手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

雨中玉ひで 

雨中玉ひで

 

 朝から雨が降ったりやんだり、ときに激しく降りそそぎ、空は低く鼠色の雲がかかっています。何ともうっとおしい天気です。そもそもコロナでお客様が少ないと言うときに、この雨ですから、一層お客様の集まりも期待できません。

 然し、こんな時こそいい内容を目いっぱい演じなければいけません。雨の中を来て下さったお客様に、「あぁ、やっぱり来てよかった」。と喜んでいただけたら幸いです。

 

 今日の出演は、前田将太、せとなさん、ザッキーさんの三本。それにいつも司会で出ている穂積みゆきさんが袖卵を演じます。

 一本目は前田将太の手妻。三段返し。三段返しとは、米と水、それに紙うどんを合わせた作品です。

 私は子供のころ、米と水と言う奇術が嫌いでした。どちらかと言うとアマチュアさんのやる奇術で、たまにプロが演じるのを見ても、演技に面白みが感じられなかったため、自然につまらない奇術なんだと思い込んでいました。

 然し、30を過ぎてから、この奇術はなかなかの名作だと気付きました。先ず、二つのお椀だけで、米が二倍に増えたり、増えた米が水に変わったりするのが実にシンプルで素晴らしいアイディアだと思いました。

 そして種が秀逸です。その昔は仕切り板に雲母板(うんもばん)を使ったそうです。今は雲母事態を見ることが無くなりました。アクリル板などで間に合うためでしょう。

 前田はこのところ喋りの技術の大切さに気付き、頻繁に喋りの手妻を演じたがるようになりました。良いことです。プロマジシャンとして生きて行けるかどうかの決め手は、喋りのうまさにかかっています。喋りがうまければ一生生活に不自由せずに生きて行けます。

 まだ真面目に語ることで精一杯ですので、面白みはありませんが、しっかり喋ろうとしているのは好感が持てます。またところどころ笑顔が出てきたのは上達の証しです。今日の喋りはまずまずでした。

 

 せとなさんは、初めにコインを空中から摘まんで取り出し、それがまた消えて無くなる演技をしました。きれいに演じています。出たものがみんななくなってしまう、と言うのがテーマのようですから、ここはもっと強調して演じたほうがよいでしょう。その後、グラスとウォンドで全体をまとめようとしていますが、ウォンドが何なのかがよくわかりません。

 カードの箱を取り出して、中からコインパースが出て来て、箱の中は空、と思わせて箱からデックがそっくり出て来ます。不思議ですが、道具が細かいのでどうしても演技が小さくなります。これではクロースアップです。もう少し世界を広げて、演技を加味して、より舞台芸として作り直したほうが良いと思います。

 ここでいろいろ喋りが始まりますが、最近喋りに慣れてきたせいか余計にしゃべりすぎます。言葉は必要最小限の喋りにしなければいけません。必要以上に喋ると、進行が遅れて、もたもたして見えます。その分効果も下がります。

 お終いはボールとウォンドの変化を立て続けに見せて、面白くまとめています。才能は感じます。然し、マジックの中だけで手順を作らずに、演技を取り入れて、ショウ構成を考えたほうがいいと思います。

 

 ザッキーさんは、コインを空中から出して、それをハンカチで消して、またハンカチから出す。フレッドカプスの応用。そこからワイングラスを出して掴みは終わり。次にチャイニーズステッキの三本使った演技。新規に製作したそうですが、そもそもチャイニーズステッキが三本と言うのが使いづらく、どうもやりにくそう。扱い方も今一歩。

 そのあとライジングカードの釣竿吊り。前回の玉ひででも演じています。ここから私は自分の衣装を着るために楽屋に行き、ザッキーさんを見ることが出来ませんでした。

 

 あがって行くと、穂積みゆきさんが袖卵を演じるところでした。みゆきさんは手妻は初舞台。大分緊張しているようでしたが、それでもいい形で見せていました。

 

 その後が私。久々に傘出しの手順。ギヤマン蒸籠や二つ引き出しで傘を出し、お終いは人力車で引っ込みました。

 そのあと相生茶碗。これはコップ吊りとか言って昔子供用のマジックセットに入っていました。然しこれは日本のオリジナルマジックで、手妻です。実際演じてみると結構不思議です。

 そして札焼き、私の好きな手妻で、玉ひででも何度か演じています。お札を紙で包み、焼いてしまいます。それが別のところから出て来ます。手妻の中ではきわめて不思議な作品です。としてもよく出来ています。

 そのあと前田の演じる金輪の曲。そして蝶のたはむれ。全員で7人のお客様は少し寂しかったですが、よく雨の中を来て下さって感謝です。

 その中に、カズカタヤマさんが生徒さんと一緒に見に来てくれました。終わって楽屋でいろいろな話をしました。面白い一日でした。

 

 今日(19日)からは富士、名古屋、大阪と指導の旅に出ます。明日(20日)はブログをお休みします。明後日に名古屋のホテルでまたブログを書きます。

続く