手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

寂しくて寂しくて

寂しくて寂しくて

 

 大谷選手と水原一平さんの問題は、未だ解決してはいませんが、世間の話題からは徐々に遠ざかりつつあります。然し、大谷選手の心のうちはまだ回復していないように思えます。毎日試合に出ている大谷選手を見ると、心なしか寂しげです。

 こと野球に関しては超人的な才能を持った人ではありますが、その分、全てのことを犠牲にして、野球のみに集中して生きてきました。そのため、大谷選手には付き人が必要なのです。

 通訳。自動車の運転。買い物。ファン対策。スケジュールの把握。スポンサーとの契約。パーティーへの出席。テレビ出演。インタビュー。日常の些細なことでも、大谷選手にとっては分からないことだらけです。そのため全てのことをやってのけるマネージャーが必要なのです。

 慈善団体から寄付の依頼の手紙などやたらと届くでしょう。それらをどう扱うのか、どれが正しくて、どれが詐欺なのか、恐らく大谷選手には調べるすべもないでしょう。その日にスーパーマーケットで買った野菜や肉も、本当に適正価格だったのかどうかもわからないのです。こうしたことは日頃他の店の商品と比較することで相場を見る目が養われて行くわけで、買い物をほとんどしない大谷選手には、レタスの価格も卵の価格もわからないのです。

 普通に社会に暮らす人からすれば、何でもない日常のルールを、大谷選手は何一つわかっていないのです。そのことで当人は、日々大きなプレッシャーを抱えているはずです。世の中の仕組みが分からない、とか、常識が分からないと言うことは、心の不安につながります。

 それらすべてのことを水原一平さんに任せていたため、いきなり一平さんがいなくなってしまうと、何から何までどうしていいのかわからず、不安が募るのでしょう。

 「それを奥さんに頼んだらいいじゃないか」。と思う人もあるでしょう。これは私の推測ですが、大谷選手は、奥さんを自分の仕事場に引き込むことを絶対にしたくないのでしょう。もしマネージャーの仕事を奥さんが引き受けてしまうと、大谷選手にすれば、プライベートな生活も、野球もみんな一つになってしまい、プライベートが無くなってしまいます。

 そうなると大谷選手は心休まる時がないのです。野球の時には野球に没頭して、いざ家に帰って夫婦で生活をするときには一切野球に関する話がない、そんな生活がしたいのでしょう。その気持ちはよくわかります。

 私事で恐縮ですが、私の家では、一階のアトリエと二階の事務所まではマジックの道具が置いてありますが、三階から上の自宅スペースには一切マジック道具はありません。あえて持って行かないようにしています。そうしないと、いつでもマジック漬けの生活になって心が休まらないのです。どこかで区切りを付けないと、気持ちの切り替えができません。

 大谷選手も同じなのでしょう。奥さんにマネージメントはさせられないのです。恐らく奥さんには野球の話をしないように求めているのでしょう。奥さんといる時だけは気分を変えたいのです。その気持ちはよくわかります。

 有名人は毎日たくさんの人と顏を合わせることで、知らない知識を身に着けている。と考えている人がいますが、実際、人とたくさん会うことはしても、ほとんどは挨拶をするのみで親しく話をすることはありません。むしろ有名になればなるほど人との付き合いは狭くなり、同じ業界の人とばかり話をすることになります。人間関係は物凄く狭くなります。そうした中、少しでも変わった考えの人と会いたい。別の知識を学びたい。と思う気持ちが強くなります。その時、せめて近しい人たちからでも、違う考えで生活している人と話がしたいのです。家庭を持つと言うことは全く違う生活をしている人と語り合うチャンスなのです。

 話を戻して、当面、一平さんに変わるマネージャーが至急必要になります。通訳とマネージャーが別の人でもいいでしょう、とにかく人が必要です。然し、これが簡単には見つからないのです。

 何しろ朝起きてから夜眠るまで、付きっ切りで大谷選手の面倒を見なければならないのです。一日の労働時間は15時間に及び、一週間の労働時間は100時間に及ぶでしょう。何から何まで先回りをして、仕事をしてくれる、そんな片腕が必要なのです。

 大谷選手にすれば、内心は、一平さんに対して、金を盗んだことはなかったことにして、明日からでもまた働いてもらいたいのでしょう。然し、それは許されません。

 世の中のことが何から何までうまくいって、全てを自身が手に入れることなどできないのです。奥さんを手に入れると、一平さんがいなくなってしまいます。両方いたならどれほど幸せだったことか、いなくなって一平さんのありがたみが分かります。

 

 同時に、一平さんにすれば、野球以外のことは何もわからなくて、それでいて、何十億もの金を簡単に稼いで見せるような怪物が自分の近くにいたのなら、世間知らずに付け込んで、少し横領したい気持ちになるのかも知れません。

 少しくらい廻してもらいたい。と思って使い込んでいくうちに、いつしか誰の金だかわからなくなって行きます。

 恐らく一平さんは、昨年の大谷選手の輝かし活躍の中で、「このままでは自分と大谷選手との関係も終わってしまう。どうしたらいいだろう」。と一人悩んでいたことでしょう。

 そんな時にギャンブルで一発逆転して、パッと借金が返せたなら、どれほど幸せだったことか。ところが世の中はそんな風に上手くは行きません。消えた金は戻らないのです。大谷選手が日々レジェンドの伝説になってゆく過程で、一平さんの人生は逆風が吹きまくり、ついに破局を迎えたのです。

 一平さんは大谷選手の数億円の金を溶かした男として、ラスベガス当たりのカジノの支配人でも引き受ければ、名物男として人気が集まるでしょう。大王製紙の井川さんじゃありませんが、居直って生きたなら生きて行く道はいくらでもあります。

 ただ、大谷選手は寂しげです。思っていた以上にメンタルの弱い人なのです。早く心を平常に維持して、野球にシフトして行ってください。

続く