷静に考えれば、昨日の舞台がきつすぎたのです。

 私のスライハンドと喋りのマジックが30分くらい、その後で対談が30分、そしてお客様と写真撮影10分。約1時間10分くらいの仕事を3回したことになります。3時間半の労働は堪えました。いつもの手妻のアクトならこうまで気を使うことはなかったでしょう。カードマニュピレーションを演じて、気が張っていたのです。それでも一昨晩は気持ちで支えていたので難なく出来ましたが、その翌日、朝になって体に痛みが出てきたのです。

 立ち上がることも、歩くことも痛みを感じます。今までどんなにハードな仕事をしても、翌日まで疲労が続くことなどありませんでした。リサイタルの後だって一晩寝たら疲労が取れました。それが大阪の土地でこんなことになろうとは。さてどうしよう。と考えて、大阪での全ての日程をキャンセルして、とにかく東京に戻ることにしました。

 新幹線の中では、いつもはパソコンを出して、デスクワークをしたり、ブログの記事を書いたりするのですが、ハイボールの缶を買って飲み始めたら、止まりません。体が水分を求めています。あっという間にロング缶を飲み干し、そのままぐっすり寝てしまいました。

 

 スライハンドの演技プラス喋りの手順。と言うスタイルは、昔から私がやっていた方法です。スライハンドマジシャンは喋りが不得意な人が多く、喋らずにマジックをする人が多かったのです。然し、それでは長い演技は出来ませんし、第一お客様はマジシャンのパーソナリティーに興味があって、その人となりを知りたいのです。

 そんな時に、わずか8分9分程度の演技をして、それで終わりと言うのは、お客様からすると、余りに一面しか語られていないのです。マジシャンと一緒に不思議の世界を旅したいと考えているお客様の要望に応えるとしたなら、マジシャンは、もっともっと多方面から自己表現をしなければなりません。

 喋りと言っても、型の決まったお喋りマジックをするだけではいけません。マジックに関係なく、普通に話が出来て、普通に人の心を引き引き付けられるようでなければタレントとしての魅力にはつながらないのです。

 スライハンドマジシャンがなぜ低迷して行って、仕事場を失って行ったのか、と言えば、演技時間があまりに少なすぎて、時間的な満足を与えられなかったからです。無論、マジシャンも、その点は承知していて、後半にイリュージョンを足したり、喋りマジックを足すなどして、時間を長くして演じてはいましたが、問題はそこにトータルななイメージがなかったのです。

 取ってつけたような箱ものマジックを加えていたり、まるで付け足しのようなお喋りマジックをすると、余りに下手な喋りで、せっかくスライハンドで夢のある舞台を作っておきながら、お喋りで観客の夢を壊してしまうような場合が多かったのです。

 つまり9分なら9分のスライハンドの演技をして、それからごく自然に普通の会話をし、そして洒落た喋りのマジックが有り、そして取りネタを演じる。こうした構成を考えて、30分なり40分のショウを作り上げる。それら一切をひっくるめてスライハンド手順と考えなければ、スライハンドの依頼など来ないのです。

 せっかくスライハンドが素晴らしくても、喋り出すと下品になって、いきなり世界観が崩れてしまうマジシャンを私はこれまで何十人も見て来ました。自身の夢の世界がまとまり切れていないのです。

 

 さて、私のスライハンドをこれからまとめて行くとして、これで普通の公演をして、多くのお客様が買ってくれるものかどうか。お客様が買いたい、見たいと思うには、もっともっといろいろな要素が絡まないと難しいのではないかと思います。

 そうなら何をしなければならないか。それをこの一年で作って行こうと考えています。一昨日、円形の小さなテーブルに、12本リングを乗せて、リングの真ん中にシルクハットを置き、シルクハットの中に、ロープやシンブルを入れた姿は、決して雑然としていないし、おもちゃ箱をひっくり返したような粗末な道具には見えません。巧くまとまりがあってこれはまぁいいかなぁ、と思います。

 但し、一つ一つの内容がもっと気が利いていなければいけません。素材を造り替えることも大切です。今までにない素材でマジックを作り上げてみたいと思います。人がおやっと思うような個性的な売り物を考えなければいけません。世間にどうアピールして行くかが、私のセンスが問われるのだと思います。簡単ではありません。でもそれだから面白いのです。

 さて、こうしてブログを書いていると、足腰の疲労はかなり治まって来ました。まさか立てない歩けないなどと言うことになるとは思いもしませんでした。今日は少し動いてみようと思います。新しいスライハンド手順のために練習をしてみます。

続く